外国特許出願の準備はいつから?日本出願の重要性と注意点

日本への特許出願の準備の際、企業の知財担当者の方にとって、 出願のために発明を発掘して、発明のポイントをまとめ上げることは非常に重要な仕事です。そのため、そこに大きな労力を割いている方も多いと思います。

一方で、これまで外国出願の経験がない場合(又は少ない場合)、日本への出願準備時に、その出願が外国へも出願することになった場合の備えにまでは、手が回らないことが多いと思います。

この記事は、次のような考えを持っている方へ向けたものです。

  • 「外国への特許出願のことは、外国へ特許出願することが決まってから考えればよい」
  • 「日本への特許出願の審査結果は、外国への特許出願の審査には関係ない」
  • 「日本への特許出願の原稿を満足する品質でドラフトしてくれる特許事務所の担当者がいるので、 外国出願もその担当者に依頼したい」

日本出願と外国出願の関係

外国へ特許出願をした経験のある方にとっては、復習となりますが、外国へ特許出願を予定しているときには、まずは、その発明について日本へ出願することが多くあります。

日本に最初に出願する理由

日本に最初に出願をする理由の一つとしてよく挙げられるのは、日本で最初にその技術が実施されることですが、それ以外に日本に最初に出願する主な理由は次のとおりです。

  • 外国出願よりも日本出願の方が短期間、かつ、高い品質で準備できる
  • 外国出願を日本出願の後に行っても、不利な扱いを受けない

外国出願よりも日本出願の方が短期間、かつ、高い品質で準備できる

一つ目の「外国出願よりも日本出願の方が短期間、かつ、高い品質で準備できる」ですが、日本人による発明の特許出願の場合、まずは、日本語で出願書類を準備して日本へ出願する方が、外国出願のために外国語(例えば、英語)で出願書類を準備するよりもスピードの面(早期に出願日を確保する点)及び品質の面で有利です。

例えば、発明者が英語が得意な日本人であっても、日本語ネイティブである場合、発明者は、日本語の方が日本の特許事務所の担当者に発明の内容をテンポよく早く説明できると思いますし、出願原稿の草案が日本語である方が、発明者はその草案を短時間でチェックできると思います。

また、日本語の方が特許事務所の担当者に発明の内容を正確に伝えることができるし、出願原稿の草案も深い内容まで的確にチェックできると思います。

つまり、発明者が外国在住などの特別な事情がない限り、出願の準備のスピードや出願書類の品質の面を考慮すると、日本へ最初に出願した方が利点があります。

外国出願を日本出願の後に行っても、不利な扱いを受けない

二つ目の「外国出願を日本出願の後に行っても、不利な扱いを受けない」ですが、日本出願を先にして、所定の手続き(パリ優先権の主張)とともに、後から同様の発明について外国出願をすれば、その外国出願は、審査において、先にした日本出願と同じ日に出願したものとして取り扱われます

例えば、後から行った外国出願は、日本出願からその外国出願の間に公知になった技術によって、新規性や進歩性の欠如を理由に拒絶されません。

なお、先にした出願から1年以内であれば、 パリ優先権を主張して外国出願を行うことができます。

上記の二点から得られる利益を踏まえて、極端な場合、日本では実施せず、外国でのみ実施する技術であっても、まずは日本へ出願をし、その出願内容を外国語(例えば、英語)へ翻訳して外国へ出願する場合もあります。

日本出願と外国出願は密接に関係している

注意点として、外国出願でパリ優先権の主張の利益が得られるのは、その外国出願の発明の内容のうち、先にした日本出願の発明と同様の内容についてのみです。

従って、日本出願の出願書類に記載した発明の内容と同様の内容が、外国出願においても審査される場合が多くなります。

つまり、日本出願と外国出願は密接に関係していると考えられます。

従って、日本出願の段階から外国出願の準備が始まっていると考えるとよいでしょう。

日本出願の重要性

外国出願の審査結果は、日本出願の審査結果と同じような結果になる可能性がある

上記で、 日本出願の出願書類に記載した発明の内容と同様の内容が、外国出願においても審査される場合が多くなると説明しました。

これはつまり、外国出願の審査結果は、日本出願の審査結果と同じような結果になる可能性があることを意味します。

実際には、外国出願と日本出願の審査結果が大きく異なることもありますが、可能性としては、同じような結果になることが多くあります。

例えば、日本出願の準備で、適切に先行技術調査が行われ、適切に出願書類がドラフトされていたことにより、拒絶理由通知を受けることなく、又は軽微な補正のみで早期に特許を取得できたとします。

このような場合、外国出願でも早期に特許を取得できる可能性があります。

悪い例として、日本出願の準備で適切に出願書類がドラフトされなかったことにより、非常に狭い範囲でしか日本で特許を取得できなかったとします。

この場合、外国出願でも狭い範囲でしか特許を取得できない可能性があります。

つまり、日本出願がうまくいけば、外国出願でもうまくいく可能性があり、日本出願がうまくいかなければ、外国出願もうまくいかない可能性があるということです。

外国出願をする場合、日本出願が適切に行われることが重要

言い方を変えると、日本のみに出願する場合と比較して、外国へも出願する場合、日本出願がうまくいったときも、うまくいかなかったときも、その波及効果が大きいということです。

したがって、外国出願をする場合、日本出願が適切に行われることが重要になります。

日本出願の準備で気を付けること

日本出願が適切に行われるためにはどのようなことに気を付ければいいでしょうか。

まずは、特許出願書類(特許請求の範囲、明細書等)が高い品質で作成されていることが必要です。

特許出願書類の品質を評価することは簡単ではありませんが、少なくとも次の点が評価のポイントになります。

  • 技術的に正しく記載されているか
  • 強い権利となるように記載されているか
  • 分かりやすい表現で、誤字や脱字なく記載されているか
  • 外国出願の特許要件も考慮して記載されているか

技術的に正しく記載されているか

「技術的に正しく記載されている」といえるためには、例えば、発明者が意図する発明のポイントをしっかりと押さえて記載されていること、技術的な矛盾がないように記載されていることが必要です。

強い権利となるように記載されているか

「強い権利となるように記載されている」といえるためには、例えば、権利行使が容易となるような観点で特許の権利範囲が設定されていることが必要です。

また、権利範囲が狭すぎる特許は、特許権侵害を回避されやすいため、強い権利とは言えませんが、逆に不必要に権利範囲が広い特許は潰されやすいため、広すぎる特許も強い権利とは言えない場合があります。

分かりやすい表現で、誤字や脱字なく記載されているか

「分かりやすい表現で記載されている」といえるためには、日本語として読んで分かりやすいことは大前提ですが、それ以外に、外国語への翻訳時に誤訳を防ぐために、例えば、次のような点に注意して出願書類を記載するとよいでしょう。

  • 一文が長くなりすぎないようにする
  • 特殊な用語、難解な用語の使用を極力避ける
  • 主語と述語の関係が明確になるようにする

三つ目の点に関して、特に、日本語は主語が省略されることがありますが、それは誤訳の原因になりますので、好ましくありません。

外国出願の特許要件も考慮して記載されているか

「外国出願の特許要件」としては、特に注意すべきものとしては、発明該当性(出願に係る発明の対象が特許の対象として認められているか否か)、補正要件です。

これらは、弁理士事務所に特許出願の依頼をする際に、確認をするとよいでしょう。

発明該当性については、特に、ソフトウェア分野、バイオテクノロジー分野、医薬分野の技術で注意が必要です。

どこに特許出願を依頼するか

以上のことから、日本への出願準備の段階で、外国へ出願することが決まっている場合には、日本出願の手続きを依頼する弁理士事務所へそのことを伝え、外国出願にも対応できるしっかりとした書類を準備することが必要となります。

弁理士又は弁理士事務所によって、提供する外国出願のサービスのレベルにはばらつきがあります。

そのため、誰に特許出願を依頼するかの検討も重要になります。

日本出願の経験が豊富な弁理士が外国出願の経験も豊富とは限らない

注意点として、日本出願に関して高い経験やノウハウを持った弁理士が、外国出願に関しても高い経験やノウハウを持っているとは限らないということです。

つまり、御社が日本出願に関して信頼できる弁理士を知っているとしても、外国出願に関してもその弁理士を信頼してよいかは別の問題ということです。

また、日本出願の担当と外国出願の担当とで異なる部門を設けている弁理士事務所もありますが、同様に、日本出願を担当する部門が良いサービスを提供していても、外国出願を担当する部門が良いサービスを提供するとは限りません。

外国出願の知識や経験を持っているかを確認する

可能であれば、出願の依頼を考えている弁理士事務所が外国出願の知識や経験を十分に持っているか否かを確認するとよいでしょう。

とはいっても、実際にサービスを受けてみなければ、その弁理士事務所が知識を十分に持っているか否かを確認することは難しいです。

確認方法の一つとして、例えば、上記で説明した発明該当性について質問をしてみると良いでしょう。

具体的には、御社の発明が米国や欧州における発明該当性の要件を満たすか否かを質問し、的確な回答を得られたかを確認するとよいでしょう。

また、複数の事務所に継続的に外国出願を依頼し、サービス内容を比較する方法も考えられます。

以上のように、信頼できる弁理士事務所との関係作りは、外国出願の成功のための要因の一つとなると考えられますので、どこに特許出願を依頼するかについて留意することも必要です。

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