欧州特許審査ガイドラインG-VI:新規性(2024年版)

EPC第54条は、特許要件の一つである新規性について規定しています。

第 54 条 新規性
(1) 発明は、それが技術水準の一部を構成しない場合は、新規であると認められる。
(2) 技術水準とは、欧州特許出願の出願日前に、書面若しくは口頭、使用又はその他のあらゆる方法によって公衆に利用可能になったすべてのものを含むものとする。
(3) さらに、欧州特許出願の出願時の内容であって、その出願の出願日が(2)にいう日の前であり、かつ、その日以後に公開されたものは、技術水準を構成するものとみなされる。
(4) (2)及び(3)は、第53条(c)にいう方法における使用のための、技術水準で構成される物質又は組成物の特許性を排除するものではない。ただし、その方法におけるその使用が技術水準に含まれない場合に限る。
(5) (2)及び(3)はまた、第 53 条(c)にいう方法において特に使用するための(4)にいう物質又は組成物の特許性も排除するものではない。ただし、その使用が技術水準に含まれない場合に限る。

以下は、新規性について説明する審査ガイドラインのG-VIの記載(2024年版)の参考和訳です。正確な内容は原文を確認ください。

欧州特許審査ガイドラインG-VI:新規性(2024年版)

1. 第54条(2)に規定される技術水準

発明は、技術水準の一部を構成しない場合に新規性を有するものとみなされる。「技術水準」の定義については、G-IV, 1を参照。なお、新規性(進歩性とは異なる。G-VII, 6を参照)を検討するにあたり、先行技術の別個の事項を組み合わせることは認められない。また、同一の文献に記載された別々の実施形態に属する別々の項目を組み合わせることも許されない。ただし、そのような組み合わせが具体的に示唆されている場合はこの限りではない(T 305/87を参照)。選択発明の具体的な事例については、G-VI, 7を参照。

新規性を判断する際には、先行技術の開示によって公衆に利用可能となり、したがって技術水準の一部分を構成する対象が何であるかを決定しなければならない。この文脈において考慮すべきは、先行技術文献の例だけでなく、その内容全体である。

さらに、文献において明示的に除外された事項(実現不可能な実施態様を除外する除外事項を除く)及び先行技術は、文献において明示的に記載されている限り、その文献に組み込まれているとみなされる。

さらに、文献で使用される特別な用語を解釈するために、辞書又は類似の参考資料を使用することも許可されてる。

不明瞭な用語は、発明を先行技術から区別するために使用することはできず、第84条に基づき許可されていない(F-IV, 4.6.1を参照)。

2. 暗黙の特徴又は周知の均等物

文献は、当該文献から直接かつ明確に導き出されるクレームに係る主題の新規性を奪う。これには、当該文献に明示的に記載されている内容について、当業者にとって暗黙の特徴が含まれる(例えば、ゴムの弾性特性が明らかに使用されている状況下でのゴムの使用の開示は、それが明示的に記載されていなくても、弾性材料の使用の新規性を奪う)。文献から「直接かつ明確に導き出せる」主題への限定は重要である。したがって、新規性を検討する際、文献に開示されていない周知の均等物を文献の教示が包含していると解釈することは正しくない。これは自明性の問題である。

3. 先行技術文書の基準日

新規性を判断する際には、先行技術文献は、当該基準日において当該技術分野の当業者によって読まれたであろう方法で読まれる。「基準」日とは、先行技術文献がすでに公開されている場合にはその公開日、第54条(3)に基づく文献の場合には出願日(又は該当する場合には優先日)を意味する(G-IV, 5.1参照)。

4. 一般的な開示と具体的な例

新規性を検討する際には、一般的な開示は通常、その開示の条件に当てはまる具体例の新規性を奪うものではないが、具体的な開示は、その開示を包含する包括クレームの新規性を奪うことを念頭に置くべきである。例えば、銅の発明は金属という一般的な概念の新規性を奪うが、銅以外の金属の新規性を奪うわけではない。また、リベットの1つは締結手段という一般的な概念の新規性を奪うが、リベット以外の締結手段の新規性を奪うわけではない。選択発明についてはG-VI, 7も参照。

5. 暗黙の開示とパラメータ

先行技術文献の場合、新規性欠如は、その文献自体に明示的に記載されている内容から明らかである場合がある。あるいは、先行技術文献の教示を実行する際に、当業者が必然的にクレームの文言に該当する結果に到達するという意味で、暗黙的である場合もある。この種の新規性欠如の拒絶は、先行技術の実際の効果について合理的な疑いの余地がない場合にのみ審査官によって提起される(ただし、第二非医療用途についてはG-VI, 6を参照)。

このような状況は、クレームがパラメータによって、発明又はその特徴を定義する場合にも生じうる(F-IV, 4.11を参照)。関連する先行技術において、異なるパラメータが記載されている、又はパラメータが全く記載されていない場合もあり得る。公知の製品とクレームされた製品がその他の点で全て同一である場合(例えば出発物質と製造工程が同一である場合など)、まず新規性欠如の拒絶が生じる。主張された差異的特徴を証明する責任は出願人にある。出願人が主張を裏付ける証拠を提示しない場合、疑わしきは出願人の利益に帰属することはない(T 1764/06参照)。一方、出願人が、例えば適切な比較試験により、パラメータに関して相違点が存在することを証明できる場合、その出願がクレームで特定されたパラメータを有する製品の製造に不可欠なすべての特徴を開示しているかどうかが問題となる(第83条)。

6. 新規性の審査

クレームの主題の新規性を判断するにあたり、審査官はF-IV, 4.5から4.21に示された指針を考慮しなければならない。特に、物理的実体に向けられたクレームについては、特定の意図された用途における差別化できない特徴は無視される(F-IV, 4.13.1を参照)。例えば、触媒としての物質Xに対するクレームは、染料として知られている同一の物質に対して新規であるとはみなされない。ただし、言及されている用途が、物質の既知の形態と区別する特定の形態(例えば、特定の添加物の存在)を暗示している場合はこの限りではない。すなわち、明示的に記載されていないが、特定の用途から暗示される特性は考慮されるべきである(F-IV, 4.13.1の「溶鋼用鋳型」の例を参照)。第一医療用途に対するクレームについては、G-II, 4.2を参照。

ある化合物をある純度を有するものとして定義するクレームは、先行技術が少なくとも間接的に、例えば当該化合物を調製する方法によって、必然的に当該クレームで主張されている純度となる方法を開示している場合のみ、当該先行技術の開示に対して新規性を欠く。しかし、例えば、当業者がクレームされた純度に到達できる適切な(さらなる)精製方法によって先行技術の開示を補う必要がある場合、そのようなクレームは新規性を欠くものではない。

6.1 既知の製品の第一又はそれ以降の医療用途

物質又は組成物がすでに知られている場合でも、その既知の物質又は組成物が、第53条(c)に言及されている方法における用途として過去に開示されていない場合には、第54条(4)に基づき特許性がある。

物質又は組成物が「第一医療用途」で使用されていることがすでに知られている場合、当該用途が新規でかつ進歩性を有することを条件として、第53条(c)に準拠する方法における第二又はそれ以降の用途については、第54条(5)に基づき特許が認められる可能性がある。

第54条(4)及び(5)は、製品クレームは新規な製品に対してのみ取得できるという一般原則に対する例外を規定している。ただし、これは第一医療用途及びさらなる医療用途に関する製品クレームが、特許性に関する他のすべての要件、特に進歩性の要件を満たす必要がないことを意味するものではない(T 128/82を参照)。

「疾病Yの治療のための物質X又は組成物Xの使用」という形式のクレームは、第53条(c)により特許性から明確に除外されている治療方法に関するものとみなされ、認められない。「医薬品としての使用のための物質X」という形式のクレームは、Xが既知の物質であっても、医薬品としての用途が知られていない場合、認められる。同様に、「疾病Yの治療における使用のための物質X」という形式のクレームも認められるが、その場合、Xの医薬品としての使用を開示する先行技術に対して進歩性があることが条件となる。

出願が、既知の物質又は組成物について、多数の別個の外科的、治療的又は診断的使用を初めて開示する場合には、通常、様々な使用のうちの1つについての物質又は組成物にそれぞれ向けられた独立したクレームが認められる。すなわち、発明の単一性の欠如という先験的な拒絶は、原則として提起されない(F‑V, 7を参照)。

クレームの主題が医薬品の新たな治療用途によってのみ新規性を有する場合、出願の出願日又は優先日が2011年1月29日以降であれば、いわゆるG 5/83決定により制定された「スイスタイプ」のクレームの形式(「物質又は組成物Xの治療用途Zのための医薬品の製造における使用」)を取ることはできなくなる(2010年9月20日付の欧州特許庁通知、OJ EPO 2010, 514を参照)。

特許性に対する異なるクレーム形式の影響は、以下の表にまとめられている。

# クレーム 特許性あり? 条文
A

Use of product X for the treatment of asthma

いいえ

53(c)

B

1. Product X for use as a medicament

[Xは例えば、除草剤として知られている]

2. Product according to claim 1 for use in the treatment of asthma

はい

(Xが既知の製品であっても、医療への使用が知られていない場合。)

はい

54(4)

C

Product X for use in the treatment of cancer*

はい

(ケースBが先行技術であっても、そのクレームがB及びその他の先行技術に対して進歩性を有する場合。)

54(5)

D

Product X for use in the treatment of leukaemia*

はい

(ケースB及びCが先行技術であっても、白血病は特定の種類の癌であるため、DがB、C及び他の先行技術に対して進歩性がある場合。)

54(5)

* 注:C及びDのケースに該当するスイスタイプのクレーム(EPC 1973で要求される)は、「癌/白血病治療薬の製造における製品Xの使用」となる。

出願人が同時に複数の「後続の」治療用途を開示している場合、これらの異なる用途を対象とする上記タイプのクレームは、単一の一般的な発明概念を形成する場合に限り、1つの出願で認められる(第82条)。上記タイプの使用クレームに関しては、単なる薬理効果は必ずしも治療用途を意味するわけではないという点にも留意する必要がある。例えば、ある物質による特定の受容体の選択的な占有は、それ自体では治療用途とはみなされない。実際、ある物質が選択的に受容体に結合するという発見は、たとえ重要な科学的知識の一部を表すものであっても、技術的な貢献として技術に寄与し、特許保護の対象となる発明として認められるためには、定義された、実際の病状治療という形で応用される必要がある(T 241/95を参照)。また、病状に関する機能的定義についてはF‑IV, 4.22も参照。

スイスタイプのクレームの形式は目的に関連するプロセスクレームであり、一方、第54条(5)に従って作成されたクレームは目的に関連する製品クレームである。したがって、これらのクレームは異なるカテゴリーに属する。このことは、以下の結果を招く。

(i) 親出願がスイスタイプのクレームで特許が付与されている場合、分割出願における目的に関連する製品クレームに基づく特許付与は、二重特許にはならない(T 13/14; G‑IV, 5.4も参照)。

(ii) 特定の物理的活動(例えば、方法、プロセス、使用)に関するクレームは、物理的実体自体に対するクレームよりも保護範囲が狭いため(G 2/88, 理由5.1)、スイスタイプクレームは、第54条(5)に従って作成されたクレームよりも保護範囲が狭い。したがって、スイスタイプクレームから第54条(5)に従って作成されたクレームへの変更は、第123条(3)に違反する(T 1673/11; H‑IV, 3.4も参照)。

6.1.1 さらなる医療用途のためにクレーム可能な製品

第54条(5)に基づく用途関連製品クレームの保護範囲は、クレームされた製品に新規性及び非自明性(もしあれば)を付与する医療用途の文脈における物質又は組成物に限定される。

この原則は物質及び組成物のみに適用され、他の製品にまで拡大することはできない。意図された医療用途の装置(例えば、…での使用のためのペースメーカー又は体内埋め込み型化学センサー)を対象とするクレームは、その医療用途に適した装置をクレームしているものと解釈されなければならない(F‑IV, 4.13)。

ある製品が特定の医療用途における活性剤又は成分であり、その治療効果がその化学的特性に起因する場合、その製品は第54条(5)の「物質又は組成物」に該当する(G 5/83及びT 1758/15参照)。例えば、放射線治療の対象となる第一組織と、放射線から保護すべき第二感受性組織との間に注入される充填材を考える。充填材の遮蔽効果が、標的組織に対する感受性組織の単なる機械的な変位によって、その2つの組織の間に占める体積に起因して達成される場合、充填材は物質又は組成物というよりもむしろ装置として適格である。一方、充填材が化学的性質に起因する可能性のある放射線低減効果を感受性組織に与える場合、それは第54条(5)の「物質又は組成物」とみなされる。

6.1.2 第54条(5)に基づく治療用途

ある疾病の治療にすでに使用されていることが知られている物質又は組成物による当該疾病の治療は、既知の治療との唯一の違いが投与レジームにある場合、第54条(5)の意味における特定のさらなる医療用途である(G 2/08参照)。したがって、物質/組成物の治療用途は、異なる疾患の治療だけでなく、例えば、投与量、投与方法、対象者のグループ、又は投与経路などが異なる別の治療方法による同一疾患の治療に基づく場合もある(G 2/08)。

物質/組成物のさらなる治療的使用を対象とするクレームは、治療対象となる疾患/疾病、その目的で使用される治療用化合物の性質、新規性及び進歩性を立証する上で関連性がある場合には、治療対象を示さなければならない。さらに治療用途が、同一の物質/組成物を使用する同一の疾患の異なる治療法に関連する場合、クレームは、所望の技術的効果を生み出す治療法のすべての技術的特徴を定義しなければならない(G 2/08)。

物質/組成物の更なる治療用途であって、異なる疾患の治療における上記製品の使用に基づくものを対象とした独立クレームは、次のように定式化されなければならない。

Substance X

又は

Composition comprising X

for use

in a method for the treatment of Y, 又は

in the therapy of Y, 又は

in a method of treating Y, 又は

in a method of therapy of Y, 又は

as a medicament defined by its function, (例えば、抗炎症薬として)

「for use」(使用のための)という文言の存在は必須であり、第54条(5)の文言に厳密に従うものである。

独立クレームが組成物に向けられている場合、「for use」という用語の前又は後に組成物の定義を挿入することが可能である。例えば、「Composition comprising X for use in the therapy of Y」(Yの治療における使用のためのXを含む組成物)又は「Composition for use in the therapy of Y comprising X」(Xを含む、Yの治療における使用のための組成物)。

さらに別の治療用途が同一の疾病に対する異なる治療における同一製品の使用に基づく場合、独立クレームは以下のように定式化されなければならない。

Substance X for use

又は

Composition comprising X for use

in a method for the treatment of Y, or

in the therapy of Y, 又は

in a method of treating Y, 又は

in a method of therapy of Y, 又は

as a medicament defined by its function (e.g. as an anti-inflammatory medicament)

characterised in that/ wherein

その他の特徴(例えば、物質/組成物は局所投与される、1日3回投与される…など)

第53条(c)に基づき特許適格性から除外される医療用途を排他的に定義しない(下表のクレーム4を参照)目的関連の製品クレームは、クレームされた用途に適した製品自体に向けられたクレームとして解釈される。

下表は、第53条(c)の意味におけるさらなる医療用途を定義しないクレームの例をいくつか示している。

    理由

1. Substance X 又は Composition comprising X in/for

a method for the treatment of Y, 又は

the therapy of Y, 又は

a method of treating Y, 又は

a method of therapy of Y, 又は the (topical) treatment of Y, 又は

the (topical) therapy of Y

「for use」という用語がなければ、そのクレームが指定された用途に適した製品に向けられたものなのか、医療用途に限定されたものなのかが明確ではない。

2. (Anti-inflammatory) medicament, or Pharmaceutical comprising substance X, or Composition comprising X

for topical treatment

クレームは、クレームされた製品の治療的役割も治療的適用も示してはいない。さらに、「for use」という文言がないと、クレームが指定された用途に適した製品を対象としているのか、クレームが医療用途に限定されているのかが明らかではない。

3. Substance X 又は Composition comprising X

as an anti-inflammatory agent

「for use」という用語がなければ、そのクレームが指定された用途に適した製品に向けられたものなのか、医療用途に限定されたものなのかが明確ではない。

4. Substance X 又は

Composition comprising X

for use as an antifungal /antibacterial agent

クレームは、クレームされた製品の特定の医療用途を定義していない。非医療用途も包含している。なぜなら、抗真菌剤/抗菌剤は、例えば農業における植物の治療にも使用されているからである。

先行技術が、クレームされた用途に適していると考えられる形態での製品自体、又はその第一医療的適用を開示している場合、クレーム1から4は新規性を欠くことになる。新規性の拒絶は、上述(最初の表)の通りクレームを再構成することで克服できる。

これらの補正は、規則71(3)に基づく審査官からの通知において、出願人に事前に相談することなく提案される場合がある(C-V, 1.1, (f)項を参照)。

以下は、新規性なしと判断される可能性があるクレームの例。

例1
局所治療/適用による使用のためのXを含む組成物

Xを含む組成物は先行技術において既知であると想定される。

拒絶理由:本クレームはXの具体的な治療用途を特定していないため、「局所治療/適用用」という特徴は事実上、純粋に例示的なものにとどまり、クレームの範囲をその特定の用途に限定するものではない。

さらに、「局所治療/適用」という用語は、美容治療を指す可能性があるため、第53条(c)で言及されている方法での使用とは必ずしも関連しない。したがって、Xからなる当該組成物が先行技術において既知である場合、当該組成物の主題は予見されることになる。

例2
局所投与による治療での使用のためのXを含む組成物

Xを含む組成物が医療用途として先行技術において既知であると仮定する。

拒絶理由:投与方法は医療治療において重要な要素となり得、限定的な特徴として考慮されてきたが、それはあくまでさらなる(特定の)医療適応との関連においてである(T 51/93)。「局所投与」は投与方法のみを特定するものであり、それによって得られる治療効果とは関係がない。したがって、クレームが特定の治療適応を特定していないため、「局所投与による」という特徴は単に例示的なものであり、新規性を確立できるような制限的な技術的特徴ではない。したがって、Xを含む当該組成物が医療用途として先行技術において既に知られている場合、クレームされた組成物の主題は予見されることになる。

例3
避妊方法における使用のための製品X

拒絶理由: 妊娠は疾病ではないため、このようなクレームは製品X自体の開示に対して新規とはみなされない。このクレームは通常、製品Xを使用する避妊方法として再構成することができる。避妊方法が個人的かつ私的な領域に関わる場合には再構成が不可能な場合もあり、すなわち、産業上の利用という要件を満たさない場合がある(T 74/93)。

6.1.3 第54条(5)に基づく診断用途

第54条(5)に基づく診断クレームの適切な形式は、次の通りであってもよい。

Substance X

又は

Composition comprising X

for use in a method of diagnosis

“in vivo”

of disease Y

「in vivo」(生体内)という文言は、クレームの範囲を、第53条(c)に従って特許適格性が除外される診断方法に限定する。

独立クレームが組成物に関するものである場合、「使用のための」という用語の前又は後に組成物の定義を挿入することができる。

第53条(c)により特許性が排除される診断用途を定義していない目的関連製品クレームは、クレームされた用途に適した製品自体に関するクレームと解釈される。

以下の表は、第53条(c)の意味における診断用途を定義していないクレームの例を示している。

1. Substance X 又は Composition comprising X

for use in the diagnosis of disease Y,

又は for use in the “in vitro”/”ex vivo” diagnosis of disease Y

2. Substance X 又は Composition comprising X

for use as a contrast agent for imaging blood flow

クレーム1及び2は、クレームされた用途に適していると考えられる形態での製品自体、又はその第一医療用途を開示する先行技術に対して新規性を欠くことになる。

クレーム1は「Use of […] in the “in vitro/ex vivo” diagnosis of disease Y」と再構成することができる。出願時の出願が、明示的又は暗示的に、クレームされた診断方法が「生体内」で実施されることを開示している場合、クレーム1の文言は、前述の通り、「生体内」の方法のみに限定することもできる。

クレーム2は「A method for in vitro/ex vivo diagnosing disease Y using substance X […]」と再構成することができる。

クレーム1及び2は、方法クレームとして、例えば「A method for in vitro/ex vivo diagnosing disease Y using substance X […]」又は「A method for diagnosing disease Y in a sample by using substance X […]」又は「A method of imaging blood flow using substance X […]」と再構成することもできる。

これらの補正は、審査部門が規則71条(3)に基づく通知において、出願人に事前に相談することなく提案できる(C-V、1.1, (f)項参照)。

6.1.4 第54条(5)に基づく手術用途

第二手術用途を定義するクレームは、「Substance X/ Composition comprising X for use in a method of intracardiac catheterisation as a protector of blood vessel walls」(血管壁の保護剤として心内カテーテル方法での使用のための物質X/Xを含む組成物)と記載することができる。

独立クレームが組成物に向けられている場合、その組成物の定義は「for use」という用語の前又は後に挿入することができる。

第53条(c)に基づき特許適格性から除外される手術用途を定義しない目的関連製品クレームは、クレームされた用途に適した製品自体に向けられたクレームとして解釈される。

以下の表は、第53条(c)の意味における手術用途を定義しないクレームの例を示している。

6.1.5 第54条(5)に基づく従属クレーム

従属クレームの文言は、独立クレームへの従属関係を明確に反映していなければならない(T 2106/10)。適切な形式は次の通りである。

Substance (X) 又は

Composition (comprising X) (according to claim #)

for use in the therapy of disease Y according to claim # 又は

for use according to claim #

wherein

other features (e.g. it is provided as water-soluble granulates)

以下の例では、従属クレームは第54条(5)に従って正しく定式化されていない。

Claim 1: Composition comprising X for use in the treatment of Y.(Yの治療に使用するためのXを含む組成物。)

Claim 2: Composition according to claim 1, comprising 5 mg X.(5mgのXを含む、クレーム1の組成物。)

クレーム2のカテゴリーは不明瞭であり、従属関係も疑わしい。当該クレームは、製品自体に向けられたクレームに依存しているように見える。

また、当該クレームは、5mgのXを含む組成物、又は第一医療用途を開示する先行技術に対して新規性を欠くことになる。

当該クレームは、上記のように、「Composition」と「according」の間に「for use」を挿入して、再構成しなければならない。この補正は、出願人に事前に相談することなく、規則71(3)に基づく審査部門からの通知によって提案することができる(C‑V, 1.1, (f)項を参照)。

6.2 第二非医療用途

技術的効果に基づく、既知の化合物の特定の目的(第二非医療用途)への使用に関するクレームは、その技術的効果を機能的技術的特徴として含むものと解釈される。したがって、当該クレームは、当該技術的特徴が以前に公衆に利用可能になっていない場合、第54条(1)に基づく拒絶の対象とはならない(G 2/88、及びG 6/88)。既知の化合物を既知の製品を製造するために使用することの新規性は、製造された製品の新たな特性から導き出すことはできない。このような場合、化合物を製品の製造に使用することは、その化合物を使用した製品の製造プロセスとして解釈されなければならない。その製造方法自体が新規である場合にのみ、新規とみなされる(T 1855/06を参照)。第二用途又はさらなる用途に関するクレームについては、G-II, 4.2を参照のこと。

しかし、単に得られる技術的効果を説明することのみを目的とする化学的プロセスのステップの特徴は、同じ効果をもたらす同じステップを含む同じプロセスを開示する先行技術に対してクレームを新規なものとする機能的な技術的特徴ではない。たとえ、対応する技術的効果の表示を含まない場合でも、それはむしろ発見であると考えられる(T 151/13)。

7. 選択発明

選択発明は、先行技術におけるより一般的な開示から個々の要素、サブセット、又はサブレンジを選択するものである。G-VI, 5も参照。

選択発明の新規性の評価は、先行技術と比較して特定された選択の数に依存し、以下の2つのシナリオのいずれかに導かれる。

(i) 特定された選択が1つ

選択が1つの場合、以下のシナリオが考えられる。

(a) 選択されたものが個々の要素又はより大きな集合のサブセットである場合。

具体的に開示された要素の単一リストから1つ又は複数の要素を選択しただけでは新規性は認められない。

(b) 選択されたものが先行技術で開示されたより広い数値範囲から選択されたサブレンジである場合。サブレンジの選択が新規性を有するかどうかは、具体的な状況によって異なる。

先行技術に開示された特定の数値がクレームされた範囲に含まれる場合、その数値が具体的な実施例に由来するものであるか、あるいは範囲の終点として開示されているかに関わらず、クレームされた範囲の選択は新規性を有さないとみなされる。

先行技術のより広範な数値範囲から選択された範囲は、以下の2つの基準が共に満たされる場合、新規性を有するとみなされる(T 261/15参照):

– 選択されたサブレンジが既知のレンジと比較して狭いこと

– 選択されたサブレンジが先行技術に開示された具体的な実施例から十分に離れていること。

「狭い」及び「十分に離れている」の意味は、ケースバイケースで決定されなければならない。

この文脈において、先行技術の教示を踏まえた上で、当業者が選択されたサブレンジで作業することを真剣に検討するかどうかを評価しなければならない。当業者がそうするであろうと妥当に想定できる場合、選択されたサブレンジは新規性を有さない。このため、先行技術の範囲から既知の特定の新規性を喪失させる値を除外するだけでは、新規性を確立するには不十分である可能性がある。

「真剣に検討する」という概念は、進歩性を評価する際に使用される概念、すなわち、特定の先行技術と、進歩性が問題となっているクレームとの間の技術的ギャップを埋めるために、当業者が「成功の合理的見込みを持って試みた」かどうかという概念とは、基本的に異なる(G-VII, 5.3を参照)。なぜなら、予見性を確立するためには、そのようなギャップは存在し得ないからである。

例えば、クレーム1では液体洗剤組成物中の界面活性剤の3.0~6.0wt%の範囲が定義されている。D1には、1~30wt%の一般的な範囲の界面活性剤を含む液体洗剤組成物、及び25wt%の具体的な一例が開示されている。クレームされたサブレンジの選択は新規性がある。なぜなら、クレームされたレンジは先行技術のレンジと比較して狭いが、具体例とも大きくかけ離れているからである。しかし、D1の具体例が界面活性剤の4.5重量%という値を開示していたり、D1でより好ましい5-20重量%というレンジが開示されていたりする場合には、D1がクレーム1の新規性を奪うことになる。D1が代わりに2.8重量%の界面活性剤を含む実施例を開示している場合、その値2.8重量%が、クレームされた範囲3.0-6.0重量%から十分に離れているか否かを評価しなければならない。これは、当業者がクレームされた範囲で作業することを真剣に検討するかどうかを評価することで行われる。

T 1571/15では、組成によって定義された合金について、先行技術文献に開示された範囲の中心領域に該当するにもかかわらず、当業者は選択された部分範囲で真剣に作業することを考えないであろうと判断された。先行技術文献には別の領域への指針が含まれていたためである。

この原則はマーカッシュ式にも適用される。例えば、置換基が炭素原子5~10個のアルキル鎖である化学化合物を定義するクレームがある。このクレームは、炭素原子8個の先行技術の化学化合物を考慮すると新規ではない。炭素原子数が不特定の長さのアルキル鎖と炭素原子数が11の具体的な化合物を開示する先行技術文献の場合、クレームされた範囲が既知の例から十分に離れているかどうかを評価する必要ががある。

(ii) 複数の選択が特定された場合

複数の選択が特定された場合、状況はより複雑になる。選択の種類によって、一般的に次の3つのシナリオのいずれかに該当する。

(a) 特定された選択肢が個々の要素の選択肢内にあるか、又は複数のより大きな集合のサブセットの選択肢内にある。これは、ある程度の長さを持つ2つ以上のリストからの選択に相当する。リストとは、対等な、すなわち重複しない選択肢の記述である。

リストは通常、少なくとも2つ又は3つの要素の長さがあれば「一定の長さ」があるとみなされる。リストが要求される長さを有しているかどうかは、ケースバイケースで決定される。特定の長さの2つ以上のリストから選択を行い、特定の機能の組み合わせに到達する必要がある場合、先行技術に特に開示されていない結果として得られる機能の組み合わせは新規性を付与する(「2つのリストの原則」)。一方、特定の組み合わせについて先行技術に指針がある場合には、新規性は与えられない。同様に、リストの長さが単に短くされただけでは、一般的に新規性は与えられない。ただし、リストの長さが要求される長さ以下に短縮された場合はこの限りではない。

例えば、あるクレームでは、化学反応における触媒としての塩化ナトリウム(NaCl)の用途が定義されている。D1がアルカリ金属ハライドを触媒として使用することを記載しており、アルカリ金属がLi、Na、K、Rbから選択され、ハロゲンがF、Cl、Br、Iから選択される場合、クレームの特定の組み合わせに到達するには、2つのリストから選択を行う必要がある。D1にこれ以上の情報が記載されていない場合、クレームはD1に対して新規となる。

同じ原則は、マーカッシュ式で記述された化学化合物にも適用される。これには、既知の一般式から得られる個々の化学化合物が含まれ、選択された化合物は、既知の一般式に示された2つ以上の置換基リストから特定の置換基を選択した結果得られる。先行技術の混合物を構成する成分のリストから個々の成分を選択した結果得られる特定の混合物にも同じことが適用される。最終製品の製造に使用される出発物質にも同様の考慮が適用される。

(b)特定された選択肢は、より広範な数値範囲から複数の小範囲を選択したものである。この文脈における小範囲とは、先行技術の範囲内に完全に含まれるか、又は先行技術の範囲の終点と重なり、先行技術の範囲と重複する範囲を創出するものである。この2つのシナリオは、以下に図示されている。重複する範囲は「xxxx」と示されている。

前述の2つのリストの原則は、ここでも同様に適用される。(i)(b)で説明した単一の選択を含む状況とは対照的に、クレームされた各範囲を個別に見た場合、先行技術が当該範囲内の特定の数値又は範囲の終点を開示しているだけでは、クレームの主題を予見するには不十分である。つまり、複数のサブレンジの選択は、特定のサブレンジの組み合わせを示す指針が何もない場合、より広い範囲に対して新規性があるということになる。具体的な例がクレームされた範囲をわずかに逸脱している場合、当業者がクレームされた範囲のすべてで作業することを真剣に検討するかどうかを評価する必要がある。

複数のサブレンジの選択が、相互に作用する要素に関係する場合、これは合金や組成物の構成要素では一般的に見られることであるが、異なる選択肢は個別にではなく、組み合わせで考慮されなければならない(T 261/15, 理由2.3.1)。

例えば、クレーム1は、5~8 wt%のMgと12~16 wt%のZn及びその他の金属からなる合金を定義している。D1は同様の合金を開示しているが、その範囲を7~20 wt%のMgと14~22 wt%のZnと定義し、16 wt%のMgと21 wt%のZnを有する合金の具体的な一例を指定している。D1に指針や追加情報が記載されていない場合、当業者がクレームされた両方の範囲に該当する合金の使用例を真剣に検討する理由はない。

(c)特定された選択肢は、リスト及びサブレンジからの選択肢の組み合わせに含まれる。この場合、上記(ii)(a)及び(ii)(b)で説明した両方の原則を適用する必要がある。この状況は、化学分野において化合物がマーカッシュ式で記述される場合に頻繁に発生する。例えば、先行技術との相違点の1つは置換基のリストから特定の置換基を選択することであり、もう1つの相違点は先行技術で開示されているより広範な繰返し単位の数値範囲から数値の小範囲を選択することであるかもしれない。

7.1 数値の誤差範囲

測定に関する数値は、その正確さに限界を設ける測定誤差の影響を受けることを、当業者は知っている。このため、科学及び技術文献では、小数点以下の最後の数値がその正確さを示すという一般的な慣例が適用される。他の誤差範囲が示されていない場合、小数点以下最後の桁に四捨五入の慣例を適用して最大誤差範囲を確定する(T 175/97参照)。例えば、3.5cmの測定値の場合、誤差範囲は3.45~3.54となる。特許明細書における値の範囲を解釈する際、当業者は同じ基準に基づいて進める。

8. 「リーチスルー」クレームの新規性

「リーチスルー」クレームとは、酵素や受容体などの生物学的標的に対する作用(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト)という観点から化学製品を機能的に定義することにより、化学製品(及びその用途、組成物など)の保護を得ようとするクレームと定義される(F‑III, 9を参照)。このような場合、出願人は、新たに特定された生物学的標的を参照して、化学化合物をこのように機能的に定義することが多い。しかし、生物学的標的に結合し、その標的に作用する化合物は、作用する生物学的標的が新規であるという理由だけで、必ずしも新規化合物であるとは限らない。実際、多くの場合、出願人自身が出願書類に試験結果を提示しており、それによれば、既知の化合物が新しい生物学的標的にこの作用を及ぼすことが示されている。したがって、「リーチスルー」クレームの機能的定義に該当する化合物は、当技術分野において既知のものであることが示され、その結果、このように定義された化合物に関するリーチスルークレームは新規性を欠くことが確立される。

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