EPC第84条は、クレームの記載要件について規定しています。当該要件は、日本におけるクレームの裏付け(サポート)及び明確性の要件(特許法第36条第6項第1から3号)に対応します。
第84条 クレーム クレームは、保護が求められている事項を定義する。クレームは、明確かつ簡潔であり、明細書により裏付けがされているものとする。 |
EPC第84条違反は、拒絶理由に該当しますが、原則、異議申立理由に該当しません(EPC第100条)。
以下は、EPC第84条のクレームの記載要件について説明する審査ガイドラインのF-IVの記載(2024年版)の参考和訳です。正確な内容は原文を確認ください。
- 欧州特許審査ガイドラインF-IV:クレーム(84条及び方式要件)(2024年版)
- 1. 総論
- 2. クレームの方式及び内容
- 3. クレームの種類
- 4. クレームの明確性と解釈
- 4.1 明確性
- 4.2 解釈
- 4.3 不整合
- 4.4 一般的記述、「発明の精神」、クレーム的な文節
- 4.5 本質的特徴
- 4.6 相対的な用語
- 4.7 「about」、「approximately」、「substantially」などの用語
- 4.8 商標
- 4.9 選択的特徴
- 4.10 達成すべき結果
- 4.11 パラメータ
- 4.12 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
- 4.13 目的を示す表現の解釈
- 4.14 他の実体への(使用による)参照による定義
- 4.15 「における」という表現
- 4.16 使用クレーム
- 4.17 明細書又は図面への言及
- 4.18 参照符号
- 4.19 否定的な限定(例えば、ディスクレーマー)
- 4.20 「Comprising」と「consisting of」の比較
- 4.21 病態の機能的定義
- 4.22 広いクレーム
- 4.23 クレームの順序
- 4.24 アミノ酸または核酸配列に関する同一性や類似性などの用語の解釈
- 5. 簡潔性、クレーム数
- 6. 明細書の裏付け
- 付録
欧州特許審査ガイドラインF-IV:クレーム(84条及び方式要件)(2024年版)
1. 総論
出願は「1つ以上のクレーム」を含まなければならない。
クレームは以下のものでなければならない。
(i) 「保護を求める事項を規定し」
(ii) 「明確かつ簡潔であり」、かつ
(iii) 「明細書によって裏付けられている」
欧州特許又は出願によって与えられる保護の範囲は、(明細書及び図面の補助により解釈される)クレームによって決定されるため、クレームの明確性は最も重要である(F-IV, 4も参照)。
2. クレームの方式及び内容
2.1 技術的特徴
クレームは「発明の技術的特徴」の観点から作成されなければならない。これは、クレームは、例えば、商業的な利点又は発明の「実施」に関係のない他の事項に関する記載があってはならないが、発明の定義に役立つのであれば、目的の記載は認められる。
全ての特徴が構造上の限定として表現される必要はない。機能的な特徴は、当業者であれば、発明的技能を行使することなくこの機能を果たす何らかの手段を提供することが困難でない場合に限り、含めることができる(F-Ⅳ、6.5 参照)。病状の機能的定義の具体的な事例については、F-Ⅳ、4.21を参照。
発明の技術的応用という意味での発明の使用に関するクレームは認められる。
2.2 2部構成
規則43(1)(a)及び(b)は、クレームが「適切である限り」備えていなければならない2部構成を規定している。
第1の部分又は「前文」には、「発明の主題の指定」、すなわち、発明が関連する装置、プロセス等の一般的な技術的分類を示す記載が必要であり、その後に、「クレームされた主題の定義に必要であるが、組み合わされて先行技術の一部である技術的特徴」を記載する必要がある。クレームの第1の部分に先行技術の特徴を記載するというこの要件は、独立クレームにのみ適用され、従属クレームには適用されない(F-Ⅳ、3.4参照)。規則43の文言から明らかなように、発明に関連する先行技術の特徴にのみ言及すればよい。例えば、発明が写真カメラに関するものであるが、進歩性が全てシャッターに関するものであれば、クレームの第1の部分は:「フォーカルプレーンシャッタを含む写真カメラ」と記載すれば十分であり、レンズやビューファインダなどのカメラの他の既知の特徴に言及する必要はない。
第2の部分又は「特徴部分」には、発明が先行技術に追加する特徴、すなわち、第1の部分に記載された特徴と組み合わせて保護が求められる技術的特徴を記載する必要がある。
54条(2)に従う技術水準における1つの文書、例えば調査報告で引用された文書により、クレームの第2の部分に記載された1つ又は複数の特徴が、クレームの第1の部分に記載された全ての特徴と組み合わせて既に公知であり、その組み合わせにおいて、本発明による完全な組み合わせにおいて有するのと同じ効果を有することが明らかである場合、審査部門は、そのような1つ又は複数の特徴を第1の部分に移すことを要求する。
しかしながら、クレームが新規な組み合わせに関するものであり、クレームの特徴を前文と特徴部との間で不正確になることなく複数の方法で分割することができる場合、出願人は、非常に重大な理由がない限り、その分割が不正確でないのであれば、選択した特徴部とは異なる分割を採用するよう迫られてはならない。出願人が、最も近接する先行技術から導き出せるよりも多くの特徴を前文に含めることを主張した場合、これは認められる。
他に利用可能な先行技術がない場合、クレームのこの第1の部分は、進歩性の欠如を理由とする拒絶の提起に使用することができる(G-VII、5.1、最終段落参照)。
2.3 2部構成が不適切
F-IV、2.3.2、最終文の記載に従うことを条件として、出願人は、例えば、発明が部品又はステップの古い組み合わせにおける明確な改良にあることが明らかな場合、独立クレームにおいて上記の2部構成に従う必要がある。ただし、規則43に示されているように、この形式は適切な場合にのみ使用する必要がある。発明の性質によっては、このようなクレームの形式が適さない場合がある。例えば、このようなクレームの形式は、発明や先行技術を歪曲したり誤解させたりすることになるからである。異なる提示を必要とする発明の例としては、以下のようなものがある。
(i) 同等の状態にある既知の完全体の組合せであって、進歩性がその組合せにのみあるもの、
(ii) 既知の化学的プロセスの変更であり、追加とは異なり、例えば、ある物質を省略したり、ある物質を別の物質に置き換えたりするもの、及び
(iii) 機能的に相互に関連する部分からなる複雑なシステムであって、進歩性がこれらの部分のいくつか又はその相互関係における変化に関するもの。
(i)と(ii)の例では、規則43のクレーム形式は人為的で不適切である可能性があり、(iii)の例では、過度に長く複雑なクレームになる可能性がある。規則43のクレーム形式が不適切なもう一つの例は、発明が新規の化合物又は化合物群である場合である。また、出願人が別の形式のクレームを作成する説得力ある理由を説明できるケースも考えられる。
2.3.1 2部構成不要
規則43のクレーム形式が回避される特別な例がある。これは、関連する唯一の先行技術が54条(3)に該当する他の欧州特許出願である場合である。ただし、そのような先行技術は、明細書中で明確に認めなければならない(F-II、4.3、最終段落、及びF-II、4.4参照)。
2.3.2 「適切である限り」2部構成
クレームを規則43(1)第2文に規定する様式で記載するかどうかを検討する場合、この様式が「適切」かどうかを評価することが重要である。この点で、2部形式の目的は、当業者が、クレームされた主題の定義に必要などの特徴が、組み合わせにおいて先行技術の一部であるかを明確に理解できるようにすることである。規則42(1)(b)の要件を満たすために、明細書に記載された先行技術の表示からこのことが十分に明らかであれば、2部形式は主張されない。
2.4 式及び表
クレームは、明細書と同様に、化学式又は数式を含んでもよいが、図面を含むことはできない(2022年11月25日付け特許庁長官の決定、OJ EPO 2022, A113, Art. 2(8)).クレームは表を含むことができるが、「その主題が表の使用を望ましいものとする場合に限る」。本決定における「望ましい」という言葉の使用に鑑み、審査部門は、この形式が便利である場合、クレームに表を使用することを拒絶しない。
3. クレームの種類
3.1 カテゴリー
EPCは、クレームの異なる「カテゴリー」(「製品、プロセス、装置又は使用」)に言及している。多くの発明では、十分な保護のためには複数のカテゴリーに属するクレームが必要となる。実際は、クレームには、物理的実体(製品、装置)に対するクレームと、活動(プロセス、使用)に対するクレームという2つの基本的な種類しかない。最初の基本的なクレーム(「製品クレーム」)には、物質又は組成物(例えば、化合物又は化合物の混合物)、及び人の技術的技能によって製造されるあらゆる物理的実体(例えば、物体、物品、装置、機械、又は協働する装置のシステム)が含まれる。例えば、「・・・自動フィードバック回路を組み込んだステアリング機構」、「・・・からなる織物衣服」、「X、Y、Zからなる殺虫剤」、又は「複数の送受信局を備える通信システム」などである。2つ目の基本的なクレーム(「プロセスクレーム」)は、プロセスを実現するための何らかの物質的製品の使用が暗示されるあらゆる種類の活動に適用され、その活動は、物質的産物、エネルギー、(制御プロセスのような)他のプロセス、又は生物に対して行使されることがある(ただし、G-II, 4.2及びG-II, 5.4を参照)。
規則43(2)は、規則44(1)と組み合わせて、同一の出願に異なるカテゴリーのクレームの次の組み合わせのいずれかを含めることを許可していると解釈すべきである。
(i) 所定の製品に関する独立クレームに加え、当該製品の製造のために特別に適合されたプロセスに関する独立クレーム及び当該製品の使用に関する独立クレーム
(ii) 所定のプロセスに関する独立クレームに加え、当該プロセスを実施するために特別に設計された装置又は手段に関する独立クレーム、又は
(iii) 所定の製品に関する独立クレームに加え、当該製品の製造のために特別に適合されたプロセスに関する独立クレームと、当該プロセスを実施するために特別に設計された装置又は手段に関する独立クレーム。
ただし、上記(i)、(ii)又は(iii)の組み合わせのいずれか1つによる1組の独立クレームは常に許容されるが、1つの欧州特許出願における複数の独立クレームは、規則43(2)(a)から規則43(2)(c)に規定される特定の状況が適用され、かつ、第82条および第83条の要件が満たされる場合にのみ許容される。したがって、この種の結合の効果から生じる多数の独立クレームは、例外的にのみ認められる。
欧州特許の主題がプロセスである場合、特許によって与えられる保護は、そのようなプロセスによって直接得られる製品に及ぶ。
3.2 独立クレームの数
すべての欧州特許出願に適用される規則43(2)によれば、独立クレームの数は、各カテゴリーにおいて1つの独立クレームに制限される。
この規則からの例外は、単一性に関する82条の要件を満たすことを前提に(F‑V参照)、この規則の(a)、(b)又は(c)に規定される特定の状況においてのみ認められる。
以下は、1カテゴリーにつき1つの独立クレームという原則の例外の範囲に入る典型的な状況の例である:
(i) 相互に関連する複数の製品の例(規則43(2)(a))
– プラグとソケット
– 送信機 – 受信機
– 中間製品及び最終化学製品
– 遺伝子-遺伝子構成-ホスト-タンパク質-薬剤
規則43(2)(a)の目的上、「相互に関連する」という用語は、「互いに補完し合うか又は協働する異なる対象物」を意味すると解釈される。さらに、規則43(2)(a)は、「製品」という用語に装置が含まれると考えられることから、装置のクレームも対象となると解釈することができる。同様に、システム、サブシステム、及びそのようなシステムのサブユニットも、これらのエンティティが相互に関連している限り、含むことができる。相互に関連する方法のクレームも、規則43(2)(a)の例外に該当する可能性がある。
(ii) 製品又は装置の複数の異なる発明的用途の例(規則43(2)(b))
– 第一医薬用途が知られている場合、さらなる医薬用途に向けたクレーム(G-Ⅱ、4.2 参照)
– 複数の目的、例えば、毛髪を美容的に強化するため、及び毛髪の成長を促進するための化合物Xの使用に向けられたクレーム
(iii) 特定の問題に対する代替的解決策の例(規則 43(2)(c))。
– 化合物群
– そのような化合物を製造するための2つ以上のプロセス
(iv) 許容されるクレームタイプの例
– 新規かつ進歩性のあるポリペプチドP、例えば、化合物の合成における特定のステップを制御する酵素を含む複数の方法に向けられたクレーム:
ポリペプチドPの製造方法、
単離されたポリペプチドまたは前記ポリペプチドを発現する宿主細胞のいずれかを用いて化合物を製造する方法、
本発明のポリペプチドを発現するか否かに基づいて宿主細胞を選択する方法。
– バスに結合された複数のデバイス間でデータパケットを送信するデータ送信方法;
バスに結合された複数のデバイス間でデータパケットを受信するデータ受信方法。
– ステップA、B、…を含むデータ処理システムの動作方法-前記方法を実行するための手段を含むデータ処理装置/システム-前記方法を実行するように適合されたコンピュータプログラム[製品]-前記プログラムを含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体/データキャリア;
ただし、複数の独立したクレームが、十分に異ならない等価な実施形態に向けられている場合(例えば、前記方法を実行するように適合されたコンピュータプログラムであって、任意選択で電気的搬送波信号上に搬送される – 方法ステップA、B…を実行するように適合されたソフトウェアコードを有するコンピュータプログラム)、規則43(2)の例外は通常適用されない。
規則43(2)(c)の目的上、「代替的解決策」という用語は「異なる又は相互に排他的な可能性」と解釈することができる。さらに、一つのクレームで代替的な解決策をカバーすることが可能であれば、出願人はそうすべきである。例えば、同一カテゴリーの独立クレームの特徴における重複や類似は、例えば、不可欠な特徴に共通する文言を選択することにより、当該クレームを単一の独立クレームに置き換えることが適切であることを示すものである(F-Ⅳ、4.5参照)。
3.3 規則43(2)又は規則137(5)に基づく拒絶
審査中の出願において、調査(B-VIII, 4.1及びB-VIII, 4.2参照)後に同一カテゴリーの正当化されない複数の独立クレームが存続する場合、規則43(2)に基づき拒絶が提起される。調査段階で規則62a(1)の求めが送付されていない場合でも、審査部は規則43(2)に基づき拒絶を提起することができる。出願が補充欧州調査報告書(B-II, 4.3.1参照)の作成の対象とならないEuro-PCT出願である場合、審査においても規則43(2)に基づいて拒絶が提起される可能性がある。
規則43(2)に基づく拒絶が提起された場合、出願人はクレームを適切に補正するよう求められる。規則62aに従って調査が制限され、規則62a(1)に基づく通知に応答して(B-VIII,4. 2.2)又は規則70aに基づく調査意見書に応答して(B-X, 8参照)出願人から反論が提出される可能性があるにもかかわらず、審査部が規則43(2)に基づく拒絶を支持した場合、クレームは、調査から除外された全ての主題が削除されるように補正され(規則62a(2))、明細書もそれに従って補正されなければならない(H-II, 5参照)。
(審査部からの通知で提起又は確認された)理由の示された拒絶に応答して、追加の独立クレームが維持され、かつ、規則43(2)(a)から(c)に規定された状況のいずれかに該当することを示す説得力の ある主張が提出されない場合、出願は、第97条(2)に基づき拒絶されうる。
規則43(2)に準拠するクレームを提供するように出願が補正されたが、規則62a(1)に従って調査対象から除外された主題を対象とする1つ又は複数のクレームを含む場合、規則137(5)に基づく拒絶が生じ、そのような補正は認められないことがある(H-Ⅳ,4及びH-Ⅳ,4.1.1も参照)。 ただし、このような決定を下す前に、規則62a(1)に基づく求めが送付されたクレームが実際に規則43(2)に準拠しているかどうかという根本的な問題について第113条(1)に従って出願人に意見を述べることを認める必要がある。
規則43(2)に基づく拒絶に関する立証責任は、まず出願人に転嫁される。すなわち、追加の独立クレームを維持できる理由を説得的に主張するのは出願人にである。例えば、クレームの数が出願人が求める全体的な保護範囲を提供するために必要な最小限のものであるという主張のみでは、説得力のある主張とは言えない(T 56/01、理由5参照)。
出願が発明の単一性をも欠いている場合、部門は規則43(2)又は第82条のいずれか、または両方の拒絶を提起することができる。出願人はこれらの拒絶のいずれが優先するかを争うことはできない。
3.4 独立クレームと従属クレーム
全ての出願は、発明の本質的特徴に向けられた1つ以上の「独立」クレームを含む。このようなクレームには、その発明の「特定の実施形態」に関する1つ以上のクレームが続くことがある。特定の実施形態に関するクレームは、発明の本質的特徴も実際に含まなければならず、したがって、少なくとも1つの独立クレームの全ての特徴を含まなければならないことは明らかである。「特定の実施形態」という用語は、独立クレーム又はクレームに記載されたものよりも発明の1つ以上の具体的な開示を意味するものとして広く解釈される。
他のクレームの特徴を全て含むクレームは「従属クレーム」と呼ばれる。このようなクレームは、可能であれば冒頭に、そのクレームが含む他のクレームの全ての特徴への言及を含まなければならない(但し、異なるカテゴリーのクレームについては、F-IV, 3.8を参照のこと)。従属クレームは、それ自体で、クレームする主題の特徴的な特徴をすべて定義するわけではないので、このようなクレームでは、「characterised in that」又は「characterised by」といった表現がは必要ではないが、許容される。発明の更なる特定事項を定義するクレームは、他の従属クレームの全ての特徴を、そのクレームを参照することによって含むことができる。また、場合によっては、従属クレームは、複数の従前のクレーム(独立クレーム又は従属クレーム)に適切に追加され得る特定の特徴又は特徴を定義することができる。それはいくつかの可能性がある。従属クレームは、1つ以上の独立クレーム、1つ以上の従属クレーム、または独立クレームと従属クレームの両方を参照することができる。
独立クレームが代替的な解決策を明示的に参照し、その代替的な解決策が従属クレームにおいて別個にクレームされることもある。このようなクレームは冗長に見えるかもしれないが、出願人がクレームを限定したい場合、国内手続において重要な場合がある。
部門は、このようなクレームがクレーム全体の明確性を損なう場合にのみ拒絶する。
2つのカテゴリーの独立クレームを代替的に明示的に参照する従属クレームは、この理由のみで拒絶されない。例えば、発明が組成物とその組成物の使用の両方に関するものである場合、組成物のさらなる特徴を特定するクレームを、組成物に関する独立クレームとその使用に関する独立クレームの両方に従属させることは可能である。
しかしながら、この種のクレームの従属性が明確性の欠如につながる場合には、拒絶が提起される。
3.5 クレームの配置
一つの前のクレームに遡及する全ての従属クレーム及びいくつか前のクレームを参照する従属クレームは、可能な範囲及び最も適切な方法でグループ化されなければならない。従って、関連するクレームの関連性を容易に判断でき、関連するクレームの意味を容易に解釈できるような配置でなければならない。クレームの配置が、保護されるべき主題の定義に不明瞭さを生じさせるようなものである場合、部門は拒絶する。ただし、一般に、対応する独立クレームが許可される場合、従属クレームが真に従属するものであり、従って対応する独立クレームに定義される発明の保護範囲を何ら拡張するものではないことが満たされるのであれば、部門は従属クレームの主題に過度に懸念することはない(F-IV, 3.8も参照)。
3.6 従属クレームの主題
独立クレームに2部形式が使用されている場合、従属クレームは、特徴部分だけでなく、前段部分の特徴の更なる詳細に関連する可能性がある。
3.7 クレーム中の代替事項
独立クレーム又は従属クレームであるかに関わらず、一つのクレームにおける代替事項の数及び表示によってクレームが不明瞭になったり、解釈が 困難にならないこと、及びクレームが単一性の要件を満たしていることを前提に、クレームは代替事項に言及することができる(F-V、 3.2.1及び3.2も参照)。(化学的又は非化学的)代替物を定義するクレーム、すなわちいわゆる「マーカッシュグループ」の場合、代替物が類似の性質を有し、互いに公平に代替できる場合、発明の単一性が存在するとみなされる(F-V、3.2.5参照)。
3.8 他のクレーム又は他のカテゴリーのクレームの特徴への言及を含む独立クレーム
他のクレームへの言及を含むクレームは、規則43(4)で定義される従属クレームとは限らない。その一例として、別のカテゴリーのクレームに言及するクレームがある(例えば、「クレーム1の方法を実施するための装置…」や「クレーム1の製品の製造方法…」など)。同様に、F-Ⅳ, 3.2(i)のプラグとソケットの例のような状況では、一方の部品に対するクレームが他方の協働部品に言及している場合(例えば、「クレーム1のソケットと協働するためのプラグ …」)は従属クレームではない。これら全ての例において、部門は、当該言及を含むクレームが言及されたクレームの特徴を必然的に含む範囲と含まない範囲とを慎重に検討する。実際、単に「クレーム1の方法を実施するための装置」と記載されたクレームには、明確性の欠如や技術的特徴の記載不備(規則43(1))を理由とする拒絶が適用される。カテゴリーの変更によりクレームは既に独立したものとなるため、出願人はクレームにおいて装置の本質的特徴を明確に記載する必要がある。
「クレーム1に係る装置を使用するための方法」と記載されたクレームについても同様である。使用クレームとして形成された当該方法クレームは、装置を使用するために実行されるステップを欠いており(F-Ⅳ、4.16参照)、したがって明確ではない。
独立クレームが他の独立クレームへの言及で構成されることが多い、コンピュータ実装発明に 関するクレームについては、F-IV 3.9を参照のこと。
あるカテゴリーのクレームの主題は、他のカテゴリーの特徴の観点からもある程度定義することができる。従って、ある装置は、構造が十分に明確であれば、それが実行できる機能の観点から定義することができる。ただし、これらのクレームの文言及びクレーム主題の評価においては、製品クレーム(装置、機器又はシステムに関するクレーム)と方法クレーム(プロセス、活動又は用途に関するクレーム)との明確な区別を維持しなければならない。例えば、装置のクレームは、通常、装置が使用される方法のみによって限定することはできない。このため、単に「方法Yを実施するために使用される装置Z」と記載されたクレームも、明確性を欠き、技術的特徴を記載していないという理由で拒絶される(規則43(1))。
製品を製造するための方法クレームの新規性及び進歩性については、以下の条件を満たせば、別途審査する必要はない:
– 製品クレームに必然的に定義される製品のすべての特徴(G-VII, 14も参照)が、クレームされた方法から生じる(F-IV, 4.5 及びT 169/88参照)。
– 製品クレームに特許性があること。
これは、製品が特許可能であり、その使用が製品クレームのすべての特徴を明示的又は黙示的に実施している場合、製品の使用に関するクレームの場合にも適用される(T 642/94及びT 1144/07参照)。その他のすべての場合において、言及されたクレームの特許性は、言及を含む独立クレームの特許性を必ずしも意味しない。方法、製品及び/又は用途のクレームが異なる有効日を有する場合(F-VI, 1及び2参照)、中間文献の観点から、別個の審査が依然として必要となる場合がある(G-VII, 14も参照)。
3.9 コンピュータ実装発明に関するクレーム
「コンピュータ実装発明」(CII)という表現は、コンピュータ、コンピュータネットワーク又はその他のプログラム可能な装置を伴い、少なくとも一つの機能がプログラムによって実現されるクレームを対象とする。
CIIに関連するクレームは、コンピュータ・プログラムが実行される際に意図されるプロセスの技術的効果に不可欠なすべての特徴を定義しなければならない(F-IV、4.5.2、最終文参照)。第 84 条に基づく拒絶は、クレームにプログラムのリストが含まれている場合に提起される可能性がある。プログラムからの短い抜粋は、明細書中で認められることがある(F-Ⅱ、4.12 参照)。
以下の3つのセクションでは、3つの状況について分けて説明する。F-IV 3.9.1に規定する実施態様は、すべての方法ステップが汎用的なデータ処理手段によって実施 できる発明に限定される。一方、F-IV 3.9.2は、少なくとも一つの方法ステップが特定のデータ処理手段又はその他の技術的装置の使用を規定する発明に関するものである。分散コンピューティング環境で実現される発明は、F-Ⅳ、3.9.3で議論される。
3.9.1 すべての方法ステップが汎用のデータ処理手段によって完全に実装できる場合
一般的なタイプのCIIは、すべての方法ステップが、発明の文脈では汎用的なデータ処理機能を提供する手段上で実行されるコンピュータ・プログラム命令によって完全に実行できる主題に関する。このような手段は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、プリンタなどに組み込まれることがある。そのような発明では、異なるクレーム構造が可能であるが、クレームのセットは通常、方法のクレームから始まる。発明の完全な保護を得るために、方法のクレームに対応する主題を有する他のカテゴリーのクレームをさらに含めることができる。発明が、メモリにロードされ、ネットワークを介して送信され、又はデータキャリア上で頒布され得るソフトウェアに関するものである場合には、コンピュータで実装される方法の他に、コンピュータ・プログラム[製品]に対するクレームが存在してもよい。コンピュータ・プログラム[製品]のクレームのカテゴリーは、対応するコン ピュータ実装方法のカテゴリーとは区別される(T 424/03及びG 3/08)。以下の非網羅的なリストは、このような一連のクレームにおいて許容されるクレームの形式の例である(T 410/96、T 1173/97及びT 2140/08):
(i) 方法のクレーム(クレーム1)
– ステップA、B、…を含むコンピュータ実装方法。
– ステップA、B、…を含むコンピュータによって実行される方法。
(ii) 装置/デバイス/システムのクレーム(クレーム2)
– クレーム1の方法[のステップ]を実行するための手段を含むデータ処理装置/デバイス/システム。
– ステップAを実行するための手段と、ステップBを実行するための手段と、…を含むデータ処理装置/デバイス/システム。
– クレーム1の方法の[ステップを]実行するように適合され/構成されたプロセッサを備えるデータ処理装置/デバイス/システム。
(iii) コンピュータ・プログラム[製品]クレーム(クレーム3)
– プログラムがコンピュータによって実行されると、コンピュータにクレーム1の方法[のステップ]を実行させる命令を含むコンピュータ・プログラム[製品]。
– プログラムがコンピュータによって実行されるとき、コンピュータにステップA、B、…を実行させる命令を含むコンピュータプログラム[製品]。
(iv) コンピュータ読み取り可能な[記憶]媒体/データキャリアのクレーム(クレーム4)。
– コンピュータによって実行されたときに、コンピュータにクレーム1の方法[のステップ]を実行させる命令を含む、コンピュータ読み取り可能な[記憶]媒体。
– コンピュータによって実行されると、コンピュータにステップA、B、…を実行させる命令を含むコンピュータ読み取り可能な[記憶]媒体。
– クレーム3のコンピュータ・プログラム[製品]を記憶したコンピュータ読み取り可能なデータキャリア。
– クレーム3のコンピュータ・プログラム[製品]を搬送するデータキャリア信号。
上記(ii)の形式において、手段+機能タイプ(”means for …”)の装置の特徴は、単にそれらを実行するのに適した手段ではなく、それぞれのステップ/機能を実行するのに適合した手段として解釈される(T 410/96)。「~のための手段を含む」、「~するようにに適合した」、「~するように構成された」、またはこれらに相当するものの中で、特に表現を選好することはない。このようにして、プログラムされていないデータ処理装置や、異なる機能を実行するようにプログラムされたデータ処理装置よりも新規性が認められる。
クレームセットが上記(i)~(iv)の各形式からの1つのクレームを含む場合、規則43(2)に基づく拒絶は提起されない。このような場合、規則43(2)の要件が満たされるため、調査段階では規則62a(1)に基づく求めは送付されない。
ただし、規則43(2)に基づく拒絶は、所定の(i)~(iv)からの複数の独立クレームが存在し、それらが規則43(2)の例外に該当しない場合に提起される(F-IV、3.2)(例えば、規則43(2)の例外のいずれかに該当すると考えることができない2つ以上のコンピュータプログラム[製品]クレーム)。
上記(形式(i)~(iv))で定義されたクレームセットの新規性及び進歩性を評価する場合、通常、部門は方法のクレームから開始する。方法クレームの主題が新規性及び進歩性を有すると考えられる場合、上記の見出しに従って形成された一組のクレームの他のクレームの主題も、方法の特許性を保証する全ての特徴に対応する特徴から構成されるのであれば、通常、新規性及び進歩性を有する。
形式(i)~(iv)とは異なる態様のCIIに関するクレームは、明確性、新規性、進歩性の要件に照らし、ケースバイケースで評価される(F-Ⅳ、3.9.2も参照)。
例えば、発明が分散コンピューティング環境において実現される場合、又は相互に関連する製品を含む場合、形式(ii)~(iv)のように他のクレームに単に言及するのではなく、異なるエンティティの具体的な特徴に言及し、すべての本質的特徴の存在を確実にするためにそれらがどのように相互作用するかを定義する必要がある場合がある。このような場合、相互に関連する製品及びその対応する方法に対する更なる独立クレームも、規則 43(2)(a)に基づき許容される可能性がある(F-Ⅳ、3.2 及び F-Ⅳ、3.9.3)。
同様に、ユーザーとの相互作用が必要な場合で、クレームからどのステップがユーザーによって実行されるかを判断することができない場合には、第 84 条に基づく拒絶が提起される可能性がある。
さらに、形式(i)~(iv)に加えて、コンピュータで実装されたデータ構造に対するクレームは、それ自体の技術的特徴、例えば、T 858/02 のように明確に定義された構造によって定義され、場合によっては、それが使用される対応する方法又はシステムへの言及を伴う場合には、規則 43(2)に基づき許容される可能性がある。しかし、コンピュータで実装されたデータ構造は、それが生成されるプロセスの特徴を必ずしも含んでいない。また、それが使用される方法によっても必ずしも限定されない。したがって、コンピュータで実装されたデータ構造に対するクレームは、通常、単に方法への言及やプロセスの成果として定義することはできない。データ構造の詳細については、G-Ⅱ、3.6.3を参照のこと。
CIIのケースでよくあるような第 52 条(2)に基づく除外に関連する特徴を含むクレームの進歩性の評価については、第 52 条(2)を参照されたい。52(2)については、G-VII, 5.4.を参照のこと。
3.9.2 方法ステップが追加の装置及び/又は特定のデータ処理手段を定義する場合
方法クレームが汎用のデータ処理手段以外の装置によって実行されると定義されたステップを含 む場合、対応する装置及び/又はコンピュータ・プログラムのクレームは、第 84 条の要件を満たすた めには、F-Ⅳ、3.9.1 の形式(i)~(iv)のように方法クレームへの単なる言及以上のものを必要とすることが ある(F-Ⅳ、3.8 も参照)。さらに、方法に言及する他のカテゴリーのクレームに反映されているのが、当該方法のクレームのすべての特徴ではないない場合、当該他のカテゴリーのクレームは、新規性及び進歩性に関して個別に解釈され、審査されなければならない。
特に、医療機器、測定、光学、電気機械、工業生産プロセスなどの応用分野では、方法クレームは、コンピュータ制御を使用して技術的物理的実体を操作又は相互作用させるステップを含むことが多い。これらの方法ステップは、必ずしもコンピュータによって完全に実行されるとは限らず、方法クレームには、ステップの一部を実行するための特定の技術的手段が記載されている場合がある。このような場合、F-Ⅳ、3.9.1(iii)のようにコンピュータ・プログラムのクレームを定義することは、特定の技術的手段によって実行されるステップが汎用のデータ処理手段によって実行できない場合、通常、第84条に基づく拒絶につながる(後述の例1参照)。 また、クレームに、データのプロセッサ又は関係する追加装置によってどのステップが実行されるか、及びそれらの相互作用が定義されていない場合にも、第84条に基づく拒絶が生じる可能性がある。F-Ⅳ、3.9.1 に記載された汎用的なデータ処理手段とは対照的に、特定のデータ処理手段(例 えば、特定の並列コンピュータ・アーキテクチャ)が要求される場合も同様である。
一方、方法クレームが、センサーのような特定の技術的手段から受信したデータを、汎用的な計算手段によってさらに処理することを定義している場合、その方法に言及しているコンピュータ又はコンピュータ・プログラムのクレームが、それらの特定の技術的手段を含んでいる必要はない。この場合、方法に記載されている特定の技術的手段は、方法ステップを実行するために必要ではなく、F-IV、3.9.1のような形式が適切である(後述の例2を参照)。
最後に、あらゆる本質的特徴の場合と同様に、特定の技術的手段が発明を定義するために本質的である場合、それらは全ての独立クレームに存在しなければならない。ある特徴が本質的であるか否かは、F-Ⅳ、4.5及び小項目で定義された原則に従って、暗黙の特徴(F-Ⅳの4.5.4)を十分に考慮して決定される。
例1
1. パルスオキシメータで血液中の酸素飽和度を測定する方法であって、
– 電磁検出器において、2つの異なる波長の光に対応する、血液潅流組織部分からの第1および第2の電磁放射信号を受信することと;
– ステップA、B及びCに従って前記電磁気信号を正規化し、正規化された電磁気信号を提供することと;
– ステップD及びEにより、前記正規化された電磁信号に基づいて酸素飽和度を決定することと、を含む方法。
2. 電磁検出器と、クレーム1の方法のステップを実行するように適合された手段とを有するパルスオキシメータ。
3. クレーム2の装置にクレーム1の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラム[製品]。
4. クレーム3のコンピュータ・プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体。
備考:この例では、方法クレームは、特定の技術的手段(パルスオキシメータ内の電磁検出器)によって実行されると定義されるステップを含んでいる。当該方法のみを参照するコンピュータ・プログラムのクレームは、例えば、電磁検出器を備えたパルスオキシメータを持たない汎用コンピュータでは実行できないため、明確性に欠ける。したがって、コンピュータ・プログラムのクレームは、方法のクレーム1のみに言及するのではなく、(クレーム2の装置に言及することにより)電磁検出器を備えたパルスオキシメータ上で実行されるものとして定義されるべきである。
例2
1. 血液中の酸素飽和度を決定するコンピュータ実装方法であって、
– 2つの異なる波長の光に対応する血液潅流組織部分から電磁検出器によって取得された第1及び第2の電磁放射信号を表すデータを受信することと;
– ステップA、B及びCに従って、前記電磁信号を表すデータを正規化し、正規化されたデータを提供することと;
– ステップD及びEにより、前記正規化されたデータに基づいて酸素飽和度を決定することと、を含む方法。
2. クレーム1の方法を実施するための手段を含むデータ処理装置。
3. プログラムがコンピュータによって実行されたときに、コンピュータにクレーム1の方法を実行させる命令を含むコンピュータ・プログラム[製品]。
4. クレーム3のコンピュータ・プログラム[製品]を記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体。
備考:この例において、発明は、血液中の酸素飽和度を決定するために取得されたデータをさらに処理することにある。当該データは、例えば、電磁検出器によって以前取得されたデータを記憶するデータファイルから受信してもよい。したがって、このような方法は、一般的なデータ処理手段、例えばデスクトップコンピュータの形態で実施することができる。また、入力データを受信するために必要な機能として電磁検出器を規定していない。したがって、方法クレームを参照して定義される装置クレームも、パルスオキシメータや電磁検出器を含む必要はない。さらに、コンピュータ・プログラムクレームは、例1の場合とは対照的に、特定の装置上ではなく、汎用のコンピュータ上で実行することができる。その結果、例2のクレーム2~4については、F-IV、3.9.1のような形式化が適切である。
3.9.3 発明が分散コンピューティング環境で実現されるケース
別の一般的なタイプのCIIは、分散コンピューティング環境で実現される。例えば、ネットワーク化されたクライアント(例えば、スマートフォン)とサーバシステム、コンピュータクラウドのストレージ又は処理リソースへのアクセス、ファイル共有を実行するピアツーピアネットワーク内のデバイス、ヘッドマウントディスプレイを用いた拡張現実環境、アドホックネットワーク上で相互作用する自律走行車、又はブロックチェーンを用いた分散台帳の維持が挙げられる。
このような分散型CIIの場合、クレームセットは、分散型システムの各エンティティに向けられたクレーム、及び/又は、システム全体及び対応する方法に向けられたクレームから構成され得る。このようなクレームセットは、規則43(2)(a)(F-IV、3.2)に従って許容される可能性がある。しかしながら、各独立クレームは特許性の要件、特に第54条、第56条及び第84条の要件を満たさなければならない。例えば、発明が、リソースを自動的に割り当てることによりワークロードの変化への適応を可能にする仮想マシンを用いたコンピュータクラウドの実装にある場合、クラウドのリソースにアクセスするクライアント装置は、当該技術分野において既に知られている可能性がある。クレームセットは、単一性の要件も満たさなければならない。
すべての本質的機能の存在を保証するために、異なるエンティティの特定の機能に言及し、それらがどのように相互作用するかを定義する必要があるかもしれない。異なるエンティティ間の相互作用に言及する場合、クレームが明確であるように特に注意しなければならない。状況によっては、クレームをエンティティの組 み合わせに限定する必要があるかもしれない(F-Ⅳ、4.14参照)。関係するエンティティ間の方法のステップの分配が発明にとって不可欠である場合、第84条の要件を満たすために、どのエンティティがどの方法のステップを実施するかを定義する必要がある。さもなければ、一般的なCIIのクレームにおいて、この点が未定義のままとなる可能性がある(F-Ⅳ、3.9.1参照)。
これらの要件に関するいくつかの検討事項を、以下の例を用いて説明する。例で示した製剤以外の製剤(F-Ⅳ、3.9.1)もクレームセットの一部とすることができるが、簡略化のため省略した。
例
1. ステップA及びBを実行することによりデータを符号化する手段と、符号化されたデータを受信装置に送信する手段とを備える送信装置。
2. 送信装置からエンコードされたデータを受信する手段と、ステップC及びDを実行することによってデータをデコードする手段とを備える受信装置。
3. クレーム1の送信装置とクレーム2の受信装置とを備えるシステム。
4. プログラムが第1のコンピュータによって実行されたときに、ステップA及びBを実行することによって第1のコンピュータにデータを符号化させ、符号化されたデータを第2のコンピュータに送信させる命令を含むコンピュータ・プログラム[製品]。
5. プログラムが第2のコンピュータによって実行されたとき、第2のコンピュータに、第1のコンピュータから符号化されたデータを受信させ、ステップC及びDを実行することによって受信されたデータを復号化させる命令を含むコンピュータ・プログラム[製品]。
備考 発明が扱う問題は、ネットワークを介したデータの伝送である。送信装置は、ステップA及びBからなるアルゴリズムを用いてデータを符号化し、受信装置は、ステップC及びDからなるアルゴリズムを用いてデータを復号化するという相補的な機能を実行する。クレーム1及び2の装置は、発明を実行し、記載された問題を解決するために相互作用するという点で相互に関連しているので、規則43条(2)の要件は満たされる。新規性と進歩性は、各独立クレームについて個別に評価されなければならない。例えば、ステップA及びBによる符号化が、より効率的な方法で既知の符号化フォーマットへの符号化を可能にし、ステップC及びDによる復号化が従来通りである場合、クレーム1、3及び4のみが新規性及び進歩性を有するかもしれない。
4. クレームの明確性と解釈
4.1 明確性
クレームは明確でなければならないという要件は、個々のクレーム、すなわち独立クレーム及び従属クレームに適用され、クレーム全体にも適用される。クレームの明確性は、保護を求める事項を定義する機能という観点から最も重要である。したがって、クレームの用語の意味は、できる限り、クレームの文言のみから当業者にとって明確でなければならない(F-Ⅳ、4.2も参照)。クレームの様々なカテゴリーに付され得る保護範囲の相違を考慮し、部門は、クレームの文言がそのカテゴリーについて疑いを残さないようにしなければならない。
第84条に基づきクレームが明確でないと判断された場合、規則63に基づき部分的欧州調査報告書又は補充的欧州調査報告書が発行される可能性がある(B-VIII、3.1及び3.2参照)。このような場合、適切な補正及び/又は規則63(1)に基づく請求が正当化されなかった理由についての出願人からの説得力のある反論がなければ、規則63(3)に基づく拒絶も生じる(H-II, 5参照)。
4.2 解釈
各クレームは、明細書が明示的な定義その他により用語に特別な意味を付与している場合を除き、当該技術分野において通常有する意味及び範囲を用語に付与して読まなければならない。さらに、そのような特別な意味が適用される場合、部門は可能な限り、クレームの文言のみから意味が明確になるようにクレームを補正することを要求する。EPOの全公用語で公表されるのは明細書ではなく欧州特許のクレームのみであるため、この点は重要である。また、クレームは、技術的な意味を理解するために読まれなければならない。このような読解は、クレームの文言の厳密な文字通りの意味からの逸脱を伴う可能性がある。第69条とその議定書は、クレームの文言で文字通りカバーされているものを除外する根拠にはならない(T 223/05参照)。
4.3 不整合
明細書とクレームとの間の不整合が、保護を求める主題に疑義を生じさせ、したがってクレームを第84条第2文に基づき不明確又は裏付けのないものとし、あるいは、その代わりにクレームを第84条第1文に基づき拒絶すべきものとなる場合には、当該不整合は避けなければならない。このような不整合は以下のようなものである:
(i) 単純な言葉の矛盾
例えば、明細書に本発明が特定の特徴に限定されることを示唆する記載があるが、クレームはそのように限定されていない;また、明細書がこの特徴を特に強調しておらず、その特徴が発明の実施に不可欠であると信じる理由がない。このような場合、明細書を広げるか、クレームを限定することで、不整合を解消することができる。同様に、クレームが明細書よりも限定されている場合は、クレームを広げるか、明細書を限定することができる。下記(iii)項も参照。
(ii) 一見して本質的特徴に関する不整合
例えば、一般的な技術的知識から、又は明細書に記載若しくは暗示されていることから、独立クレームに言及されていない特定の記載された技術的特徴が、発明の実施に不可欠である、言い換えれば、発明が関係する問題の解決に必要であると思われる場合がある。 このような場合、クレームは第84条の要件を満たさない。なぜなら、第84条第1文は、規則43(1)及び(3)と合わせて読むと、独立クレームは技術的観点から理解可能でなければならないだけでなく、発明の主題を明確に定義しなければならない、すなわち、その本質的特徴をすべて示さなければならないことを意味すると解釈されるからである(T 32/82参照)。この拒絶に対し、出願人が、例えば追加書類やその他の証拠により、その特徴が実際には本質的なものではないことを説得的に示した場合、補正前のクレームを維持し、必要な場合には、代わりに明細書を補正することが認められる。反対に、独立クレームに発明の実施に本質的でないと思われる特徴が含まれていても、拒絶されない。これは出願人の選択の問題である。従って、部門では、明らかに本質的でないと思われる特徴の省略によってクレームを広げることは提案しない;
(iii) 明細書及び/又は図面の一部が、保護を求める主題と整合しない
– 明細書が独立クレームと矛盾する
第84条第2文によれば、クレームは明細書によって裏付けられなければならない。すなわち、クレームと明細書との間に不整合があってはならない。発明を実施する方法を開示しているような印象を当業者に与えるが、クレームの文言に包含されない明細書の部分は、クレームと整合しない(または矛盾する)。このような不整合は、出願当初の出願に存在する場合もあれば、明細書又は図面と整合しなくなる程度にクレームを補正した結果生じる場合もある。
例えば、独立クレームの特徴よりも広い又は異なる意味を有する代替特徴の存在により不整合が生じる場合がある。さらに、実施形態が独立クレームと明らかに矛盾する特徴を含む場合、不整合が生じる。
さらに、独立クレームで要求される特徴を、「好ましくは」、「可能性がある」、「オプションとして」などの表現を用いて、任意であるかのように明細書で説明することはできない。このような用語が、独立クレームの義務的な特徴を任意的であるかのように見せている場合、明細書はこのような用語を削除するように補正されなければならない。
例:
– 独立クレームでは「純粋に物質X」でできていると特徴を定義しているが、明細書では物質 「XとY」のブレンドでできていると定義している;
– 独立クレームは、ニコチンを含まない液体物質を含む物品の特徴を定義しているのに対して、 説明は、液体物質がニコチンを含んでもよいと述べている。
しかしながら、実施形態における特徴の組合せが独立クレームの主題に包含される限り、 実施形態が従属クレームとしてクレームされない更なる特徴を含むことは不整合ではないであろう。同様に、実施形態が独立クレームの1つ以上の特徴に明示的に言及していない場合であっても、それらが別の実施形態を参照することにより存在しているか、暗黙のうちに存在している限り、不整合ではない。
例: クレームが特徴A、B及びCの組み合わせを含む場合、A、B及びCの各々がどのように実現され るかを個別に扱う文章は、反対の記載がない限り、通常、クレームで定義された組み合わせの 改良点を記載していると理解される。例えば、特徴A1~A3を導入し、それらの利点を議論することにより、特徴Aの実現のみを記述しているが、クレームの他の特徴と組み合わせることを意図していると解釈できる箇所は、A1~A3のいずれかがB2と両立しない場合を除き、クレームをBからB2に限定することによる補正を必要としない。一方、クレームされた特徴のサブコンビネーション(例えば、Aのみ又はA+Bのみ)を発明であると明示的に言及している箇所は、クレームと整合しない。
第53条の規定により特許性の例外とみなされる明細書の主題は、削除するか、特許性の例外に該当しないように言い換えるか、クレームされた発明によるものではないことを目立つように表示する必要がある(ヒト及び動物の身体の治療方法に関する明細書の適応についてはG-Ⅱの4.2、ヒト胚性幹細胞の使用に関する明細書の適応についてはG-Ⅱの5.3、植物および動物に関する明細書の適応についてはG-Ⅱの5.4を参照のこと)。
– 手続き的側面及び例
実施形態がクレームと整合しているかどうか疑わしいボーダーラインの場合、疑義の利益は出願人に与えられる。
出願人は、不整合な実施形態を削除するか、保護を求める主題に該当しないことが明確になるように適切に表示することにより、明細書を補正して不整合を除去しなければならない。クレームの範囲を広げることによって不整合を除去できる場合については、上記(i)項を参照のこと。
例 独立クレームは、他の特徴とともに、「モータ」という広範な特徴を有する車両を定義する。 本明細書および図面は、車両が電気モータを有する実施形態1と、車両が燃焼エンジンを有する実施形態2とからなる。実施形態2は、この実施形態から燃焼エンジンが電気モーターと組み合わせて使用されることが推測されない限り、もはや独立クレームと整合しない。この不整合は、実施形態2を明細書及び図面から削除するか、又は、実施形態2がクレームの主題に包含されないと表示する(例えば、「実施形態2はクレームの主題に包含されない」又は同様の表現)ことにより是正されなければならない。
明細書とクレームの間の不整合は、明細書のどの部分が対象外となったかを示すことなく、「添付のクレームの範囲に含まれない実施形態は、単に本発明を理解するのに適した例として考慮される」といった一般的な記述を明細書の冒頭に導入することによって取り除くことはできない。不整合をなくすためには、このような記述は、特定の実施形態に言及しなければならない(例えば、「実施形態X及びYは、クレームの文言には包含されないが、本発明を理解するために有用であると考えられる」)。
「開示」、「実施例」、「態様」又はこれらに類する用語は、それ自体では、その後の内容が独立クレームに包含されないことを必ずしも意味しない。整合しない実施形態を示すためには、単に「実施形態」や「発明」という用語を前述の用語のいずれかに置き換えるのではなく、(例えば、「クレームの文言に包含されない」、「クレームされた発明によらない」、「クレームの主題から外れる」と付け加えることにより)曖昧さのない表現を採用しなければならない。
結果として生じる明細書の文章が読者に矛盾する情報を提示しない限り、整合性のない実施形態は、明細書全体を通じて「本発明による」と言及されないようにし、発明の理解に有用であるため保持する旨の明示的な記述(例えば、「発明の理解に有用な実施形態」、「背景技術からの比較例」など)で言及を補完することによっても是正することができる。
出願人に明細書の補正を求める場合、部門は独立クレームと整合しない実施形態を例示し、その理由を簡潔に説明する。不整合が、独立クレームの本質的特徴を任意であるかのように記載することに関するものである場合、部門は、例示の一節を提供する。
明細書の補正の可否については、H-V、2も参照のこと。
規則62a(1)又は規則63(1)に基づく求めに従ったクレームの限定後、調査対象から除外された主題が明細書に残っている場合、明細書/図面とクレームとの間に不整合は頻繁に発生する可能性がある。最初の拒絶が正当化されない限り、このような主題は第84条(クレームと明細書との間の不整合)に基づいて拒絶される。
さらに、明細書/図面とクレームとの間の不整合は、単一性違反の拒絶(規則64又は規則164)の後に、クレームが当初クレームされた発明のうちの1つのみに限定された場合に生じる:クレームされなかった発明の実施形態及び/又は実施例は、削除されるか、又はクレームによってカバーされないことが明確に示されなければならない。
4.4 一般的記述、「発明の精神」、クレーム的な文節
曖昧で正確に定義されていない方法で保護の範囲が拡大される可能性があることを暗示する、明細書中の一般的な記述は認められない。特に、クレームの「発明の精神」又は「全ての均等物」をカバーするように保護の範囲の拡大に言及する記述は削除しなければならない。
「クレームの範囲」や「クレームに定義された」発明をカバーする保護範囲に言及する記述は認められる。ただし、これ は不整合の削除を妨げるものではない(F-Ⅳ、4.3)。
同様に、クレームが特徴の組合せを対象としている場合、組合せ全体だけでなく、個々の特徴又はその部分的な組合せについても保護を求めることを暗示するような文言は削除しなければならない。
最後に、クレーム的な文節も削除又は修正し、付与前にクレーム的な文節を避けなければならない。そうしないと、保護を求める対象が不明確になる可能性があるからである。
「クレーム的な」文節とは、明細書中に存在し、クレームとして特定されていないにもかかわらず、そのように見える文節のことであり、通常、独立した文節の後に、前の文節を参照するいくつかの文節が続くものである。このようなクレーム的な文節は、通常、明細書の末尾に、及び/又は、番号付けされた段落の形式で、特に、分割出願又はEuro-PCT出願において、親出願又はPCT出願のクレームが明細書に付加されている場合に見られる。
4.5 本質的特徴
4.5.1 本質的特徴の欠如に起因する拒絶
保護が求められる事項を定義するクレームは明確でなければならない。これは、クレームが技術的観点から理解可能でなければならないだけでなく、発明のすべての本質的特徴を明確に定義しなければならないことを意味する(T 32/82参照)。さらに、クレームが明細書によって裏付けられているという第84条の要件は、発明を実施するために不可欠であるとして明細書に明示的に示されている特徴に適用される(T 1055/92参照)。 従って、独立クレームに不可欠な特徴が欠如している場合は、明確性要件とサポート要件の下で扱われる。
4.5.2 本質的特徴の定義
クレームの本質的特徴とは、出願が関係する技術的課題(当該課題は通常、明細書から導き出される)の解決の基礎となる技術的効果を達成するために必要な特徴である。したがって、独立クレームは、発明を実施するために必要であるとして明細書に明示的に記載されたすべての特徴を含まなければならない。出願中一貫して発明の文脈で言及されていたとしても、実際には課題の解決に寄与しない特徴は、本質的特徴ではない。
原則として、特徴によってもたらされる技術的効果又は結果は、その特徴が課題の解決に寄与しているか否かの問いに答える鍵となる(G-VII, 5.2も参照)。
クレームが発明の製品を製造するためのプロセスに対するものである場合、クレームされたプロセスは、当業者にとって合理的と思われる方法で実施されたときに、必然的にその特定の製品を最終結果とするものでなければならず、そうでなければクレームの内部に不整合が生じて明確性を欠くことになる。
特に、特許性が技術的効果に依存する場合、クレームは、技術的効果に対して本質的である発明の技術的特徴をすべて含むように作成されなければならない(T 32/82参照)。
機能的に定義された表現型形質を含む本質的に生物学的なプロセスによってのみ生産されるものではなく、プロダクト・バイ・プロセスのクレーム(すなわち、アクセッション番号XXXを有する寄託種子から育成された植物と植物を交配し、表現型形質を含む子孫植物を選抜することによって得られる)として表現される植物又は動物に関するクレームは、他のタイプのクレームと同様に、第84条の明確性の要件を満たさなければならない。特に、クレームされた主題は、保護を求める主題が実際に何であるかについて公衆に疑念を抱かせないように定義されなければならない。クレームされた動植物を定義するプロセスが、動植物に識別可能かつ明確な技術的特徴、例えばゲノムに存在する遺伝情報を付与しない場合、動植物を対象とするクレームは明確性を欠く。
4.5.3 本質的特徴の一般化
本質的特徴がどの程度具体的でなければならないかを決定する際には、第83条の規定を念頭に置く必要がある。出願が全体として、当業者が発明を実施することができる程度に発明の必要な特徴を詳細に記載していれば足りる(F-III, 3参照)。独立クレームに発明の全ての詳細を記載する必要はない。したがって、クレームされた特徴のある程度の一般化は、クレームされた一般化された特徴が全体として課題を解決することを可能にするのであれば、許される。この場合、特徴のより具体的な定義は要求されない。この原則は、構造的特徴にも機能的特徴にも等しく適用される。
4.5.4 暗黙的特徴
上記で詳述したとおり、独立クレームは、発明を定義するために必要な全ての本質的特徴を明示的に特定しなければならない。これは、そのような特徴が、使用される一般的な用語によって暗示される場合を除いて適用される。例えば、「自転車」に対するクレームは、車輪の存在に言及する必要はない。
製品クレームの場合、製品が周知の種類であり、発明が特定の点でそれを変更することにある場合、クレームは製品を明確に特定し、何がどのように変更されたかを特定すれば十分である。同様の考慮は、装置のクレームにも適用される。
4.5.5 例
本質的特徴を示す例は、F-IV の付録に記載されている。
4.6 相対的な用語
4.6.1 明確性の問題
「薄い」、「広い」、「強い」のような相対的又は類似の用語は、文脈によって意味が変わる可能性が あるため、潜在的に不明確な要素となり得る。これらの用語が認められるためには、その意味が出願又は特許の開示全体の文脈の中で明確でなければならない。
しかしながら、相対的用語又は類似の用語が、クレームの主題を先行技術と区別する唯一の特徴として出願人によって使用される場合は、その用語が特定の技術分野において十分に認識された意味、例えば、増幅器に関する「高周波数」に関し、これが意図された意味である場合を除き、この用語の使用は第84条の下で拒絶される。
関連する用語が十分に認識された意味を持たない場合、審査部は、可能であれば、出願当初の開示の他の箇所でより正確な表現で置き換えるよう出願人に求める。開示の中に明確な定義の根拠がなく、その用語がもはや唯一の差異的特徴でない場合、その用語を排除することは、一般的に、第123条(2)に反して、出願時の出願内容を超えて主題を拡張することにつながるため、クレームに維持されるかもしれない。
4.6.2 相対的用語の解釈
クレームにおいて相対的な用語の使用が認められる場合、この用語は、クレームの主題の範囲を決定する際に、できる限り制限の少ない方法で審査部により解釈される。その結果、多くの場合、相対的用語はクレームの主題の範囲を限定しない。
例えば、「薄い金属板」という表現は、先行技術に対して「金属板」という特徴を限定するものではない。金属板は、他の金属板と比較した場合にのみ「薄い」ものであるが、客観的に測定可能な厚さを定義するものではない。つまり、厚さ3ミリの金属板は、厚さ5ミリの金属板と比べれば薄いが、厚さ1ミリの金属板と比べれば厚いのである。
別の例として、「トラックの端の近くに取り付けられた要素」を考えるとき、この要素はトラックの端から1ミリメートルのところに取り付けられているのか、10センチメートルなのか、2メートルなのか。このような表現の唯一の限定は、要素がトラックの中央よりも端に近いところになければならないということ、すなわち、要素は端に隣接するトラックの四分の一のどこにでも取り付けることができるということである。
また、文脈から別段明らかでない限り、弾性はヤング率で測定されるあらゆる固体材料の本質的特性であるため、「弾性」という用語は材料の種類を限定するものではない。言い換えれば、どのような文脈から外れても、弾性材料はゴムからダイヤモンドまで何でもあり得るのである。
4.7 「about」、「approximately」、「substantially」などの用語
4.7.1 「about」、「approximately」、「substantially」などの用語の解釈
「about」又は「approximately」などの用語が特定の値(例えば、「about 200°C」又は「approximately 200°C」)又は範囲(例えば、「about x to approximately y」)に適用される場合、その値又は範囲は、その測定に使用した方法と同程度に正確であると解釈される。もし出願書類に誤差範囲が指定されていない場合、G-VI, 7.1に記載されているのと同じ原則が適用される。すなわち、「約200℃」という表現は、「200℃」と同じ丸め誤差があると解釈される。出願書類に誤差範囲が指定されている場合、クレームでは、当該誤差範囲が「about」又は類似の用語を含む表現に代えて使用されなければならない。
「substantially」又は「approximately」といった用語が装置の構造単位を修飾する場合(例えば、「a tray plate with a substantially circular circumference」又は「a tray plate with a approximately curved base」)、「substantially」又は「approximately」という用語を含む表現は、出願書類がそうでないことを示唆しない限り、技術的特徴がその製造に使用される方法の技術的許容の範囲内で製造されるものと解釈される(例えば、金属の切断はプラスチックの切断よりもはるかに正確である、又は、CNC機械による切断は手作業による切断よりも正確である)。換言すれば、出願書類に別段の記載がない限り、「実質的に(substantially)円形の外周を有するトレー板」という表現は、「円形の外周を有するトレー板」と同一の技術的特徴を主張するものと解釈され、その結果、両表現は、製造分野の当業者が円形であると考えるベースを有するトレーをクレームするものとみなされる。
また、「substantially」又は「approximately」を含む表現が、ある効果又は結果がある許容範囲内で得られることを意味し、当業者がその許容範囲を得る方法を知っている場合も同様である。例えば、「実質的に(substantially)垂直なシートバック」は、座る人の背中を支える機能が存在することを当業者が認識できる場合、90°を基準とした一定の+/-の変動を許容するものと解釈される。
4.7.2 明確性の拒絶
出願書類が、「about」、「approximately」又は「substantially」のような用語の使用が、測定システムによる誤差を超える値及び/又は範囲によってクレームされた間隔を拡張することを示唆している場合、又は構造単位が製造許容誤差若しくは当該技術分野において当業者が考慮するであろうその他の許容誤差を超えることを示唆している場合、クレームの文言は曖昧で未定義なものとなる。このような表現は、新規性及び進歩性に関してクレームの主題を先行技術と一義的に区別することを妨げるため、第84条の拒絶につながる。
例えば、出願書類が、CNCウォータージェット切断機によって実現される金属トレーのについて、正二十角形も「実質的に(substantially)円形の円周」であることを示唆している場合、次の理由でクレームの範囲が不明確になる:
(i) 出願書類が示す許容範囲は、製造方法の許容範囲外である(CNCウォータージェット切断機は、数百の辺を有する多角形を使用して円周を近似する)。
(ii)正二十角形も「実質的に(substantially)円形の円周」であるならば、正十二角形や正八角形はどうなのか。 多角形が「実質的に(substantially)円形の円周」でなくなるのはいつなのか?当業者はどのように客観的に評価できるのか。
4.8 商標
クレームにおける商標及び類似表現の使用は、特許期間中、その名称を維持したまま、言及された製品又は機能が変更されないことを保証するものではないため、認められない。使用が不可避であり、正確な意味を有すると一般に認識されている場合は、例外的に認められることがある。
明細書中に商標をそのように認める必要性については,F-II, 4.14を参照。商標への言及が開示の十分性に及ぼす影響(第83 条)については、,F-III, 7.を参照。
4.9 選択的特徴
選択的特徴、すなわち、”好ましくは”、” 例えば”、” などの”、”より特に “といった表現で前置される特徴は、曖昧さを生じさせないのであれば許される 。このような場合、全体として選択的とみなされる。
これらの表現は、クレームの主題の限定につながらない場合には、曖昧さをもたらし、クレームの範囲を不明確にする。
例えば、「粘土レンガのような人造石を製造する方法」という表現は、粘土レンガが人造石になることはないため、第84条の要件を満たさない。したがって、クレームの方法によって人工石が製造されるのか、粘土レンガが製造されるのかが不明確である。
同様に、「溶液は65~85℃、特に90℃まで加熱される」という表現は、「特に」という用語の後の温度がその前の範囲と矛盾するため、第84条の要件を満たさない。
4.10 達成すべき結果
クレームによって定義される範囲は、発明が許す限り正確でなければならない。原則として、達成される結果によって発明を定義しようとするクレームは、特に、根本的な技術的課題を主張することにしかならない場合には認められない。ただし、発明がそのような用語でしか定義できないか、又はクレームを不当に制限することなく他の方法でより正確に定義することができない場合であって、その結果が、明細書に適切に規定されているか、当業者に公知であり、過度の実験を必要としない試験又は手続によって直接かつ確実に検証できるものである場合には、認められることがある(T 68/85参照)。例えば、発明は、灰皿の形状および相対的な寸法により、くすぶっているタバコの端が自動的に消火される灰皿に関するものである。後者は、望む効果を提供する一方で、定義するのが困難な方法でかなり変化する可能性がある。クレームが灰皿の構造及び形状を可能な限り明確に規定する限り、明細書が、当業者が日常的な試験手順によって必要な寸法を決定することを可能にする適切な指示を含むことを条件として、達成されるべき結果を参照して相対寸法を規定することができる(F-III、1 から F-III、3 を参照)。
ただし、これらのケースは、製品が達成されるべき結果によって定義され、その結果が出願の基礎となる課題の本質に相当する場合とは区別されなければならない。独立クレームは、第84条の要件を満たすために、発明の対象のすべての本質的特徴を示さなければならないというのが確立した判例法である(G 2/88及びG 1/04参照)。また、第84条は、クレームに定義された特許によって与えられる独占の範囲は、技術に対する技術的貢献に対応するものでなければならないという一般的な法原則を反映している。特許は、明細書を読んでもなお当業者が自由に利用できないような対象には及ばない(T 409/91)。特許の技術的貢献は、出願の基礎となる課題を解決する特徴の組み合わせに存する。したがって、独立クレームが、達成されるべき結果によって製品を定義し、その結果が出願の基礎となる問題の本質に相当する場合、クレームは、クレームされた結果を達成するために必要な本質的特徴を記載しなければならない(T 809/12)。
達成される結果の観点からの対象物の定義を認めるための上記の要件は、機能的特徴の観点からの主題物の定義を認めるための要件とは異なる(F-IV, 4.22 及び F-IV, 6.5 参照)。
4.11 パラメータ
パラメータは特徴的な値であり、直接測定可能な特性値(例えば、物質の融点、鋼材の曲げ強さ、導電体の抵抗値)であってもよいし、複数の変数の多かれ少なかれ複雑な数学的組み合わせとして数式の形で定義されていてもよい。
製品の特性は、それらのパラメータが当該技術分野で通常行われている客観的な手順によって明確かつ確実に決定できる場合に限り、製品の物理的構造に関連するパラメータによって規定することができる。製品の特性がパラメータ間の数学的関係によって定義される場合、各パラメータは明確かつ確実に決定される必要がある。
同じことが、パラメータによって定義されるプロセス関連の特徴にも適用される。
パラメータによる製品の特性に関する第84条の要件は、以下のように要約できる(T 849/11参照):
(i) クレームは、当業者が(明細書から得られる知識を含めずに)読んだときに、それ自体が明確でなければならず、
(ii) パラメータを測定する方法(又は少なくともそれに関する言及)は、クレーム自体に完全に記載されていなければならず、
(iii) パラメータによってクレームの範囲を定義することを選択した出願人は、当該パラメータがクレームの範囲内で機能しているのか、範囲外で機能しているのかを容易かつ明確に確認できるようにする必要がある。
パラメータを測定する方法の記載が非常に長いため、その記載を含めると簡潔性を欠きクレームが不明確になるか、理解しにくくなる場合は、規則43(6)に従って、クレームに明細書への言及を含めることにより、(ii)の要件を満たすことができる。
さらに、(ii)の要件は、以下のことを説得力を持って示すことができれば満たすことができる(T 849/11参照):
(a) 採用される測定方法が当業者の一般的な知識に属すること、例えば、方法が1つしかないため、又は特定の方法が一般的に使用されているため、又は
(b) このパラメータを決定するために関連する技術分野で知られているすべての測定方法が、適切な測定精度の限界内で同じ結果をもたらす。
パラメータに関する裏付けの欠如及び開示の十分性に関する更なる問題については、F-III, 11及びF-IV, 6.4を参照。
4.11.1 通常とは異なるパラメータ
通常とは異なるパラメータとは、発明の分野では通常使用されないパラメータのことである。主に2つの状況が考えられる:
(i) 通常とは異なるパラメータは、製品/プロセスの特性を測定するものであるが、発明の分野では一般的に認められている別のパラメータが使用されている。
(ii) その通常とは異なるパラメータは、その発明の分野においてこれまで測定されたことのない製品/プロセスの特性を測定する。
F-IV、4.11 に含まれる要件に加え、以下の要件がある:
– タイプ(i)の通常とは異なるパラメータが採用され、通常とは異なるパラメータから当該技術分野で一般に認識されているパラメータへの直接的な変換が可能でない場合、又は通常とは異なるパラメータを測定するためにアクセスできない装置が使用されている場合は、先行技術との意味のある比較ができないため、明確性を欠くという理由で一応の拒絶が可能である。このような場合、新規性の欠如も覆い隠される可能性がある(G-VI, 5参照)。
– 当業者が提示された試験を実施する際に何ら困難に直面せず、それによってパラメー タの正確な意味を立証し、先行技術と意味のある比較を行うことができることが出願から明らかである場合、タイプ(ii)の通常とは異なるパラメータの使用は認められる。加えて、ある通常と異なるパラメータが、先行技術に対する真正の特徴であることを証明する責任は、出願人にある。この点については、疑いの利益を認めることはできない(G-VI, 5参照)。
タイプ(ii)の通常とは異なるパラメータの許容される例
出願書類は、砥粒入りストリップと砥粒なしストリップを交互に使用すると、非常に細かいグレードのサンドペーパーの研磨作用が改善されると説明している。クレーム1には、サンドペーパーのある長さ内における研磨ストリップと非研磨ストリップの幅の関係を測定するタイプ(ii)の珍しいパラメータが含まれている。
当業者であれば、このパラメーターの正確な意味を特定し、それを測定し、先行技術に対して真に差異的な特徴を決定することに問題はない。
4.12 プロダクト・バイ・プロセス・クレーム
製品をプロセスの観点から定義するクレームは、そのような製品に対するクレームと解釈される。発明の技術的内容はプロセスそれ自体にあるのではなく、むしろプロセスによって製品に付与される技術的特性にある。製品に技術的特徴を付与する技術的ステップを含む方法によって生産された動植物を定義するクレームは、規則28(2)によって解釈される第53条(b)の要件に関する限り、例外を構成する。本質的に生物学的なプロセスによってのみ得られる動植物に関する規則28(2)に基づく除外は、2017年7月1日より前に付与された特許にも、2017年7月1日より前の出願日及び/又は優先日を有する係属中の特許出願にも適用されない(G 3/19, OJ EPO 2020, A119参照)。
クレームされた動植物の技術的特徴、例えば、ゲノムにおける単一のヌクレオチドの交換が、技術的介入(例えば、有向突然変異誘発)と本質的に生物学的なプロセス(天然の対立遺伝子)の両方の結果であり得る場合、クレームされた主題を技術的に生産された製品に限定するためにディスクレーマーが必要である(G-Ⅱ、5.4.2.1及びG-Ⅱ、5.4の例参照)。他方、問題となっている特徴が、例えば導入遺伝子のような技術的介入のみによって明確に得られる場合には、ディスクレーマーは不要である。ディスクレーマーを規定する一般原則については、H-V, 4.1及びH-V, 4.2を参照。
クレームされた植物又は動物が定義されるプロセスが、植物又は動物に識別可能で明確な技術的特徴、例えばゲノムに存在する遺伝情報を付与しない場合、植物又は動物に向けられたクレームは明確性を欠く。
製造方法の観点から定義された製品に関するクレームは、そのような製品が特許性の要件、すなわち特に新規性及び進歩性を満たしており、クレームされた製品を製造方法の観点以外に定義することが不可能である場合にのみ認められる。製品は、それが新しいプロセスによって製造されるという事実のみによって新規なものとなるわけではない。例えば、クレームは「工程Yによって得られる製品X」という形式をとることができる。プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて、「取得可能な」、「取得された」、「直接取得された」又はこれと同等の表現が使用されているか否かにかかわらず、当該クレームは、製品それ自体に向けられたものであり、製品に絶対的な保護を付与するものである。
新規性に関しては、製品がその製造方法によって定義される場合、問題となるのは、対象となる製品が公知の製品と同一であるかどうかである。差異的な「プロダクト・バイ・プロセス」の特徴に関する立証責任は出願人にあり、出願人は、例えば、製品の特性に明確な差異が存在することを示すことによって、プロセスパラメータの変更が別の製品をもたらすという証拠を提出しなければならない。とはいえ、特にこの拒絶が出願人によって争われる場合、審査部は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの新規性欠如の主張を裏付けるために、合理的な論拠を提出する必要がある(G 1/98, T 828/08参照)。
同様に、EPCに基づく特許性に関する製品又はプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査は、特許又は特許出願によって付与される保護の範囲に影響されない(G 2/12及びG 2/13、理由VIII(2)(6)(b)参照)。
4.12.1 プロセスの特徴を含む製品クレーム
製品の特徴及びプロセスの特徴の両者を含む製品クレームにおけるプロセスの特徴は、それが許可されることを前提に、クレームされた製品が先行技術から公知の製品とは異なる特性をもたらす場合にのみ、クレームされた製品の新規性を確立することができる。プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(F-Ⅳ、4.12参照)の場合と同様、「プロダクト・バイ・プロセス」特徴に関する立証責任は出願人にある。
4.13 目的を示す表現の解釈
4.13.1 「…のための装置」、「…のための製品」などの表現の解釈
クレームが “Apparatus for carrying out the process … “のような文言で始まる場合、これは単にプロセスの実施に適した装置を意味するものと解釈しなければならない。クレームに記載された特徴をすべて備えているが、記載された目的には不適当であるか、又は当該目的に使用できるようにするために変更を必要とする装置は、通常、クレームを予見したものとはみなされない。
同様の考慮は、特定の用途のための製品のクレームにも適用される。例えば、クレームが「溶解した鉄鋼用の鋳型」に言及している場合、これは鋳型に対する一定の限定を意味する。したがって、鋼鉄の融点よりもはるかに低い融点を有するプラスチックの製氷皿は、クレームの対象とはならない。同様に、特定の用途のための物質又は組成物に対するクレームは、記載された用途に実際に適している物質又は組成物を意味すると解釈される。クレームで定義された物質又は組成物と一応同じであるが、記載された用途に適さない形態である公知製品は、クレームの新規性を奪うものではない。しかし、既知の製品が、その用途について記載されたことがないにもかかわらず、実際には記載された用途に適した形態である場合には、クレームの新規性が奪われる。
この一般的な解釈原則の例外は、クレームが外科的、治療的又は診断的方法に使用するための公知の物質又は組成物である場合である(G-II, 4.2 及び G-VI, 6.1 参照)。
4.13.2 ミーンズプラスファンクションの特徴(「means for …」)の解釈
ミーンズプラスファンクションの特徴(「means for …」)は機能的特徴の一種であるため、第 84 条の要件に違反しない。
ミーンズプラスファンクションの特徴を実行するのに適した先行技術の特徴は、当該特徴を予見する。例えば、「ドアを開けるための手段」という特徴は、ドアキーとバールの双方によって予見される。
この一般的な解釈原則の例外は、ミーンズプラスファンクションの特徴がコンピュータ又は類似の装置によって実行される場合である。この場合、ミーンズプラスファンクションの特徴は、単にステップ/機能を実行するのに適した手段ではなく、関連するステップ/機能を実行するのに適合した手段として解釈される。
例:
「クレーム1
レンズが眼鏡フレームに装着されるようにレンズを加工するための眼鏡レンズ研磨機であって、
レンズを面取りするための少なくとも研磨ホイールと、
眼鏡フレームに関するフレーム構成データと、眼鏡フレームに対するレンズのレイアウトを提供する際に使用されるレイアウトデータとを受信するための手段と、
受信したフレームデータとレイアウトデータとに基づいてレンズのエッジ位置を検出するための手段と、
前記エッジ位置検出手段による検出結果に基づいて演算により第1の面取り経路を決定する手段と、
第2の面取り経路がレンズのエッジ上の所望の位置を通過するように前記第1の面取り経路を傾斜させて得られる前記第2の面取り経路を決定するための手段と、
前記第2の面取り経路に基づいてレンズの面取り加工中に前記研磨ホイールを制御するための手段と、を備える眼鏡レンズ研磨機。」
「クレーム1
レンズが眼鏡フレームに装着されるようにレンズを加工するための眼鏡レンズ研磨機であって、
レンズを面取りするための少なくとも1つの研磨ホイールと、
コンピュータと、を備え、前記コンピュータは、
前記眼鏡フレームに関するフレーム構成データと、眼鏡フレームに対するレンズのレイアウトを提供する際に使用されるレイアウトデータとを受信し、
受信したフレームデータ及びレイアウトデータに基づいて前記レンズのエッジ位置を検出し、
前記エッジ位置の検出による検出結果に基づいて計算により第1の面取り経路を決定し、
第2の面取り経路がレンズのエッジ上の所望の位置を通過するように前記第1の面取り経路を傾斜させて得られる前記第2の面取り経路を決定し、
前記第2の面取り経路に基づいてレンズの面取り中に前記研磨ホイールを制御する、
ように適合されている、眼鏡レンズ研磨機。」
これら2つのクレームはそれぞれ、具体的な加工ステップが先行技術に開示されていない場合、研磨ホイールと、研磨ホイールを制御するためのコンピュータとからなる眼鏡レンズ研磨機を開示する先行技術に対して新規である。「のための手段」がコンピュータ手段を指す場合、「~するための手段」(1つ目のクレーム)及び「~するように適合されているコンピュータ」(2つ目のクレーム)として定義される処理ステップは、限定して解釈される。したがって、レンズを面取りするための研磨ホイールとコンピュータとを少なくとも含む眼鏡レンズ研磨機を開示する先行技術文献は、その先行技術文献が、コンピュータがクレームに係るステップを実行するようにプログラムされていることも開示している場合にのみ、これらのクレームを予見する。
コンピュータで実装された発明で一般的に使用されるクレームの形式に関する更なる情報については、F-IV, 3.9を参照。
4.13.3 “・・・のための方法 “などの表現の解釈
方法の文脈では、記載された目的には2つの異なるタイプが考えられる。すなわち、方法の適用又は用途を定義する目的と、方法のステップから生じる効果を定義し、そこに暗黙的に含まれる目的である(T 1931/14参照)。
記載された目的が方法の具体的な用途を定義する場合、この目的は、クレームで定義された他の残りのステップによって暗示されず、またそれに内在しない追加的なステップを要件とし、それがなければクレームされたプロセスは記載された目的を達成することができない。したがって、例えば「ガルバニック層を再溶解するための方法」のような言葉で始まる作業方法を定義する方法クレームは、「…を再溶解するための」という部分は、そのプロセスが単にガルバニック層の再溶解に適しているという意味ではなく、むしろガルバニック層の再溶解に関する機能的特徴として、したがって、クレームされた作業方法の方法ステップの一つを定義していると理解されるべきである(T 1931/14及びT 848/93参照)。
同様に、「製造方法」、すなわち製品を製造するための方法に関するクレームの場合、その方法が製品をもたらすという事実は、不可欠な方法ステップとして扱われる(T 268/13参照)。
他方、目的が、クレームされた方法の他の残りのステップを実施する際に必然的に生じ、従って、それらのステップに内在する技術的効果を述べているに過ぎない場合、この技術的効果はクレームの主題を限定する効果を有しない。例えば、特定の吸収性製品への特定の表面活性剤の適用に関する方法のクレームで、その目的を意図された技術的効果の観点から「悪臭を低減するため」と定義しているものは、具体的な用途には言及していないものの、「悪臭を低減するため」のそのような適性を有する方法を記載した先行技術文献によって予見される(T 1931/14及びT 304/08参照)。
4.14 他の実体への(使用による)参照による定義
物理的実体(製品、装置)に関するクレームは、クレームされた最初の実体の一部ではないが、使用を通じて関連する別の実体に関する特徴を参照することにより、発明を定義しようとするこ とがある。このようなクレームの例としては、「エンジン用のシリンダーヘッド」があり、シリンダーヘッドはエンジンにおける位置の特徴によって定義される。
第1の実体(シリンダヘッド)は、他方の実体(エンジン)とは独立して製造・販売できることが多いので、出願人は通常、第1の実体それ自体について独立の保護を受けることがでる。したがって、第1の例では、このようなクレームは常に、他方の実体又はその特徴を含まないものと解釈される。これらの特徴は、第1の実体の特徴が第2の実体の特徴と共に使用されるのに適している限りにおいてのみ、クレームの主題を限定する。上記の例では、シリンダーヘッドはクレームに記載されたエンジンに搭載するのに適していなければならないが、エンジンの特徴はクレームの主題自体を限定するものではない。
クレームが第1及び第2の実体の組合せに間違いなく向けられる場合にのみ、他方の実体の特徴がクレームの主題を限定する。上記の例では、エンジンの特徴がクレームの主題を限定するとみなされるためには、クレームは「シリンダーヘッドを有するエンジン」又は「シリンダーヘッドを備えるエンジン」と書かれるべきである。
コンピュータ実装発明に対するクレームの評価については、コンピュータプログラムに対するクレームがコンピュータ(別個の実体)を参照する場合、F-Ⅳ、3.9 を参照のこと。
4.14.1 明確性の拒絶
クレームが一つの実体又は複数の実体の組合せのいずれを対象としているかが確定したら、クレームの文言はそれを反映するように適切に変更されなければならず、そうでなければクレームは第84条の下で拒絶される。
例えば、単一の実体に関するクレームの場合、第1の実体は第2の実体に対して「連結可能」であり、実体の組み合わせに関するクレームの場合、第1の実体は第2の実体に対して「連結されている」。
4.14.2 他の実体を参照して定義された寸法及び/又は形状
独立クレームにおいて、クレームされた第1の実体の一部ではないが、使用を通じて関連する第2の実体の寸法及び/又は対応する形状を概括的に参照することによって、第1の実体の寸法及び/又は形状を定義することが許容される場合がある。これは特に、第2実体の寸法が何らかの方法で標準化されている場合に適用される(例えば、車両ナンバープレート用の取付ブラケットの場合、ブラケットフレーム及び固定要素はナンバープレートの外形に関連して定義される)。
さらに、標準化の対象とはみなされない第2の実体への言及も、当業者が第1の実体の保護範囲の結果的な制限を推論することがそれほど困難でない場合には、十分に明確となり得る(例えば、農業用丸俵の被覆シートの場合、被覆シートの長さ及び幅並びにその折り畳み方が、俵の円周、幅及び直径を参照して定義されている(T 455/92参照)。このようなクレームは、第2の実体の正確な寸法を含む必要はなく、また、第1及び第2の実体の組合せに言及する必要もない。第2の実体への言及なしに第1の実体の長さ、幅及び/又は高さを特定することは、保護範囲の不当な制限につながる。
4.15 「における」という表現
曖昧さを避けるため、異なる物理的実体(製品、装置)間、実体と活動(プロセス、使用)間、又は異なる活動間の関係を定義するために「における」(in)という語を使用するクレームを評価する際には、特に注意が必要である。このように表現されたクレームの例としては、以下のようなものがある:
(i) 4ストロークエンジンにおけるシリンダーヘッド
(ii) 自動ダイヤル装置、ダイヤルトーン検出器、及び機能コントローラを有する電話装置において、前記ダイヤルトーン検出器は、……を備える
(iii) アーク溶接装置の電極供給手段を使用するプロセスにおいて、アーク溶接電流および電圧を制御する方法であって、次のステップ……を含む方法
(iv) プロセス/システム/装置等において、…からなる改良
例(i)から(iii)では、サブユニット(4ストロークエンジン、電話機装置、プロセス)が含まれる完全なユニットよりも、完全に機能するサブユニット(シリンダーヘッド、発信音検出器、アーク溶接電流および電圧の制御方法)に重点が置かれている。このため、保護対象がサブユニット自体に限定されるのか、それともユニット全体が保護されるのかが不明確になることがある。明確にするために、この種のクレームは、「サブユニットを有する(又はサブユニットを備える)ユニット」(例えば、「シリンダーヘッドを有する4ストロークエンジン」)か、又はサブユニットそれ自体に向けられ、その目的を特定しなければならない(例えば、「4ストロークエンジンのシリンダーヘッド」)。後者の方法は、出願人の明確な希望があり、かつ、第123条(2)に従って出願時の出願にその根拠がある場合にのみとることができる。
例(iv)に示すタイプのクレームでは、「において」という語を使用することにより、その改良のみに対して保護を求めるのか、クレームで定義された全ての特徴に対して保護を求めるのかが不明確になることがある。ここでも、文言を明確にすることが不可欠である。
ただし、「塗料又はラッカー組成物における防錆成分としての…物質の使用」のようなクレームは、第二の非医療用途を根拠として許容される(G-VI, 6.2参照)。
4.16 使用クレーム
審査の目的上、「殺虫剤としての物質 X の使用」のような形式の「使用」クレームは、「物質 X を 使用した殺虫方法」のような形式の「方法」クレームと同等とみなされる。したがって、このような形式のクレームは、殺虫剤としての使用が意図されていると(例えば、更なる添加物によって)認識可能な物質Xに向けられたものとは解釈されない。同様に、「増幅回路におけるトランジスタの使用」に関するクレームは、トランジスタを含む回路を使用して増幅するプロセスに関するプロセスクレームに相当し、「トランジスタが使用される増幅回路」や「そのような回路を構築する際のトランジスタの使用プロセス」に向けられたものとは解釈されない。しかしながら、特定の目的のためのプロセスの使用に関するクレームは、全く同じプロセスに関するクレームと同等である(T 684/02参照)。
クレームが、使用ステップと製品製造ステップを組み合わせた2ステップのプロセスに関するものである場合は注意が必要である。例えば、スクリーニング方法におけるポリペプチドとその使用が、当該技術に対する唯一の貢献として定義されている場合などがこれに該当する。このようなクレームの例は、次のとおりである:
「(a) ポリペプチドXをスクリーニングすべき化合物と接触させることと
(b) 前記化合物が前記ポリペプチドの活性に影響を及ぼすか否かを決定し、その後、任意の活性化合物を医薬組成物に変換することと
を含む方法。」
このようなクレームには多くのバリエーションが考えられるが、要するに、(a)スクリーニング工程(すなわち、所定の試験物質を用いて所定の特性を有する化合物を選択する工程)と、(b)さらなる製造工程(すなわち、選択された化合物を例えば所望の組成物にさらに変換する工程)とを組み合わせたものである。
審決G 2/88によれば、プロセスクレームには、(i)技術的効果を達成するための実体の使用と、(ii)製品を製造するためのプロセスという2つの異なるタイプがある。G 2/88は、64条2項が(ii)のタイプのプロセスにのみ適用されることを明確にしている。したがって、上記のクレームとその類型は、2つの異なる、両立しないタイプのプロセスクレームの組み合わせを表している。クレームのステップ(a)はタイプ(i)のプロセスに関するものであり、ステップ(b)はタイプ(ii)のプロセスに関するものである。ステップ(b)は、ステップ(a)によって達成された「効果」の上に構築されるものであり、ステップ(a)が特定の出発原料をステップ(b)に供給して特定の製品をもたらすものではない。このように、クレームは部分的に使用のクレーム、部分的に製品を製造するためのプロセスで構成されている。このため、第84条によれば、クレームは不明確となる。
4.17 明細書又は図面への言及
規則43(6)に示されているように、クレームは、発明の技術的特徴に関して、「絶対的に必要な場合を除き」明細書又は図面への言及に頼ってはならない。特に、「明細書の…部分に記載されているように」、「図面の図2に図示されているように」といった言及は、通常用いてはならない。
除外条項の強調表現に注意すべきである。出願人には、適切な場合に明細書又は図面への言及に依拠することが「絶対的に必要」であることを示す責任がある(T 150/82参照)。
許容される例外の例としては、図面に図示されているが、言葉でも簡単な数式でも容易に定義できないような特殊な形状を伴う発明がある。もう一つの特別なケースは、グラフや図によってのみ定義できる特徴を持つ化学製品に関する発明である。
4.18 参照符号
出願に図面が含まれ、クレームに記載された特徴と図面の対応する参照符号との間の関連性を確立することによってクレームの理解が向上する場合、クレームに記載された特徴の後に適切な参照符号を括弧内に配置する必要がある。多数の異なる実施形態がある場合、最も重要な実施形態の参照符号のみを独立クレームに組み込む必要がある。クレームが規則43(1)に規定する2部形式で作成される場合、参照符号は特徴部分だけでなく、クレームの前文にも挿入する必要がある。
ただし、参照符号は、クレームによって保護される事項の範囲を限定するものと解されるものではなく、その唯一の機能は、クレームを理解しやすくすることである。明細書中のその旨のコメントは許容される(T 237/84参照)。
クレーム中の括弧内の参照符号に文章が追加されると、明確性を欠くことがある(第84条)。固定手段「(ネジ 13、釘 14)」又は「バルブアセンブリ(バルブシート 23、バルブエレメント 27、バルブシート 28)」のような表現は、規則 43(7)の意味における参照符号ではなく、規則 43(7)の最後の文が適用されない特別な特徴である。従って、参照符号に追加された特徴が限定的であるか否かは不明である。従って、このような括弧付きの特徴は、一般的には許されない。しかし、「(13 – 図 3; 14 – 図 4)」のように、特定の参照符号が見出される図に対する追加的な参照は、容認される。
例えば、「(コンクリート)成型レンガ」という表現は、成型レンガという特徴がコンクリートという言葉によって限定されるのか、限定されないのかが判断できないため、不明瞭である。これに対し、一般に認められた意味を持つ括弧付きの表現は許容される。例えば、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレート」の略語として知られている。化学式や数学式に括弧を使用することも、規則49(2)に基づいて長官が決定した要件に適合しない物理的数値を修正する際に使用するのと同様に、異議はない。
4.19 否定的な限定(例えば、ディスクレーマー)
クレームの主題は、通常、特定の技術的要素が存在することを示す積極的特徴で定義される。しかし、例外的に、特定の特徴がないことを明示する 否定的な限定を使って、主題を限定することができる。これは、例えば、出願時の出願書類から特徴の不存在が推測できる場合などに行うことができる(T 278/88参照)。
ディスクレーマーのような否定的限定は、クレームに積極的特徴を追加しても、保護可能な対象がより明確かつ簡潔に定義されないか(G 1/03及びT 4/80参照)、クレームの範囲が不当に限定される場合(T 1050/93参照)にのみ使用することができる。ディスクレーマーによって何が除外されるかは明確でなければならない(T 286/06参照)。また、1つ以上のディスクレーマーを含むクレームは、第84条の明確性と簡潔性の要件を完全に満たさなければならない(G 1/03、理由3参照)。さらに、特許の透明性の観点から、除外された先行技術は、規則42(1)(b)に従って明細書中に表示される必要があり、先行技術とディスクレーマーとの関係が示される必要がある。
原出願において発明の一部として開示された実施形態を除外するディスクレーマーの許容性については、H-V、4.2.2を参照のこと。出願当初の出願書類に開示されていないディスクレーマー(いわゆる非開示ディスクレーマー)の許容性については、H-V, 4.2.1を参照。
4.20 「Comprising」と「consisting of」の比較
このセクションでは、クレームを解釈する際に「comprising」及び「consisting of」という用語がどのように解釈されるかについて概説する。
所定の特徴を「備える(comprising)」装置/方法/製品に向けられたクレームは、それらの特徴を含むが、クレームを実行不可能 にしない限り、他の特徴の存在を排除しないことを意味すると解釈される。
他方、「で構成される(consistence of)」という文言が使用された場合、当該文言に続くものを除けば、装置/方法/製品にそれ以外の特徴が存在することはない。特に、化学化合物のクレームで、「成分A、B及びCで構成される」と百分率で表される割合で記載されている場合、追加的な成分の存在は除外されるため、百分率は100%まで加算されなければならない(T 711/90参照)。
化学化合物または組成物の場合、「本質的に~で構成される(consisting essentially of)」または「実質的に~を備える(comprising substantially)」の使用は、特定のさらなる成分、すなわち化合物または組成物の本質的特性に重大な影響を及ぼさない成分が存在し得ることを意味する。その他の装置/方法/製品については、これらの用語は「備える(comprising)」と同じ意味を有する。
第 123 条(2)に関して、「備える(comprising)」は、「で構成される(consistence of)」又は「本質的に~で構成される(consisting essentially of)」の暗黙の根拠となるものでは ない(T 759/10)。
4.21 病態の機能的定義
クレームが医薬品の更なる治療への適用に関するものであり、治療される病態が機能的な用語で 定義されている場合、例えば「特定の受容体を選択的に占有することによって改善又は 予防され得る病態」である場合、どの病態が機能的な定義に該当し、それに応じてクレームの範囲内に含まれるかを当業者が認識できるような実験的試験又は試験可能な基準の形式による指示が、特許文書又は一般的な一般知識から得られる場合に限り、クレームは明確であるとみなすことができる(T 241/95 参照。)
4.22 広いクレーム
条約は過度に広範なクレームについて明確に言及していない。しかし、このようなクレームに対する拒絶は、様々な理由から生じる可能性がある。
クレームと明細書との間に齟齬がある場合、クレームは明細書によって十分に裏付けられておらず(84条)、また、ほとんどの場合、発明は十分に開示されていない(83条)(T 409/91、F-Ⅳ、6.1及びF-Ⅳ、6.4参照)。
例えば、クレームが広範な用語で記載され、他の技術分野の公知事項もカバーしている場合、新規性欠如の拒絶が生じることがある。広いクレームは、目的とする効果が達成されていない実施形態をカバーすることもある。このような場合の進歩性欠如の拒絶の提起については、G-VII, 5.2を参照のこと。
異議申立手続における広いクレームについては、D-V, 4及び5も参照のこと。
4.23 クレームの順序
最初のクレームが最も広範でなければならないという法的要件はない。しかし、第84条はクレームが個々だけでなく全体としても明確でなければならないと定めている。従って、多数のクレームがある場合は、最も広範なクレームを最初に配列する必要がある。多数のクレームのうち最も広範なクレームがずっと下にあり、容易に見落とされる可能性がある場合、出願人は、より論理的な方法でクレームを並べ替えるか、導入部または明細書の概要で最も広範なクレームに注意を向けることが要求される。
さらに、最も広範なクレームが最初のクレームでない場合、後の広範なクレームも独立クレームでなければならない。従って、これらの独立クレームが同じカテゴリーである場合、規則 43(2)に基づく拒絶が生じる可能性もある(F-Ⅳ、3.2 及び 3.3 参照)。
4.24 アミノ酸または核酸配列に関する同一性や類似性などの用語の解釈
アミノ酸配列または核酸配列は一致率で定義することができる。一致率は、所定のアライメントにおいて、定義された長さにわたって同一の残基の数を決定する。一致率を決定するためのアルゴリズ ムまたは計算方法が定義されていない場合、関連する出願日に既知の合理的なアルゴリズ ムまたは計算方法を用いて、最も広い解釈が適用される。
アミノ酸配列は、類似性の程度(類似性のパーセンテージで表される)によって定義することができる。類似性という用語は、同一性という用語よりも広義であるが、その理由は、所定のアラインメントの定義された長さにわたって、同様の物理化学的特性を有するアミノ酸残基の保存的置換を許容するためである。類似性のパーセンテージは、類似性スコアリング行列が定義されている場合にのみ決定可能である。類似性スコアリングマトリックスが定義されていない場合、記載された配列に対する類似性のパーセンテージを示す配列に言及するクレームは、関連する出願日に公知の合理的な類似性スコアリングマトリックスを用いて決定された類似性の要件を満たす配列を対象とするとみなされる。
アミノ酸配列の場合、クレームの主題と先行技術とを区別する唯一の特徴として相同性のパーセンテージが出願人によって使用される場合、相同性のパーセンテージの決定又は計算が出願時の出願で明確に定義されない限り、その使用は第84条(F-IV、4.6.1参照)に基づき拒絶される。核酸配列については、通常、相同率及び一致率は同じ意味を有すると考えられる。
5. 簡潔性、クレーム数
クレームは簡潔でなければならないという要件は、個々のクレームだけでなく、クレーム全体についても同様である。クレームの数は、出願人が保護しようとする発明の性質に関連して考慮されなければならない。一つのクレームと他のクレームとの間などで、文言が過度に繰り返されることは、従属形式を使用することによって避けなければならない。同じカテゴリーの独立クレームについては、F-Ⅳ、3.2及び3.3を参照のこと。簡潔性の要件は、数及び内容の両方に関して従属クレームにも適用される。例えば、既にクレームされている主題の繰り返しは不必要であり、クレームの簡潔性に悪影響を及ぼす。同様に、従属クレームの数も合理的でなければならない。何が合理的なクレーム数であり、何が合理的でないかは、個々の事案の事実と状況による。関連する公衆の利益にも留意しなければならない。クレームの提示によって、保護を求める事項を決定することが不当に負担になるようなことがあってはならない(T 79/91 and T 246/91)。一つのクレームの中に複数の代替案が存在する場合にも、保護が求められている事項を判断することが不当に負担となる場合には、拒絶が生じる可能性がある。
第84条に基づきクレームが簡潔性を欠くと判断された場合、規則63に基づき欧州部分調査報告書または欧州部分補充調査報告書が発行される可能性がある(B-VIII、3.1および3.2参照)。このような場合、適切な補正及び/又は規則63(1)に基づく案内が正当化されなかった理由についての出願人からの説得力のある反論がなければ、規則63(3)に基づく拒絶も発生する(H-II, 5参照)。
6. 明細書の裏付け
6.1 一般的事項
クレームは明細書によって裏付けられなければならない。このことは、全てのクレームの主題について明細書中に根拠がなければならず、クレームの範囲は、明細書及び図面の範囲並びに技術への貢献によって正当化される範囲を越えて広くてはならないことを意味する(T 409/91参照)。従属クレームの明細書による裏付けについては、F-Ⅳ、6.6 を参照のこと。
6.2 一般化の程度
ほとんどのクレームは、1つ以上の特定の実施例からの一般化である。どの程度の一般化が許されるかは、関連する先行技術に照らして、各特定の事案において部門が判断しなければならない問題である。従って、全く新しい分野を開拓する発明は、公知技術の進歩に関係する発明よりも、クレームにおいてより一般化する権利がある。クレームの公正な記載とは、発明を超えるほど広範なものでもなく、発明の開示に対する正当な報酬を出願人から奪うほど狭いものでもないものである。出願人は、記載した発明のすべての明白な変更、同等物、用途をカバーすることが許される。特に、クレームでカバーされるすべての変形が、出願人が明細書で説明した特性または用途を有すると予測することが合理的である場合、出願人はそれに従ってクレームを作成することが許される。ただし、出願日後は、第123条(2)に反しない場合に限り認められる。
6.3 裏付け欠如の拒絶
一般的な規則として、クレームは、当業者が出願時の出願に記載された情報に基づき、日常的な実験又は分析方法を用いてクレームされた分野全体に明細書の特定の教示を拡張することができないと信ずるに足りる十分な理由がない限り、明細書によって裏付けされているとみなされる。しかし、裏付けは技術的性質を持つものでなければならず、技術的内容を持たない曖昧な記述や主張は根拠とならない。
部門は、根拠のある理由がある場合にのみ、裏付け欠如の拒絶を提起する。例えば、広範なクレームがその広さ全体にわたって裏付けされないという根拠ある事例を部門が提示した場合、クレームが完全に裏付けされることを証明する責任は出願人にある(F-IV, 4参照)。拒絶が提起された場合、その理由は、可能であれば、公表された文書によって具体的に裏付けられるべきである。
一般的な形式のクレーム、すなわち、材料や機械などの一分類全体に関するクレームは、明細書に公正な裏付けがあり、クレームされた分野全体を通じて発明を実施することができないと仮定する理由がない場合には、範囲が広くても許容される場合がある。与えられた情報が、当業者が日常的な実験又は分析方法を用いて、クレームされた分野のうち明示的に記載されていない部分まで明細書の教示を拡張することを可能にするには不十分であると思われる場合、部門は理由付けされた拒絶を提起し、出願人に対し、適切な回答によって、クレームされた分野全体にわたって与えられた情報に基づいて本発明を実際に容易に適用できることを立証するか、又はこれに失敗した場合には、クレームを適切に限定するよう求める。
裏付けに関する問題を以下の例で説明する:
(i) クレームは、あらゆる種類の「植物の苗」を、特定の結果が得られるように制御された低温ショックにかけることによって処理するためのプロセスに関するものであるが、明細書には、そのプロセスが1種類の植物にのみ適用されることが開示されている。植物の性質は千差万別であることはよく知られているので、この方法がすべての植物苗に適用できるわけではないと考えるには、十分な根拠がある。それにもかかわらず、その製法が一般的に適用可能であるという説得力のある証拠を提出できない限り、出願人は、明細書で言及されている特定の種類の植物にクレームを限定しなければならない。その製法がすべての植物の苗に適用可能であると主張するだけでは不十分である。
(ii) クレームが、「合成樹脂成型物」を処理して特定の物理的特性の変化を得るための特定の方法に関するものである。記載されている例はすべて熱可塑性樹脂に関するものであり、この方法は熱硬化性樹脂には不適切と考えられる。出願人は、この方法が熱硬化性樹脂にも適用可能であるという証拠を提出できない限り、その主張を熱可塑性樹脂に限定しなければならない。
(iii) クレームは、所定の所望の特性を有する改良された燃料油組成物に関するものである。明細書は、この特性を有する燃料油を得るための1つの方法、すなわち、ある添加剤の規定量の存在による方法についての裏付けを提供している。所望の特性を有する燃料油を得る他の方法は開示されていない。クレームは添加剤について何も言及していない。クレームはその幅全体にわたって裏付けされておらず、拒絶が提起される。
クレームが第84条の規定に基づく明細書の裏付けを欠いていることが判明した場合、規則63に基づき、部分欧州調査報告書又は補充欧州調査報告書が発行される可能性がある(B-VIII、3.1及び3.2参照)。このような場合、規則63(1)に基づく通知(B-VIII, 3.2参照)又は規則70aに基づく調査意見書(B-XI, 8参照)に対する応答において出願人から適切な補正及び/又は説得力のある反論が提出されなければ、規則63(3)に基づく拒絶も提起される(H-II, 5参照)。
6.4 裏付け欠如と開示不十分の比較
裏付け欠如の拒絶は、第84条に基づく拒絶であるが、上記の例のように、第83条に基づく発明の開示不十分の拒絶とみなされることも多い(F-III、1~3参照)。第84条の拒絶は、(狭い「発明」については十分であっても)当業者がクレームされた広範な分野全体にわたって「発明」を実施するには開示が不十分であるというものである。 どちらの要件も、クレームの条件は、発明の技術的貢献に相応するものでなければならない、又は、当該技術的貢献によって正当化されなければならないという原則を反映するように設計されている。したがって、発明がどの程度十分に開示されているかは、裏付けの問題にも大きく関係する。第83条の要件を満たさない理由は、事実上、第84条の違反をもたらす理由、すなわち、クレームされた全範囲にわたる発明が、出願時の出願によって当業者が利用できない技術的主題に及んでいるという理由と同じである可能性がある(T 409/91、理由2、3.3~3.5参照)。
例えば、ある技術的特徴が発明の本質的特徴であるとして明細書に記載され、強調されている場合、第84条に準拠するためには、この特徴も発明を定義する独立クレームの一部でなければならない(F-Ⅳ、4.5.1参照)。同様に、当該(本質的)技術的特徴がクレームから外れており、当該特徴を使用せずにクレームされた発明を成功裏に実施する方法に関する情報が与えられていない場合、明細書はクレームで定義された発明を第83条に規定された方法で開示していないことになる。
第84条と第83条の両方に基づく拒絶が正当化される場合もある。例えば、測定可能なパラメータで定義された既知の化合物群に関するクレームで、当業者がパラメータ的定義に準拠した化合物を製造することを可能にする技術的教示が明細書に開示されておらず、通常の一般的知識の適用や日常的な実験によっても実現可能でない場合である。このようなクレームは、パラメーター定義が第84条の明確性の要件を満たすか否かにかかわらず、技術的に裏付けがなく、かつ十分に開示されていないことになる。
拒絶の理由が裏付け欠如であるか開示不十分であるかは、審査手続では重要ではないが、異議申立手続では後者の理由のみが適用されるため、重要である(D-III, 5参照)。
6.5 機能の観点からの定義
クレームは、明細書の中で特徴の一つの例のみが示されている場合でも、当業者が同じ機能に対して他の手段も使用できることを理解する場合には、その機能の観点で、すなわち機能的特徴として特徴を広く定義することができる(F-Ⅳ、2.1及び4.10も参照)。例えば、クレーム中の「端子位置検出手段」は、リミットスイッチを含む一つの例によって裏付けられているかもしれないが、それは例えば光電セルやひずみゲージを代わりに使用できることが当業者には明らかである。しかし、一般に、出願の内容全体が、ある機能が特定の方法で実行されるという印象を与えるようなものであり、代替手段が想定されているという示唆がなく、クレームが、その機能を実行する他の手段又は全ての手段を包含するような形で定式化されている場合には、拒絶が生じる。さらに、他の手段がどのようなものであるか、どのように使用され得るかが合理的に明らかでない場合、他の手段を採用し得ることを曖昧な用語で記載するだけでは十分でないこともある。
6.6 従属クレームの裏付け
ある主題が出願時のクレームに明確に開示されているが、明細書のどこにも記載されていない場合、その主題を含むように明細書を補正することが認められる。クレームが従属クレームである場合、クレームが発明の特定の実施形態を説明することが明細書に記載されていれば足りる場合がある(F-II, 4.5参照)。
付録
本質的特徴に関する例
例1
クレーム1は、金属イオンにより水に不溶化された水性ゲルを含むゲルコートを有するゲルコート種子の保存方法に関する。この方法は、ゲルコート種子を、前記金属イオンを含む水溶液中に保存することを特徴とする。明細書において、発明の目的は、収量および取り扱い性の低下を招くことなく、ゲルコート種子を容易に保存する方法を提供することと定義されている。明細書では、発明の目的を達成するためには、金属イオン濃度を特定の範囲に限定する必要があることが強調されている。金属イオン濃度が特定の範囲を外れると、歩留まりやハンドリング性に悪影響を及ぼすことが示された。したがって、特定範囲を示さないクレーム1の主題は、明細書に記載された課題を解決するものではない。
例2
発明は、金属ストリップを凹状に成形するための装置に関する。最も近接する先行技術では、金属ストリップは、その長さに対して横方向に、凹形状がストリップに適用されるローラの整形セットに通される。明細書によれば、課題は、ローラーがストリップの側方端部に曲線を形成する力を加えることができず、そのため側方端部は通常平面に終わることである。独立クレームの差異的特徴は、フレキシブルなベルト又はウェブのような部材が、整形ローラーのセットを通過する際にストリップを支持するために設けられていることを特定している。この特徴は、課題を解決するのに十分である。さらなる特徴、例えば、ストリップをローラーの整形セット内に前進させるための機構の詳細や、少なくとも3つのローラーを設けることは、課題を解決するために必要ではない。このような追加的な特徴は、クレームを不当に制限することになる(T 1069/01参照)。
例3
クレーム1は、テレビジョン信号を符号化するための装置に向けられており、特に、予測されたフィールドの画素データと実際の現在のフィールドの画素データとの間の誤差が最小化されるようにするパラメータ生成手段を備える。明細書は、誤差を最小化するための一例、すなわち最小二乗法のみを記載している。重要なことは、当業者であれば、誤差最小化関数をどのように実装できるかを理解できることであり、最小二乗法が唯一の適用可能な方法であるかどうかは、この文脈では関係ない。したがって、最小二乗法を使用するという意味で、クレームされたパラメータ生成手段をさらに限定する必要はない(T 41/91参照)。
例4
明細書は、AとBの混合物を100℃で少なくとも10分間反応させることにより化合物Cを得ると述べている。AとBをこの最低時間反応させなければならず、そうしないと反応が不完全になり、Cが生成しないことが強調されている。クレーム1は、AとBの混合物を100℃で5〜15分間反応させることを特徴とする化合物Cの製造法に関する。明細書には、反応が完全であるためには、AとBを少なくとも10分間反応させる必要があると明確に記載されているため、クレームには発明の本質的特徴がすべて含まれているわけではない。
例5
明細書は、解決すべき課題を、推進剤として必要とされる望ましくない揮発性有機化合物(VOC)の割合が劇的に減少し、その結果、大気へのVOC放出がより少なくなるエアゾール組成物を提供することと特定している。クレーム1は、エアゾール中の(VOCである)推進剤の最小量を少なくとも15重量%と規定しているが、その最大量については完全に言及されていない。より少ないVOCを環境に放出するという本出願の根底にある課題は、推進剤がエアゾール組成物中の特定の最大量を超えない場合にのみ解決される:したがって、この最大値は本発明の本質的特徴である。クレーム1は、15重量%以上の任意の量の推進剤を含むエアロゾルをカバーし、それにより従来のエアロゾルに存在する推進剤の不足した高い割合をカバーする。したがって、クレームされたエアゾール組成物中の望ましくないVOCの割合は「劇的に減少」しておらず、したがって本発明の記載された目的は達成されていない(T 586/97参照)。
例6
診断方法に関して、G 1/04では、演繹的な医学的又は獣医学的判断段階が、出願又は特許全体から明確に導出可能である場合には、独立クレームに本質的特徴として含まれることが示されている。言い換えれば、このような方法の最初の3段階(G-Ⅱ、4.2.1.3参照)の必然的な結果が、特定の臨床像に起因する逸脱を許容する治癒目的の具体的な診断である場合、第84条の要件を満たすためには、判断段階を独立クレームに含めなければならない。ただし、この場合、第53条(c)に基づき、クレームが特許性から除外される可能性がある(G-II、4.2.1.3も参照)。最終判断段階を本質的特徴として独立クレームに含めるという要件は、調査結果の必然的な結果が特定の診断に一義的につながることが出願/特許全体から明らかな場合にのみ適用される。
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