欧州特許審査ガイドラインG-II, 3:特許性からの除外事項の一覧(2024年版)

EPC第52条(2)には、特許を受けることができる発明から除外される事項がリストされています。また、EPC第52条(3)には、(2)にリストされている事項は、それ自体に(as such)関係している範囲内においてのみ、特許性が排除されると規定されています。

つまり、EPC第52条(2)にリストされている事項に該当する場合であっても、それ自体を超えた対象についての特許性は、EPC第52条(2)を理由に除外されません。

第52条 特許を受けることができる発明
(1) 欧州特許は、産業上利用することができ、新規であり、かつ、進歩性を有するすべての技術分野におけるあらゆる発明に対して付与される。
(2) 次のものは、特に(1)の意味における発明とみなさない。
 (a) 発見、科学的理論及び数学的方法
 (b) 美的創作物
 (c) 精神的行為、ゲーム又はビジネスのための計画、規則及び方法並びに電子計算機用プログラム
 (d) 情報の提示
(3) (2)は、欧州特許出願又は欧州特許が同項に規定する対象又は行為それ自体に関係している範囲内においてのみ、当該対象又は行為の特許性を排除する。

以下は、特許性からの除外事項の一覧について説明する審査ガイドラインのG-II, 3の記載(2024年版)の参考和訳です。正確な内容は原文を確認ください。

欧州特許審査ガイドラインG-II, 3:特許性からの除外事項の一覧(2024年版)

3. 除外事項の一覧

第52条(2)にリストされた項目をここで順番に取り上げ、さらに例を挙げて、第52条(2)及び(3)により特許性から除外されないという意味で特許可能なものとそうでないものとの区別をより明確にする。

3.1 発見

既知の材料又は物品の新しい特性が発見された場合、それは単なる発見であり、特許可能ではない。なぜなら、発見それ自体には技術的効果がなく、したがって第52条(1)の意味における発明ではないからである。しかし、その特性が実用化されれば、特許可能であってもよい発明を構成する。例えば、ある既知の材料が機械的衝撃に耐えるという発見は特許可能ではないが、その材料で作られた枕木は特許可能である可能性が十分にある。自然界に存在するこれまで認識されていなかった物質を発見することも単なる発見であり、特許可能ではない。しかし、自然界で発見された物質が技術的効果をもたらすことを示すことができれば、特許性を有する可能性がある。そのような例として、自然界に存在する物質が抗生作用を有することが見出された場合がある。また、微生物が自然界に存在し、抗生物質を生産することが発見された場合、その微生物自体も発明の一態様として特許可能であるかもしれない。同様に、自然界に存在することが発見された遺伝子は、技術的効果、例えば、特定のポリペプチドの製造や遺伝子治療への利用が明らかになれば、特許可能であるかもしれない。

バイオテクノロジー発明に関するさらに具体的な問題については、G-II, 5, 5.3から5.5、及びG-III, 4を参照のこと。

3.2 科学理論

これらは発見をより一般化したものであり、G-II, 3.1で述べたのと同じ原則が適用される。例えば、半導体の物理理論は特許可能ではない。しかし、新しい半導体装置やその製造方法は特許可能であるかもしれない。

3.3 数学的手法

数学的方法は、あらゆる技術分野における技術課題の解決に重要な役割を果たす。しかし、それ自体としてクレームされた場合、第52条(2)(a)に基づき特許性から除外される(第52条(3))。

この除外は、クレームが純粋に抽象的な数学的方法に向けられ、クレームがいかなる技術的手段も必要としない場合に適用される。例えば、抽象的なデータに対して高速フーリエ変換を行う方法であって、いかなる技術的手段の使用も特定していないものは、数学的方法それ自体である。純粋に抽象的な数学的対象又は概念、例えば、特定のタイプの幾何学的対象又はノードとエッジを有するグラフは、方法ではないが、技術的性質を欠くので、第52条(1)の意味における発明ではない。

クレームが、技術的手段(例えばコンピュータ)の使用を伴う方法又は装置のいずれかに向けられたものである場合、その主題は全体として技術的性質を有するので、第52条(2)及び(3)の規定により特許性から除外されない。

数学的方法のデータやパラメータの技術的性質を単に特定することは、それだけで第52条第1項の意味における発明を定義するのに十分ではないかもしれない。結果として得られる方法が、第52条(2)(a)及び(3)の意味において純粋に抽象的な数学的方法それ自体とみなされないとしても、技術的手段の使用が暗示されない場合には、そのような精神的行為それ自体を行うための方法という除外されたカテゴリーに該当する可能性がある(第52条(2)(c)及び(3)、G-II, 3.5.1参照)。

クレームされた主題が全体として第52条(2)及び(3)の規定により特許性から除外されず、したがって第52条(1)の意味における発明であることが立証されると、特許性の他の要件、特に新規性と進歩性に関して審査される(G-I, 1)。

進歩性の審査においては、発明の技術的性質に貢献するすべての特徴を考慮しなければならない(G-VII, 5.4)。クレームされた発明が数学的方法に基づいている場合、その数学的方法が発明の技術的性質に貢献しているかどうかが評価される。

数学的方法は、技術分野への応用及び/又は特定の技術的実装への適合によって、発明の技術的性質に貢献する、すなわち、技術的目的を果たす技術的効果をもたらすことに貢献することができる(T 2330/13)。これら2つの状況を評価するための基準を以下に説明する。

技術的応用

発明の技術的性質に対する数学的方法の貢献を評価する際には、その方法が発明の文脈において、技術的目的に資する技術的効果を奏するか否かを考慮しなければならない。

数学的方法の技術的貢献の例としては、以下が挙げられる:

– 特定の技術システム又はプロセス(例えば、X線装置又は鋼鉄冷却プロセス)を制御する;

– 所望の材料密度を達成するために必要な成形機のパス回数を測定値から決定する;

– デジタル音声、画像、又は映像のエンハンスメント又は分析。例えば、ノイズ除去、デジタル画像内の人物の検出、送信されたデジタル音声信号の品質推定など;

– スピーチ信号の音源分離、スピーチ認識、例えばスピーチ入力をテキスト出力にマッピングする;

– 信頼可能及び/又は効率的な伝送又は保存のためのデータの符号化(及び対応する復号化)、例えば、ノイズの多いチャネル上での伝送のためのデータのエラー訂正符号化、音声、画像、ビデオ又はセンサーデータの圧縮;

– 電子通信の暗号化/復号化または署名;RSA暗号システムにおける鍵の生成;

– コンピュータネットワークの負荷分散を最適化する;

– 生理学的センサーから得られたデータを処理することにより、被験者のエネルギー消費量を決定する;耳温度検出器から得られたデータから被験者の体温を導出する;

– DNAサンプルの分析に基づく遺伝子型の推定値を提供すること、及びこの推定値の信頼区間を提供し、その信頼性を定量化すること;

– 生理学的測定値を処理する自動化システムによる医療診断。

「技術的システムを制御する」というような一般的な目的では、数学的方法に技術的性質を付与するには不十分である。技術的目的は具体的なものでなければならない。

さらに、数学的方法が技術的目的を果たし得るという事実だけでは不十分である。クレームは、明示的又は黙示的に、技術的目的に機能的に限定されなければならない。これは、例えば、一連の数学的ステップの入力及び出力がどのように技術的目的に関連するかを特定することによって、数学的方法が技術的効果と因果的に関連するように、技術的目的と数学的方法のステップとの間に十分な関連を確立することによって達成することができる。

数学的方法に入力されるデータの性質を定義することは、数学的方法が発明の技術的性質に貢献することを必ずしも意味しない(T 2035/11, T 1029/06, T 1161/04)。

間接測定の場合のように、物理的特性の測定から既存の現実の物体の物理的状態を導出又は予測するために数学的方法のステップが使用される場合、それらのステップは、結果がどのように使用されるかに関係なく、技術的貢献を行う。

技術的実装

クレームが数学的方法の特定の技術的実装に向けられ、数学的方法が、その設計がコンピュータ・システム又はネットワークの内部機能の技術的考察に動機付けられるという点において、その実装に特に適合している場合、数学的方法は、技術的応用とは無関係に発明の技術的性質に貢献することもある(T 1358/09, G 1/19) 。これは、コンピュータの記憶容量やネットワーク帯域幅の効率的な使用といった技術的効果をもたらすために、数学的手法が実装される技術システムの特定の技術的特性を利用するように設計されている場合に起こり得る。例えば、コンピュータハードウェアのワードサイズに合わせたワードサイズシフトを利用するための多項式削減アルゴリズムの適応は、そのような技術的考察に基づいており、当該アルゴリズムの効率的なハードウェア実装という技術的効果をもたらすことに貢献することができる。別の例としては、機械学習アルゴリズムのデータ集約的な学習ステップの実行をグラフィカル処理装置(GPU)に割り当て、準備ステップを標準的な中央処理装置(CPU)に割り当てることで、コンピューティングプラットフォームの並列アーキテクチャを活用することができる。この数学的方法が技術的性質に貢献するためには、クレームはGPU及びCPU上のステップの実装に向けられるべきである。

計算効率

数学的方法が技術的目的を果たさず、クレームされた技術的実装が一般的な技術的実装を超えない場合、その数学的方法は発明の技術的性質に貢献しない。このような場合、技術的効果を立証するためには、数学的方法が先行技術の数学的方法よりもアルゴリズム的に効率的であるだけでは不十分である(G-II, 3.6も参照)。

しかし、数学的方法が技術分野に応用され、及び/又は特定の技術的実装に適合されることによって技術的効果をもたらすことが立証される場合、その立証された技術的効果に影響を与えるステップの計算効率は、進歩性の評価において考慮される。計算効率の向上が技術的効果として認められる例については、G-II, 3.6.4を参照のこと。

3.3.1 人工知能及び機械学習

人工知能及び機械学習は、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、サポートベクターマシン、k-means、カーネル回帰、判別分析など、分類、クラスタリング、回帰、及び次元削減のための計算モデル及びアルゴリズムに基づいている。このような計算モデル及びアルゴリズムは、訓練データに基づいて 「訓練 」できるかどうかに関係なく、それ自体が抽象的な数学的性質を持っている。従って、G-Ⅱ, 3.3 のガイダンスは、一般に、このような計算モデル及びアルゴリズムにも適用される。

「サポートベクターマシン」、「推論エンジン」、「ニューラルネットワーク」などの用語は、文脈に よっては、単に抽象的なモデル又はアルゴリズムを指す場合があり、それ自体では必ずしも技術的手段の使用を意味しない。このことは、クレームされた主題が全体として技術的性質を有するか否かを検討する際に考慮されなければならない(第52条(1)、(2)及び(3))。

人工知能及び機械学習は、様々な技術分野で応用されている。例えば、不整脈を識別する目的で心臓監視装置にニューラルネットワークを使用することは技術的貢献である。低レベルの特徴(例えば画像のエッジやピクセル属性)に基づくデジタル画像、ビデオ、音声又はスピーチ信号の分類は、分類アルゴリズムの更なる典型的な技術的応用である。人工知能及び機械学習が使用され得る技術的目的の更なる例は、G-II, 3.3のリストに見出すことができる。

しかしながら、テキスト文書をそのテキスト内容のみを考慮して分類することは、それ自体技術的な目的ではなく、言語的な目的とみなされる(T 1358/09)。抽象的なデータ記録、又は「電気通信ネットワーク・データ記録」であっても、結果として得られる分類が技術的に利用されることを示すことなく分類することも、たとえ分類アルゴリズムが頑健性のような価値ある数学的特性を有すると考えられるとしても、それ自体は技術的目的とはみなされない(T 1784/06)。

分類方法が技術的目的を果たす場合、訓練セットを生成するステップ及び分類器を訓練するステップも、その技術的目的の達成を支援するものであれば、発明の技術的性質に貢献する可能性がある。

機械学習アルゴリズムが達成する技術的効果は、説明、数学的証明、実験データ等によって容易に明らかに又は立証することができる。単なる主張だけでは十分ではないが、包括的な証明も要求されない。技術的効果が使用される訓練データセットの特定の特性に依存する場合、技術的効果を再現するために必要な特性は、当業者が一般的な知識を用いて過度の負担なく判断できる場合を除き、開示されなければならない。しかし、一般的には、特定の訓練データセットそのものを開示する必要はない(F-III, 3及びG-VII, 5.2も参照)。

3.3.2 シミュレーション、設計又はモデリング

シミュレーション、設計又はモデリングの方法を対象とするクレームは、通常、数学的方法又は精神的行為を実行する方法の範疇に入る特徴を含んでいる。したがって、クレームされた主題は、全体として、第 52 条(2)(a)(c)及び(3)に定める特許性の除外に該当する可能性がある(G-II, 3.3 及び 3.5.1 参照)。

しかしながら、本節で検討する方法は、少なくとも部分的にコンピュータで実装されたものであるため、クレームされた主題は全体として特許性から除外されない。

シミュレーション、設計又はモデル化のコンピュータ実装方法は、他のコンピュータ実装発明と同じ基準に従って審査されるべきである(G-VII, 5.4、G 1/19)。

技術的効果の存在を立証するためには、シミュレートされたシステム又はプロセスが技術的であるか否か、又はシミュレー ションがシミュレートされたシステムの基礎となる技術的原理を反映しているか否か、及びそれがどの程度正確である かは決定的な要素ではない。

外部の物理的現実と相互作用するシミュレーション

入力又は出力のレベルで外部の物理的現実との相互作用を表現する機能を含むコンピュータ実装シミュレーションは、この相互作用に関連する技術的効果を提供することができる。測定値を入力として使用するコンピュータ実装シミュレーションは、現存する現実の物体の物理的状態を計算又は予測する間接的な測定方法の一部を形成する可能性があり、従って、その結果をどのように利用するかに関係なく技術的貢献を行う。

純粋な数値シミュレーション

物理的現実と直接関連する入力又は出力を持たないコンピュータ実装のシミュレーションでも、技術的課題を解決することができる。このような「純粋に数値的な」シミュレーションでは、基礎となるモデル及びアルゴリズムは、特定の技術的実装への適合、又はシミュレーションの結果得られるデータの意図された技術的使用により、発明の技術的性質に貢献する可能性がある。

発明の技術的性質に貢献しないモデル及びアルゴリズムは、G-VII, 5.4で概説したCOMVIKアプローチに従うときに、客観的技術的課題の定式化に含めることができる制約を形成する。

数値シミュレーションの具体的な技術的実装

モデル又はアルゴリズムが、それらが実装されるコンピュータシステム又はネットワークの内部機能に適合することに起因する技術的貢献は、特定の技術的実装に対する数学的手法の適合と同じ方法で評価される(G-II, 3.3参照)。

数値シミュレーションの計算された数値出力データの意図された技術的利用

コンピュータ内のモデルとしてのみ存在するシステム又はプロセスの物理的状態又は挙動を反映する計算された数値データは、それが実際のシステム又はプロセスの挙動を適切に反映していたとしても、通常、発明の技術的性質に貢献することはできない。

計算された数値データは、「潜在的な技術的効果」を有する場合がある。潜在的な技術的効果とは、そのデータが意図された技術的用途に従って使用されたときに生じる技術的効果のことである。このような潜在的な技術的効果は、意図された技術的用途がクレームにおいて明示的又は黙示的に特定されている場合にのみ、進歩性の評価において考慮することができる。

数値シミュレーションの結果のデータが、意図された技術的用途、例えば、技術装置の制御データとして特別に適合されている場合、そのデータの潜在的な技術的効果は、クレームによって「暗示的」に考慮され得る。意図された技術的用途は、実質的にクレームの範囲全体にわたってクレームされた主題に固有であるため、特定の適合は、クレームが他の非技術的用途を包含しないことを意味する(G-II, 3.6.3も参照)。一方、クレームがシミュレーション結果の非技術的用途(技術的又は自然システムに関する科学的知識を得るなど)も包含する場合、潜在的な技術的効果はクレームの実質的な範囲全体にわたって達成されるものではないため、進歩性の評価において依拠することはできない。

正確性

シミュレーションがクレームされた主題の技術的性質に貢献するか否かは、基礎となるモデルの品質又はシミュレーションが現実をどの程度表現しているかには依存しない。

しかし、シミュレーションの精度は、単なるコンピュータ上でのシミュレーションの実装を超えて、既に確立された技術的効果に影響を及ぼす可能性がある要素である。意図された技術的用途に対してシミュレーションの精度が十分でない場合、主張された改善が達成されないことがある。このことは、客観的技術的課題の設定(第56条)又は開示の十分性の評価(第83条)において考慮されることがある(F-Ⅲ, 12参照)。逆に、特定のシミュレーションパラメータが不正確であっても、意図された技術的用途には十分である方法により、技術的効果が達成される場合もある。

設計プロセス

前述の原則は、コンピュータに実装されたシミュレーションが設計プロセスの一部としてクレームされる場合にも同様に適用される。

コンピュータで実装された方法が、単に製品、システム又はプロセスの抽象的なモデル、例えば方程式の集合をもたらす場合、モデル化された製品、システム又はプロセスが技術的であっても、それ自体は技術的効果とはみなされない(T 49/99、T 42/09)。例えば、製品構成ファミリーの論理データモデルには固有の技術的性質はなく、そのような論理デー タモデルに到達するための進め方を規定するだけの方法は、そのコンピュータ実装を超える技術的貢献はない。同様に、グラフィカルモデリング環境でマルチプロセッサシステムを記述する方法を指定するだけの方法は、そのコンピュータ実装を超える技術的貢献をするものではない。知的活動としての情報モデリングに関するG-II, 3.6.2を参照されたい。

3.4 美的創作物

美的創作物に関する主題は、通常、技術的側面、例えばキャンバス又は布のような「基材」と、美的側面、例えばキャンバス上の画像の形態又は布上の模様のような、その鑑賞が本質的に主観的なものとの両方を有する。このような美的創作物に技術的側面が存在する場合、それは美的創作物「それ自体」ではなく、特許性から除外されない。

単体では技術的側面を示さないような特徴であっても、それが技術的効果をもたらすのであれば、技術的性質を有する可能性がある。例えば、タイヤのトレッドの模様は、例えばそれが水の流れを良くするのであれば、タイヤの更なる技術的特徴になり得る。これとは逆に、タイヤのサイドウォールの特定の色が美的な目的にしか役立たない場合は、この限りではない。

美的効果そのものは、製品クレームでもプロセスクレームでも特許されない。

例えば、書籍の情報内容の美的又は芸術的効果のみ、あるいはそのレイアウトや文字のフォントに関する特徴は、技術的特徴とはみなされない。また、絵画の主題の美的効果、色彩の配置、芸術的(例えば印象派)様式等の特徴も技術的特徴とはならない。とはいえ、美的効果が技術的構造又はその他の技術的手段によって得られる場合、美的効果自体は技術的性質ではないが、それを得る手段は技術的性質となることがある。例えば、従来はこの目的に使用されていなかった層構造によって、布地に魅力的な外観を与えることがあり、その場合、そのような構造を組み込んだ布地は特許性を有する可能性がある。

同様に、製本又は背の貼り付けという技術的特徴によって定義される書籍は、それが美的効果をも有するとしても、第52条(2)及び(3)により特許性から除外されない。布の種類、使用される染料又は結合剤によって定義される絵画も同様に除外されない。

技術的プロセスは、たとえそれが美的創作物(カットダイヤモンドなど)を生み出すために使用されるとしても、特許性から除外されない技術的プロセスである。同様に、美的効果のある特定のレイアウトをもたらす書籍の印刷技術も除外されず、及びそのプロセスの産物としての書籍も除外されない。また、香りや風味に関して特別な効果をもたらす、例えば、香りや風味を長期間維持したり、強調したりするための技術的特徴によって定義される物質又は組成物も除外されない。

3.5 精神的行為、ゲーム又はビジネスを行うためのスキーム、ルール及び方法

3.5.1 精神的行為を行うためのスキーム、ルール及び方法

第52条(2)(c)に基づく、精神的行為を行うためのスキーム、ルール及び方法の特許性からの除外は、例えば言語を学習する方法のような、認知的、概念的又は知的なプロセスをどのように行うかについての人間の心に対する指示に関するものである。この除外は、そのようなスキーム、ルール及び方法がそのようにクレームされる場合にのみ適用される(52条(3))。

方法クレームがすべての方法ステップの純粋に精神的な実現を包含する場合、そのような精神的行為を行うための方法の範疇に入る(第52条(2)(c)及び(3))。これは、クレームが技術的実施形態をも包含するか否か、及び方法が技術的考察に基づくか否かに関係なく適用される(T 914/02, T 471/05, G 3/08)。

例えば、原子炉燃料の交換が必要になる前に発生するエネルギー量を最大化するために、原子炉燃料束を炉心に装荷するための配置を設計するための方法を定義するクレームがある。この方法は、初期値から開始し、これらの値に基づいてシミュレーションを実行し、停止基準が満たされるまでシミュレーション結果に基づいて値を反復的に変更することにより、配置の特定の技術パラメータの最適値を決定することを含む。このような方法は、原子炉の技術分野に関する技術的考察に基づいている。しかし、クレームが、すべての方法ステップが精神的に実施される可能性を排除しない限り、クレームされた主題は特許性から除外される。この拒絶は、シミュレーションが技術的測定によって得られた実世界の値を含む場合にも、クレームに技術的測定を実施するステップ又は技術的手段を用いて測定された実世界の値を受け取るステップのいずれかが含まれていなければ適用される。

一般に、方法の複雑さは、精神的行為それ自体を行うための方法として認められないということはできない。技術的手段(例えばコンピュータ)が方法を実施するために必要な場合、それらは本質的特徴としてクレームに含まれる(第84条、F-Ⅳ, 4.5)。アルゴリズムの効率性に関する側面については、G-Ⅱ, 3.3も参照のこと。

クレームされた方法が、そのステップの少なくとも1つを実行するために技術的手段(例えば、コンピュータ、測定装置等)の使用を必要とする場合、又は結果として物理的実体を提供する場合(例えば、製品を設計するステップ及びそのように設計された製品を製造するステップを含む製品の製造方法である場合)には、そのような精神的行為を行うための方法ではない。

クレームされた方法が全体として第52条(2)及び(3)に基づき特許性から除外されないことが立証されると、特許性の他の要件、特に新規性及び進歩性に関して審査される(G-I, 1)。

精神的行為を行うための方法を定義するクレームが、その方法がコンピュータによって行われることを特定することによって限定される場合、コンピュータの使用だけでなく、コンピュータによって行われるステップ自体も、技術的効果に貢献するのであれば、技術的貢献をすることができる。上記の例における原子炉の技術分野に関連するような技術的考慮事項が存在するだけでは、技術的効果の存在を認めるには不十分である(G 1/19)。

技術的手段の使用を伴うステップを含む方法は、その方法の使用者が精神的に実行するステップを規定することもできる。これらの精神的ステップは、発明の文脈上、技術的目的に資する技術的効果を生み出すことに貢献する場合にのみ、方法の技術的性質に貢献する。

例えば、方法は、様々な基準に基づいて製品群の中から製品を選択するステップと、選択された製品を製造するステップとを規定することができる。当該選択ステップが精神的に実施される場合、選択された製品のサブファミリーを特徴付ける特徴から、適切な製品の一般的なファミリーよりも技術的な効果が得られる限りにおいてのみ、当該方法の技術的性質に貢献する(T 619/02)。選択段階が純粋に審美的な基準に依存している場合、それらは非技術的な選択となり、従って方法の技術的性質には貢献しない。別の例として、コリオリ式質量流量計にドライバを取り付ける方法において、流量計の性能を 最大化するためにドライバの位置をどのように選択するかを規定するステップは、その特定の位 置を規定する限りにおいて技術的な貢献をしている(T 1063/05)。

シミュレーション、設計及びモデリングの方法に関する追加情報については,G-II, 3.3.2 を参照。情報モデリングの方法及びコンピュータのプログラミング活動については、G-Ⅱ, 3.6.2を参照のこと。

3.5.2 ゲームをプレイするためのスキーム、ルール及び方法

第52条(2)(c)及び(3)に基づき、ゲームをプレイするためのスキーム、ルール及び方法は、それ自体としてクレームされた場合、特許性から除外される。この除外は、カードゲーム又はボードゲームのような伝統的なゲー ムのルールにも、ギャンブル機器又はビデオゲームのような現代的なゲームプレイの根幹をなすゲー ムルールにも適用される。

ゲームルールは、プレイヤーの行動や、プレイヤーの意思決定や行動に応じてゲームがどの ように発展するかを規定する、慣習や条件の概念的枠組みを定義する。それらは、ゲームのセットアップ、ゲームプレイの展開に伴って生じるオプション、さらにはゲームの進行を定義するゴールを含む。それらは通常、ゲームをプレイする明確な目的を果たすルールとしてプレイヤーによって認識される(又は同意される)。したがって、ゲームルールは抽象的で純粋に精神的な性質のものであり、ゲームの文脈でのみ意味を持つ(T 336/07)。例えば、無作為に引いた2つの数字が一致することを勝利の条件とするのはゲームルールである。

現代のゲーム、及び特にビデオゲームは、仮想ゲーム世界の複雑なインタラクティブ要素と物語要素によって特徴付けられることが多い。このようなゲーム要素は、ゲームが独自に進んでいく方法(例えば、キャラクターやストーリーが進化していく)だけでなく、プレイヤーとの相互作用によってゲームが進んでいく方法(例えば、ゲームのサウンドトラックに合わせてタップし、リズムが合えばキャラクターを踊らせる)も支配している。これらの要素は本質的に概念的なものであるため、広い意味で、第 52 条(2)(c)に従ったゲームをプレイするためのルールとして認められる(T 12/08)。このことは、それがプレー中にのみ語られる又は明らかにされるという事実とは無関係に当てはまる。

クレームされた主題がゲームルールを実施するための技術的手段を特定するものである場合、それは技術的性質を有する。例えば、前述の乱数一致の条件を実施する場合、擬似乱数列を計算するコンピュータ、又は立方体のサイコロや均一に区分されたリールのような機械的手段の使用は、第52条(2)(c)及び(3)に基づく拒絶を解消するのに十分である。

ゲームルール及び技術的特徴が混在するクレームの進歩性は、G-VII, 5.4に規定される混合型発明の課題解決アプローチに従って検討される。原則として、進歩性は、それがいかに独創的であろうと、又は単なる自動化であろうと、ゲームルール自体によって確立されるものではない。進歩性はむしろ、ゲームの技術的実装のさらなる技術的効果、すなわちルールに既に内在する技術的効果を超える技術的効果に基づかなければならない。例えば、ビンゴのような偶然性のゲームのネットワーク化された実装において、オペレータが物理的に抽選した数字が、遠隔地のプレイヤーに送信される前にランダムマッピングを行うとき、結果のスクランブルは、実際のゲームプレイには関係しない一方で、暗号化に類似したデータ送信の安全性を確保するという技術的効果を持つので、技術的貢献となる。対照的に、ゲームの複雑さを制限することによって達成されるメモリ、ネットワーク又は計算資源の削減は、技術的解決策によって技術的制約を克服するものではない。このような制限は、実装の効率を向上させるという技術的課題を解決するのではなく、せいぜいそれを回避する程度であろう(G-VII, 5.4.1)。同様に、ルールの簡略化によるゲーム製品の商業的成功は、直接的な技術的原因のない付随的な効果である。

実装の進歩性は、ゲームデザイナーが設定したゲームルールの実装を任された当業者(通常、エンジニア又はゲームプログラマー)の視点から評価される。非技術的なゲーム要素(ゲームメダルの数を監視するための「勝利計算手段」)を言い換えたり、表面上技術的な用語を用いて抽象化(「ゲームメダル」ではなく「オブジェクト」)したりするような単なるクレームドラフトの実施は、進歩性とは無関係である。

ゲームルールは、娯楽、サスペンス、又は驚きといった心理的効果によってプレーヤーを楽しませ、興味を持続させるように設計されていることが多い。このような効果は技術的効果として認められない。同様に、バランスの取れた、公平な、又は他の方法で報われるゲームプレイをもたらすことは、心理的効果であり、技術的効果ではない。従って、たとえ計算が複雑であったとしても、プレーヤーのゲームスコア又はスキルレーティングを決定するルール及び対応する計算は、通常、非技術的なものとみなされる。

ビデオゲームのような高度にインタラクティブなゲームプレイには、ユーザの入力を感知し、ゲーム状態を更新し、視覚的、音声的又は触覚的情報を出力する技術的手段が含まれる。このような情報提示やユーザインターフェイスを定義する特徴は、G-Ⅱ, 3.7及び3.7.1に従って評価される。非技術的なレベルで現在のゲーム状態、例えばゲームのスコア、トランプの配置及びスート、ゲームキャラクターの状態及び属性についてプレイヤーに知らせる認知的内容は、非技術的情報とみなされる。このことは、ゲーム盤又はカードに表示される「振り出しに戻る」等の指示についても同様である。情報の表示方法が技術的な貢献をする技術的文脈の例として、ゲーム世界におけるリアルタイムの操作のインタラクティブな制御があり、その表示は相反する技術的要求の対象となる(T 928/03)。

ルールとは別に、ゲーム世界の状態が、特にビデオゲームにおいて、物理的原理又は擬似物理的挙動をモデル化した数値データ及び方程式に従って発展することもある。このようなゲーム状態の更新を系統的に計算することは、これらのモデルに基づくコンピュータ実装のシミュレーションに相当する(G 1/19)。この文脈における進歩性の評価のために、モデルは、コンピュータ上での対応する実装のための所定の制約を定義するものと理解される(G-VII, 5.4)。仮想ゲーム世界内に存在する効果、又は既にモデルに内在する効果とは対照的に、シミュレーションの特定の実装は、コンピュータシステムの内部機能に適合すれば、技術的効果をもたらす。例えば、プレイヤーがショットしたビリヤードのボールの仮想軌道を予測するだけでは、たとえ精度が高くても、その実装以上の技術的課題を解決することはできない。対照的に、マルチプレーヤーオンラインゲームで発射される弾丸の分散シミュレーションで使用されるステップサイズを、現在のネットワーク遅延に基づいて調整することは、技術的効果を生む。

ユーザ入力の方法を指定する機能は、通常、技術的貢献をする(G-II, 3.7.1)。しかし、既知の入力メカニズムからコンピュータゲームのパラメー タに得られるパラメータのマッピングは、ゲームを定義する目的又はゲームをより面白 く、又は挑戦的にする目的で設定された、ゲームデザイナーの選択を反映するも のであれば、広い意味でゲームルールとして認められる(例えば、タッチスクリーン上のスライ ドジェスチャが、仮想ゴルフショットのパワー及びスピンの両方を決定することを指定する条件)。

3.5.3 ビジネスをするためのスキーム、ルール及び方法

金融的、商業的、管理的又は組織的な性質を有する主題又は活動は、第52条(2)(c)及び(3)に基づき特許性から除外される、事業を行うためのスキーム、ルール及び方法の範囲に含まれる。本節の残りの部分では、そのような主題又は活動は「ビジネス方法」という用語に包含される。

金融活動には通常、銀行業務、請求又は会計が含まれる。マーケティング、広告、ライセンシング、権利の管理及び契約上の合意、並びに法的な検討を伴う活動は、商業的又は管理的な性質のものである。人事管理、ビジネスプロセスのワークフロー設計、又は位置情報に基づく対象ユーザコミュニティへの投稿の伝達は、組織規則の一例である。ビジネスを行う上で典型的なその他の活動は、ロジスティクス及びタスクのスケジューリングを含む、ビジネス環境におけるオペレーション・リサーチ、プランニング、予測及び最適化に関するものである。これらの活動には、情報を収集し、目標を設定し、経営上の意思決定を促進する目的で、数学的及び統計的手法を用いて情報を評価することが含まれる。

クレームされた主題が、ビジネス方法の少なくとも一部のステップを実行するための、コンピュータ、コンピュータネットワーク又はその他のプログラム可能な装置等の技術的手段を特定するものであれば、除外された主題それ自体に限定されるものではなく、したがって、第52条(2)(c)及び(3)に基づく特許性から除外されるものではない。

しかし、技術的手段を使用する単なる可能性は、たとえ明細書が技術的実施形態を開示していても、除外を回避するのに十分ではない(T 388/04, T 306/04, T 619/02)。「システム」又は「手段」のような用語は、文脈からこれらの用語が専ら技術的実体を指すと推論できない場合、「システム」は例えば金融組織を、「手段」は組織単位を指すかもしれないので、注意深く見なければならない(T 154/04)。

クレームされた主題が全体として第52条(2)及び(3)に基づき特許性から除外されないことが立証されると、新規性及び進歩性に関して審査される(G-I, 1)。進歩性の審査では、どの特徴が発明の技術的性質に貢献するかを評価する必要がある(G-VII, 5.4)。

クレームがビジネス方法の技術的実装を特定する場合、クレームの技術的性質に貢献する特徴は、ほとんどの場合、特定の技術的実装を特定する特徴に限定される。

技術的実装の選択の結果であって、ビジネス方法の一部ではない特徴は、技術的性質に貢献するものであり、したがって、正当に考慮されなければならない。これを次の例で説明する: クレームは、企業の各販売店に設置されたコンピュータを使用して、顧客が選択した製品に関するオーディオビジュアルコンテンツを入手できるようにするコンピュータ化されたネットワークシステムを定義しており、すべてのコンピュータは、オーディオビジュアルコンテンツを電子ファイルとして格納する中央データベースを備えた中央サーバーに接続されている。中央サーバーから販売店舗への電子ファイルの配布は、技術的には、顧客の要求に応じて中央データベースからコンピュータに直接個々のファイルをダウンロードできるようにするか、又はその代わりに、複数の選択された電子ファイルを各販売店舗に転送し、これらのファイルを販売店舗のローカルデータベースに格納し、販売店舗で顧客がオーディオビジュアルコンテンツを要求したときにローカルデータベースから対応するファイルを検索することによって実施することができる。これら2つのオプションの中から1つの実装を選択することは、例えば、提供されるオーディオビジュアルコンテンツのセットが販売店ごとに異なることを指定することとは対照的に、ソフトウェアエンジニアのような技術的に熟練した者の能力の範囲内にあり、これは通常、ビジネスの専門家の能力の範囲内にある。これら2つの可能な技術的実施態様のいずれかを特定するクレームの特徴は、発明の技術的性質に貢献するが、ビジネス方法を特定する特徴は貢献しない。

ビジネス方法の技術的実装を対象とするクレームの場合、本質的に技術的な方法でこの課題に対処するのではなく、技術的な課題の回避を目的とした基本的なビジネス方法の変更は、先行技術に対する技術的貢献とはみなされない。ビジネス方法の自動化においては、ビジネス方法に内在する効果は技術的効果として認められない(G-VII, 5.4.1)。

例えば、冗長な記帳を回避する自動化された会計方法は、コンピュータの作業負荷及びストレージ要件の観点から、より少ないコンピュータリソースを必要とすると考えられる。これらの利点は、会計方法の業務仕様により、実行される操作の数及び考慮されるデータ量の削減から生じる限りにおいて、会計方法自体に固有のものであり、したがって技術的効果として適格ではない。

別の例は、最初にメッセージを送信した遠隔地の参加者によって価格が確定されるまで、価格を順次引き下げることによって行われる電子オークションに基づくものである。メッセージは、送信遅延の可能性によって順番通りに受信されない可能性があるため、各メッセージにはタイムスタンプ情報が含まれている。タイムスタンプ情報の必要性をなくすようにオークションルールを変更することは、伝送遅延という技術的課題を技術的手段で解決するのではなく、回避することに等しい(T 258/03)。さらなる例として、店頭でクレジットカードによる電子金融取引を行う方法において、取引を承認するた めに買い手の氏名又は住所を取得する必要性を排除するという管理上の決定は、時間の節約及びデー タトラフィックの削減につながるかもしれない。しかし、この措置は、それ自体では、通信回線の帯域幅のボトルネック及びサーバーコンピュータの容量の制限という技術的課題に対する技術的解決策ではなく、クレームされた主題の技術的性質に貢献しない管理上の措置である。

ビジネス方法への入力が実世界のデータであるという事実だけでは、たとえそのデータが物理的パ ラメータ(例えば、販売店間の地理的距離)に関するものであっても、ビジネス方法がクレームされ た対象物の技術的性質に貢献するには不十分である(T 154/04, T 1147/05, T 1029/06)。G-II, 3.3 も参照のこと。

管理上の意思決定を容易にするためのコンピュータに実装された方法において、一連の事業計画から、ある技術的制約(例えば、目標とする環境負荷の低減を達成するため)を満たすことも可能な、最も費用対効果の高いものを自動的に選択することは、コンピュータに実装された以上の技術的貢献をするとは考えられない。

発明の技術的性質に貢献する方法としては、単に技術的目的を果たす可能性があるだけでは不十分である。例えば、「産業プロセスにおける資源配分方法」に対するクレームは、「産業」という用語の意味の広さから、方法を特定の技術的プロセスに限定することなく、純粋なビジネスプロセス及び財務、管理、又は経営におけるサービスを包含する。

ビジネス方法の結果は、有用、実用的又は販売可能であっても、技術的効果としては認められない。

ビジネス方法の特徴、例えば管理上の特徴は、様々な文脈で見出すことができる。例えば、医療支援システムは、患者のセンサーから得られたデータに基づいて、及びそのようなデータが得られない場合にのみ、患者から提供されたデータに基づいて、臨床医に情報を提供するように構成される。患者から提供されたデータよりもセンサーデータを優先することは、管理上のルールである。これを確立するのは、技術者ではなく、管理者、例えば診療所の責任者の権限である。技術的効果のない管理規則であるため、クレームされた主題の技術的性質には貢献せず、及び進歩性を評価する際に満たさなければならない制約として、客観的技術的課題の定式化に使用することができる(G-VII、5.4)。ビジネス方法の特徴を含む主題の進歩性を評価するための課題解決アプローチの更なる適用例については、G-VII, 5.4.2.1~5.4.2.3を参照のこと。

3.6 コンピュータのプログラム

コンピュータプログラムは、それ自体クレームされた場合、第52条(2)(c)及び(3)により特許性から除外される。しかし、第52条(2)及び(3)の一般的に適用される基準(G-II, 2)に従い、技術的性質を有するコンピュータプログラムには適用されない。

技術的性質を有し、及び特許性から除外されないためには、コンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されたときに「更なる技術的効果」を生じさせなければならない。「更なる技術的効果」とは、プログラム(ソフトウェア)とそれが実行されるコンピュータ(ハードウェア)との間の「通常の」物理的相互作用を超える技術的効果のことである。プログラムの実行による通常の物理的効果、例えばコンピュータ内の電流の循環は、それ自体でコンピュータプログラムに技術的性質を付与するのに十分ではない(T 1173/97及びG 3/08)。

コンピュータプログラムに技術的性質を付与する更なる技術的効果の例としては、技術的プロセスの制御、 又はコンピュータ自体の内部機能若しくはそのインタフェースがある(G-II、3.6.1 参照)。

更なる技術的効果の存在は、先行技術を参照することなく評価される。したがって、非技術的な目的を果たすコンピュータプログラムが、同じ非技術的な目的を果たす先行技術のプログラムよりも少ない計算時間を必要とするという事実だけでは、更なる技術的効果の存在を立証することはできない(T 1370/11)。同様に、コンピュータプログラムを人間が同じタスクを実行する方法と比較することは、コンピュータプ ログラムが技術的性質を有するかどうかを評価するための適切な根拠とはならない(T 1358/09)。

コンピュータプログラムの更なる技術的効果が既に確立されている場合、確立された技術的効果に影響を与えるアルゴリズムの計算効率は、発明の技術的性質に貢献し、ひいては進歩性に貢献する(例えば、アルゴリズムの設計がコンピュータの内部機能の技術的考察によって動機付けられる場合。)

コンピュータプログラムは、それがコンピュータによって自動的に実行され得るように設計されているという単なる事実から技術的性質を引き出すことはできない。「更なる技術的考慮」、典型的にはコンピュータの内部機能の技術的考慮と関連するもので、単にタスクを実行するためのコンピュータアルゴリズムを発見する以上のものが必要である。それらは、更なる技術的効果をもたらすクレームの特徴に反映されなければならない(G 3/08)。

クレームが技術的性質を有しないコンピュータプログラムに向けられている場合、第52条(2)(c)及び(3)に基づき拒絶される。技術的性質を有するかどうかのテストに合格した場合、審査官は次に新規性と進歩性の問題に進む(G-VI及びG-VII、特にG-VIIの5.4参照)。

コンピュータ実装発明

「コンピュータ実施発明」とは、コンピュータ、コンピュータネットワーク又は他のプログラム可能な装置を含むクレームであって、少なくとも1つの機能がコンピュータプログラムによって実現されるものを対象とすることを意図した表現である。コンピュータ実装発明を対象とするクレームは、F-IV, 3.9及び小項目に記載された形態をとることができる。

コンピュータプログラム及び対応するコンピュータ実施方法は互いに異なる。前者は、方法を指定するコン ピュータ実行可能命令のシーケンスを意味し、後者は、コンピュータ上で実際に実行される方法を意味する。

コンピュータ実装方法、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体又は装置に係るクレームは、技術的手段(例えばコンピュータ)の使用を伴う方法及び技術的手段自体(例えばコンピュータ又はコンピュータ読み取り可能な記憶媒体)が技術的性質を有するため、第52条(2)及び(3)に基づき拒絶することはできず、したがって、第52条(1)の意味における発明を表す(T 258/03, T 424/03, G 3/08)。

3.6.1 更なる技術的効果の例

ある方法がコンピュータで実現されるという単なる事実以上の技術的性質を有する場合、その方法を特定する対応するコンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されると更なる技術的効果をもたらす。例えば、自動車のアンチロック・ブレーキ・システムを制御する方法、X線装置によるエミッションを決定する方法、ビデオを圧縮する方法、歪んだデジタル画像を復元する方法、又は電子通信を暗号化する方法を規定するコンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されたときに更なる技術的効果をもたらす(G-II, 3.3参照)。

さらに、 コンピュータプログラムが、コンピュータの特定のアーキテクチャに適合させるなど、実行されるコンピュータの内部機能に関する特定の技術的考慮に基づいて設計されている場合、更 なる技術的効果をもたらすと考えることができる。例えば、ブートの完全性を保護するためのセキュリティ対策又は電力解析攻撃に対する対策を実施するコンピュータプログラムは、コンピュータの内部機能の技術的理解に依存しているため、技術的性質を有する。

同様に、プロセッサの負荷分散やメモリ割り当てなど、コンピュータの内部機能又は動作を制御するコンピュー タプログラムは、通常、更なる技術的効果をもたらす(ただし、制御が非技術的スキームに基づく場合の例については、 G-VII, 5.4.2.3を参照)。

ビルダー又はコンパイラのような低レベルでコードを処理するプログラムは、技術的性質を持つことがある。例えば、開発オブジェクトからランタイムオブジェクトを構築する場合、変更された開発オブジェクトから 生成されたランタイムオブジェクトだけを再生成することは、特定の構築に必要な資源を制限するという更なる技術的 効果を生み出すことに貢献する。

3.6.2 情報モデリング、プログラミング活動及びプログラミング言語

情報モデリングは、技術的性質のない知的活動であり、通常、ソフトウェア開発の最初の段階で、システムアナリストが、現実のシステム又はプロセスの形式的記述を提供するために行う。従って、モデリング言語の仕様、情報モデリングプロセスの構造(例:テンプレートの使用)、又はモデルの保守も、同様に技術的性質を持たない(T 354/07)。同様に、再利用性、プラットフォーム非依存性又は文書化の利便性のような情報モデルに固有の特性は、技術的効果とはみなされない(T 1171/06)。

技術的効果を提供することによって特定の技術的課題を解決するために、情報モデルが発明の文脈で意図的に使用される場合、その情報モデルは発明の技術的性質に貢献することができる(G-II、3.3.2及び3.5.1も参照)。

モデルが実際にどのように保存されるかを指定する特徴(例えば、リレーショナルデータベース技術を使用する)も、技術的な貢献をすることができる。

ソフトウェア開発のプロセスを記述する概念的手法(メタ手法)は、通常、技術的性質を持たない。例えば、制御タスクのプログラムコードを生成するコンピュータ実装の方法において、プラットフォームに依存しないモデルをプラットフォームに依存するモデルに変換し、そこからターゲットプラットフォームに適合するプログラムコードを導出することを指定する特徴は、制御タスクの性能自体に影響を与えない限り、技術的な貢献をしない。

コードを書くという意味でのプログラミングの活動は、それが具体的なアプリケーション又は環境の文脈で使用され、技術的効果の生成に因果的な形で貢献しない限り、知的で非技術的な活動である(G 3/08, T 1539/09)。

例えば、データ型のパラメータをコンピュータプログラムの入力としてファイルから読み取ることは、プログラム自体でデータ型を定義するのではなく、コードを記述する際のプログラミングのオプションに過ぎず、それ自体には技術的性質はない。プログラムコードの理解及び管理を容易にするためのオブジェクト名の命名規則についても同様である。

オブジェクト指向プログラミングのようなプログラミング言語及びプログラミングパラダイムを定義し、提供することは、その特定の構文及びセマンティクスによってプログラマがより容易にプログラムを開発できるようになったとしても、それ自体が技術的課題を解決するものではない。プログラマーの知的努力を軽減することは、それ自体技術的効果ではない。

プログラミング環境に関する発明を評価する場合、プログラミング言語に関する特徴は、通常、その技術的性質に貢献しない。例えば、ビジュアルプログラミング環境において、特定のグラフィカルビルディングブロックを提供することは、プログラミング言語の一部であり、プログラマーの知的労力を軽減する効果のみであれば、技術的貢献はない。特定のプログラミング構成要素が提供されることで、プログラマーはより短いプログラムを書くことができるようになるかもしれないが、結果としてプログラムの長さが短くなるかは、最終的には人間のプログラマーがそのプログラミング構成要素をどのように使用するかに依存するため、技術的効果とは認められない。これに対して、マシンコードを命令チェーン及びオペランドチェーンに分割して自動的に処理し、繰り返し命令セットをマクロ命令に置き換えて、メモリサイズを削減した最適化コードを生成することは、技術的貢献となる。この場合、その効果は、人間のプログラマーがマクロ命令をどのように利用するかには依存しない。

プログラミング環境のグラフィカルユーザインタフェースに関連する特徴、例えば視覚化やデータ入力機構は、G-II, 3.7及び3.7.1に示されるように評価される。

3.6.3 データ検索、フォーマット及び構造

媒体上又は電磁的搬送波として具現化されたコンピュータ実装のデータ構造又はデータ形式は、全体として技術的性質を有し、従って第52条(1)の意味における発明である。

データ構造又はフォーマットが発明の技術的性質に貢献するのは、それが意図された技術的用途を有し、及びこの意図された技術的用途に従って使用された場合に技術的効果をもたらす場合である。黙示の技術的使用に関連する潜在的な技術的効果は、進歩性の評価において考慮される(G 1/19)。これは、データ構造又は形式が機能データである場合、すなわち、データを処理する装置の動作を制御するような技術システムにおける技術的機能を有する場合に起こり得る。機能データは、本質的に装置の対応する技術的特徴を構成する、又はそれに対応する(T 1194/97)。一方、認知的データとは、その内容及び意味が人間の使用者のみに関連し、技術的効果の生成に貢献しないデータである(ただし、継続的及び/又は誘導的な人間と機械の相互作用プロセスにおける使用者への情報の提示については、G-II, 3.7を参照)。

例えば、画像検索システムで使用されるレコードキャリアは、コード化された画像を、行番号及びアドレスで定義されたデータ構造と共に格納し、このデータ構造は、レコードキャリアからの画像のデコード方法及びアクセス方法をシステムに指示する。このデータ構造は、ピクチャ検索システムの技術的特徴、すなわち、レコードキャリアと、レコードキャリアが動作する、そこからピクチャを検索するための読み取り装置とを本質的に含む用語で定義される。従って、記録キャリアの技術的性質に貢献するが、保存されている写真の認識内容(例えば、人物又は風景の写真)は貢献しない。

同様に、データベース内のレコードを検索するために使用されるインデックス構造は、コンピュータが検索操作を行う方法を制御するため、技術的効果をもたらす(T 1351/04)。

別の例として、ヘッダーとコンテンツ部を持つ電子メッセージがある。ヘッダーの情報は、受信メッセージシステムによって自動的に認識及び処理される命令から構成される。この処理によって結果として、コンテンツ要素がどのように組み立てられ、最終的な受信者に提示されるかが決定される。ヘッダー内のこのような指示は、電子メッセージの技術的性質に貢献するが、認知デー タを表すコンテンツセクションの情報は貢献しない(T 858/02)。

データ構造又はデータ形式は、認知データとして特徴付けられないが(すなわち、ユーザに情報を伝達するためのものではない)、それにもかかわらず技術的な貢献をしない特徴を有することがある。例えば、コンピュータプログラムの構造は、単にプログラマーの作業を容易にすることを目的としている場合があるが、これは技術的目的を果たす技術的効果ではない。さらに、データモデル及び抽象的な論理レベルのその他の情報モデルは、それ自体技術的性質を有しない(G-II, 3.6.2参照)。

デジタルデータは、積層造形(AM)において装置を制御するために使用される。積層造形とは、物体の形状のデジタル表現に基づき、材料を連続的に追加して物理的物体を製造する技術の総称である。データがAM装置を操作するための命令を定義している場合、次の例に示すように、技術的な貢献となる:

クレーム1に記載の製品のデジタル表現と、データがAM装置に中継されたときに、前記製品のデジタル表現を使用して製品を製造するようにAM装置を制御するように適合された操作命令との両方を定義するデータを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体。

備考

コンピュータ読み取り可能な媒体は技術的対象物であるので、第52条(2)及び(3)に基づく拒絶は生じない。

データは、クレーム1の(物理的)製品のデジタル記述及びAM装置を制御するために適合された関連する操作命令の両方から構成されるので、AM装置を制御して製品を製造するために使用されることが意図されている。このデータの技術的使用は、実質的にクレームの全範囲にわたって暗示されている。単にデータを視覚化するという非技術的な使用を包含するように本クレームを解釈することは人為的である。したがって、データが意図された用途に従って使用された場合に達成される、クレーム1に定義された物理的製品を製造するという技術的効果は、進歩性を評価する際に考慮されるべき潜在的な技術的効果である。製品のデジタル表現は、製造された物理的製品の技術的特徴を定義する限りにおいて技術的貢献をする。

しかし、データのそのような技術的使用がクレームによって黙示されていない場合、物理的製品を製造するデータの潜在的な技術的効果は、実質的にクレームの範囲全体にわたって黙示されていないため、進歩性を評価する際に考慮することはできない。例えば、データが製品のデジタル記述又は3Dモデルのみを定義しており、製品の積層造形に適合しておらず、単にCADソフトウェアツールで製品を視覚化するために使用されるような場合である。抽象的な記述又はモデルは、記述された実体が技術的なものであっても、技術的なものとはみなされない(G-II, 3.3.2参照)。このような場合、保存された非技術的データは、技術的貢献はしない。

3.6.4 データベース管理システム及び情報検索

データベース管理システムは、データを効率的に管理するために様々なデータ構造を用いてデータを保存及び検索する技術的タスクを実行するためにコンピュータ上に実装された技術的システムである。従って、データベース管理システムで実行される方法は、技術的手段を使用する方法であり、第52条(2)及び(3)により特許性から除外されない。

データベース管理システムの内部機能を特定する特徴は、通常、技術的考察に基づいている。したがって、これらは発明の技術的性質に貢献し、進歩性の評価において考慮される。例えば、一貫性又は性能のレベルが異なる等の技術的特性が異なる様々なデータストアを用いてデータを自動的に管理することにより、システムのスループット及びクエリの応答時間を改善することには、技術的考慮が含まれる(T 1924/17, T 697/17)。

データベース管理システムは、構造化クエリを実行する。構造化クエリとは、検索するデータを形式的及び正確に記述するクエリである。必要なコンピュータリソース(CPU、メインメモリ又はハードディスク等)に関して、そのような構造化クエリの実行を最適化することは、コンピュータシステムの効率的な利用に関する技術的考察を含むため、本発明の技術的性質に貢献する。

しかし、データベース管理システムに実装されているすべての機能が、この事実のみによって必ずしも技術的に貢献するわけではない。例えば、異なるユーザによるシステムの使用に関連するコストを計算するためのデータベース管理システムの特徴は、技術的貢献をしていないとみなされるかもしれない。

データへのアクセスを容易にするため、又は構造化されたクエリを実行するためにデータベース管理システムで使用されるインデックス、ハッシュテーブル、クエリツリー等のデータ構造は、本発明の技術的性質に貢献する。このようなデータ構造は、前記技術的タスクを実行するためにデータベース管理システムの動作を意図的に制御するので、機能的である。逆に、格納する認知情報のみによって定義されるデータ構造は、単なるデータの格納を超えて、発明の技術的性質に貢献しているとはみなされない(G-II, 3.6.3も参照)。

データベース管理システムによる構造化クエリの実行及び情報検索は区別される。後者には、文書内の情報の検索、文書自体の検索、及びテキスト、画像又は音声等のデータを記述するメタデータの検索が含まれる。クエリは、情報を必要とするユーザによって策定されることがあり、通常、正確な形式を持たない自然言語を用いて形式ばらずに行われる。ユーザは、ウェブ検索エンジンでクエリとして検索語を入力して関連文書を検索したり、模範的な文書を送信して類似文書を検索したりする。関連性又は類似性を推定する方法が、検索される項目の認知的内容、純粋に言語的なルール、又は他の主観的な基準(例えば、ソーシャルネットワークの友人によって関連性が見出された項目)などの非技術的な考慮のみに依存している場合、それは技術的な貢献をしていない。

コンピュータによる自動的な言語分析を可能にする目的で、言語的な考察を数学的モデルに変換することは、少なくとも暗黙のうちに技術的な考察が含まれていると見なすことができる。しかし、これだけでは数理モデルの技術的性質を保証することはできない。コンピュータシステムの内部機能に関するものなど、さらなる技術的配慮が必要である。

例えば、文書の集合における2つの用語の共起頻度を分析することによって、ある用語が別の用語と意味において類似している確率を計算する数学的モデルは、純粋に言語的な性質の考察に基づいているため(すなわち、関連する用語は、関連しない用語よりも同じ文書に出現する可能性が高いという仮定に基づいているため)、それ自体技術的な貢献はしていない。この類似度計算方法を用いて作成された検索結果は、別の数学的モデルを採用した先行技術とは、異なる認知内容を持つ情報が検索されるという点でのみ異なる。これは非技術的な区別であり、技術的効果とは認められない。用語の意味の類似性に基づく検索という文脈では、「より良い検索」という概念は主観的なものである(T 598/14)。対照的に、前述したデータベース管理システムにおける構造化クエリの実行時間の最適化は技術的効果である。

人工知能及び機械学習アルゴリズムについては、G-Ⅱ, 3.3.1も参照のこと。

3.7 情報の提示

第52条(2)(d)の意味における情報の提示とは、ユーザに情報を伝達することと理解される。これは、提示される情報の認知的内容及びその提示方法の両方に関係する(T 1143/06, T 1741/08)。これは視覚情報に限定されるものではなく、他の提示様式、例えば音声情報又は触覚情報も対象となる。しかし、そのような情報の提示を生成するために使用される技術的手段には及ばない。

さらに、ユーザへの情報の伝達は、その情報を処理、保存又は伝送する技術システムに向けられた情報の技術的表現とは区別される。データ符号化方式、データ構造及び電子通信プロトコルの特徴であって、認知データとは対照的に機能データを表すものは、第52条(2)(d)の意味における情報の表示とはみなされない(T 1194/97)。

第52条(2)及び(3)に基づく特許性の排除を評価する場合、クレームされた主題は全体として考慮されなければならない(G-II, 2)。特に、情報を提示するための技術的手段(例えば、コンピュータディスプレイ)を対象とする又はその使用を特定するクレームは、全体として技術的性質を有し、従って特許性から除外されない。別の例として、製品(例えば漂白組成物)と、当該製品の使用説明書又は得られた結果を評価するための参考情報等の更なる特徴とを含むキットに向けられたクレームであって、当該更なる特徴が製品に対して技術的効果を有しないものは、当該クレームが、物質組成物を含む製品という技術的特徴を有するため、除外されない。

クレームされた対象が全体として第52条(2)及び(3)に基づき特許性から除外されないことが立証されると、特許性の他の要件、特に新規性及び進歩性に関して審査される(G-I, 1)。

進歩性の審査では、情報の提示に関連する特徴が、発明の文脈において、技術的目的に資する技術的効果をもたらすことに貢献するか否かが分析される。貢献しないない場合、技術的貢献はなく、進歩性の存在を裏付けることはできない(G-VII, 5.4)。技術的効果が生じるか否かを判断するために、審査官は、発明の文脈、ユーザが行う作業、及び特定の情報提示が実際に提供する目的を評価する。

情報の提示を定義する特徴が、継続的及び/又は誘導された人間と機械の相互作用プロセスによって、ユーザが技術的なタスクを実行することを信頼できる形で支援する場合、技術的効果が生じる(T 336/14及びT 1802/13)。このような技術的効果は、技術的タスクの実行におけるユーザへの支援が、客観的、信頼性、及び因果的にその特徴と関連している場合に、信頼性をもって達成されると考えられる。主張される効果がユーザの主観的利益又は嗜好に依存する場合は、この限りではない。例えば、データを数値で表示した方が理解しやすいユーザもいれば、色分けされた表示を好むユーザもいる。従って、データの表示方法の一方又は他方の選択は、技術的効果を有するとはみなされない(T 1567/05)。同様に、話し言葉ではなく音階として伝達される音声情報を理解するのが容易か否かは、ユーザの認知能力にのみ関係する問題である。別の例として、提示される情報を決定するパラメータをユーザが設定できるようにしたり、又はその提示方法を選択できるようにすることは、単に主観的なユーザの好みに対応するだけであれば、技術的に貢献することにはならない。

特定の情報の提示が、技術的なタスクの実行においてユーザを信頼できる形でサポートすると考えられる範囲を決定することは、困難な場合がある。発明を先行技術と比較することで、差異的特徴に限定した分析が可能となり、進歩性の評価を簡略化することができる(G-VII, 5.4、第5段落)。この比較により、技術的課題を遂行するための潜在的な支援が先行技術において既に達成されており、差異的特徴が技術的に貢献しない(例えば、非技術的な主観的ユーザの嗜好にのみ関連する)ことが明らかになる場合がある。

情報の提示に関する特徴は、一般的に次のように特定されると考えられる:

(i)提示される情報の認知的内容、すなわち「何」が提示されるかを定義する。

(ii)情報が提示される方法、すなわち情報が「どのように」提示されるかを定義する。

この分類は、本節の残りの部分で技術的効果をより詳細に議論できるようにするために採用された。これらの分類は、網羅的なものではないことに留意されたい。また、ある特徴が両方のカテゴリーに分類される場合もある。例えば、クレームされた方法における「顧客の姓を大文字で表示する」というステップは、提示された情報(顧客の姓)の認知内容とその提示方法(大文字)の両方を定義する。このような特徴は、実際には、表示されるテキストが顧客の姓であること(第一のカテゴリーに入る)及び表示されるテキストが大文字で表示されること(第二のカテゴリーに入る)という二つの特徴から構成されていると考えられる。表示方法自体も認知情報を伝えるかもしれない。例えば、名前の大文字の部分は、慣例として、どの部分が姓であるかを示すかもしれない。

(1) 何を(どの情報を)提示するのか?

ユーザに提示される情報の認知的内容が、技術システムの内部状態に関連し、及びユーザがこの技術システムを適切に操作できるようにするものであれば、それは技術的効果を有する。技術システムに存在する内部状態とは、システムの内部機能に関連し、動的に変化する可能性があり、自動的に検出される動作モード、技術的条件又は事象である。その提示は通常、例えば技術的な誤動作を避けるために、ユーザにシステムとの対話を促す(T 528/07)。

機械の技術的特性又は潜在的状態に関する静的又は所定の情報、装置の仕様又は操作指示は、装置内に存在する内部状態として適格ではない。静的又は所定の情報の提示が、単に技術的作業に先立つ非技術的作業においてユーザを支援する効果を持つだけであれば、技術的貢献はしない。例えば、ユーザが装置を設定する前に操作すべきボタンの順序を知る又は記憶する必要がないという効果は、技術的効果ではない。

カジノゲームの状態、ビジネスプロセス、又は抽象的なシミュレーションモデルのような非技術的な情報は、専ら主観的な評価又は非技術的な意思決定のためにユーザを対象としている。それは技術的なタスクとは直接関係しない。従って、このような情報は、技術システムの内部状態としては認められない。

(2) 情報はどのように提示されるか?

このカテゴリの特徴は、典型的には、情報が(例えば画面上で)ユーザに伝達される形態又は配置、又はタイミングを指定する。一例として、情報を伝達するためだけに設計された図がある。例えば、音声信号又は画像の生成方法に関する特定の技術的特徴は、情報の提示方法とはみなされない。

特定の図又はレイアウトにおける情報の視覚化を定義する特徴は、たとえその図又はレイアウトが、見る人が直感的に特に魅力的、明晰又は論理的とみなすような方法で情報を伝えているとしても、通常、技術的貢献をしているとはみなされない。

例えば、限られた画面スペースに対処することは、人間が見るための情報提示の設計の一部であり、それ自体が技術的であることを示すものではない。単一の画像を表示し、それを順次他の画像に置き換えることで、限られた表示領域で複数の画像の概要を示すという一般的なアイデアは、技術的な考察に基づくものではなく、レイアウトデザインの問題である。同様に、ウィンドウペイン間の「余白」をなくすことで、利用可能なスクリーンスペース内にオブジェクトを配置することは、雑誌の表紙のレイアウトに適用されるのと同じレイアウト原則に従ったものであり、技術的な考察を伴うものではない。

他方、継続的及び/又は誘導的な人間と機械の相互作用プロセスによって、その表示方法が技術的タスクの実行においてユーザを信頼できる形で支援する場合、それは技術的効果を生み出す(T 1143/06、T 1741/08、T 1802/13)。例えば、複数の画像を低解像度で並べて表示し、より高解像度の画像を選択して表示できるようにすることで、保存された画像を対話的に検索及び取得するという技術的タスクをより効率的に実行できるようにする技術的ツールの形で、ユーザに情報を伝えることができる。異なる解像度でデジタル画像を保存することにより、複数の画像を同時に概観表示することができるという技術的効果が生じる(T 643/00)。別の例として、ビデオサッカーゲームにおいて、チームメイトが画面の外にいるときに、画面の端にガイドマークを動的に表示することによって、最も近いチームメイトの位置をユーザに伝える特定の方法は、画像の拡大部分を表示し、及び表示領域よりも大きい関心領域の概要を維持するという相反する技術的要件を解決することによって、継続的な人間と機械の対話を容易にするという技術的効果を生む(T 928/03)。更なる例として、外科医のための視覚的補助の文脈で、手術の過程で、医療用ボールジョイントインプラントの現在の向きが、外科医がより正確な方法でインプラントの位置を修正するのを助ける信頼できる方法で表示される場合、これは技術的効果を提供すると考えられる。

人間の生理に依存する効果

情報提示の方法が、心理的又はその他の主観的要因に依存せず、人間の生理学に基づ いて正確に定義できる物理的パラメータに依存する効果を利用者の心にもたらす場合、その 効果は技術的効果として認められる。そして、情報の提示方法は、この技術的効果に貢献する範囲において技術的貢献をする。例えば、ユーザの現在の視覚的注意の焦点に近い複数のコンピュータ画面の1つに通知を表示することは、(例えば画面の1つに任意に配置した場合と比較して)即座に見られることが多かれ少なかれ保証されるという技術的効果を有する。対照的に、緊急の通知のみを表示するという決定は(例えばすべての通知と比較して)心理的要因のみに基づいており、従って技術的貢献はない。情報過多及び注意散漫を最小化することは、それ自体が技術的効果として適格であるとはみなされない(T 862/10)。別の例として、連続する画像間の遅延及び内容の変化に関するパラメータが、スムーズな遷移を実現するために、人間の視覚知覚の物理的特性に基づいて計算される画像のストリームを表示することは、技術的貢献をしているとみなされる(T 509/07)。

医学的状態(例えば、視力、聴力障害、脳障害)を評価するために測定可能な生理的反応(例えば、不随意的な視線)を生じさせる目的で、情報(例えば、視覚刺激又は聴覚刺激)を人に提示する場合、その情報の提示は技術的効果を生じさせると考えられる。

利用者の精神活動に依存する効果

クレームされた主題が、(i)又は(ii)のいずれであっても、ユーザに情報を提示する特徴を含む場合、ユーザによる評価が関係する。このような評価それ自体は精神的行為であるが(第52条(2)(c))、精神的行為が関与するという事実だけでは、必ずしも主題を非技術的なものとして認定することはできない。例えば、上述したT 643/00では、ユーザは、所望の画像を見つけ、客観的に認識するために、低解像度の画像の概観に基づいて評価を行う。この精神的評価は、画像検索及び検索プロセスの中間段階であると考えられ、技術的課題に対する解決策の不可欠な部分を形成している。このような解決策は、理解、学習、読解又は記憶という人間の作業を容易にすることにも、どの画像を検索するかというユーザの決定に影響を与えることにも依存していない。画像が特定の配置で表示されなければ不可能であった選択を入力する仕組みを提供するものである。

一方、提示される情報の選択又はレイアウトが、専ら人間の心理を対象としている場合、特に、ユーザが非技術的な決断を下すのに役立つ場合(例えば、製品の特性を示す図に基づいてどの製品を購入するか)には、技術的な貢献はしない。

3.7.1 ユーザインターフェース

ユーザインタフェース、特にグラフィカルユーザインタフェース(GUI)は、人間とコンピュータのインタラクションの一部として、情報を提示し、及びそれに応答して入力を受け取る特徴を含む。ユーザ入力を定義する特徴は、データ出力及び表示のみに関する特徴よりも技術的性質を持つ可能性が高い。なぜなら、入力は機械の所定のプロトコルとの互換性を必要とするのに対し、出力はユーザーの主観的嗜好によって大きく規定される可能性があるからである。美的配慮、主観的なユーザの好み又は管理規則によって決定されるメニューのグラフィックデザインに関する特徴(そのルックアンドフィールなど)は、メニューベースのユーザーインターフェースの技術的性質に貢献しない。データの出力に関する特徴の評価は、G-II,  3.6.3 で扱う。本節では、ユーザがどのように入力を行うかに関する特徴を評価することに焦点を当てる。

テキスト入力、選択、又はコマンド送信のような、ユーザ入力を可能にするメカニズムを特定する特徴は、通常、技術的貢献をしていると考えられる。例えば、文書アイコンをプリンタアイコン上にドラッグして往復移動させることにより、印刷処理を開始したり、印刷部数を設定したりするなど、異なる処理条件をユーザが直接設定することを可能にする代替グラフィカルショートカットをGUIに提供することは、技術的貢献となる。一方、ユーザが入力作業を行う際に、ユーザの精神的な意思決定プロセスのみを容易にする情報を提供することにより、ユーザの入力を支援すること(例えば、ユーザが入力内容を決定することを支援すること)は、技術的貢献とはみなされない(T 1741/08)。

予測入力機構を提供することによって、コンピュータシステムでテキストを入力するユーザを支援することは、技術的機能である。しかし、予測入力メカニズムのために表示される単語バリアントを生成すること自体は、非技術的課題である。この非技術的課題を解決するために使用される言語モデルは、それ自体では技術的貢献はしない。コンピュータの内部機能に関するものなど、言語モデルをコンピュータに実装するために技術的な考慮が必要な場合は、技術的な効果が生じる可能性がある。

ユーザの動作を簡素化する、又はユーザにとってより便利な入力機能を提供するといった効果の実際の達成が、ユーザの主観的な能力や嗜好にのみ依存する場合、そのような効果は、解決すべき客観的技術的課題の基礎を形成しない可能性がある。例えば、同じ入力を行うのに必要なインタラクション回数の削減は、ユーザーの専門知識のレベル又は主観的な嗜好に依存して発生するいくつかの使用パターンに対してのみ実現されるのであれば、信頼に足るものではない。 ジェスチャーやキーストロークのような、単に主観的なユーザの好み、慣習、又はゲームルールを反映し、物理的な人間工学的優位性を客観的に確立できない入力方法は、技術的貢献はない。しかし、より高速又はより正確なジェスチャー認識を可能にする、又は認識を行う際の装置の処理負荷を軽減する等、入力検出に対する性能指向の改善は、技術的貢献をする。

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