日欧米比較:クレームの2部構成

EPOの審査ガイドラインF-IV, 2.2(参考和訳はこちら)によれば、適切である場合、クレームを2部構成(two-part form)で記載することが求められます。

日本では、このようなことが求められる規定はありませんが、実務上、クレームを前段と後段に分けて記載することはあります。

この記事では、EPOへの出願のクレームで求められる2部構成と、これに関連する日本及び米国でのクレームの記載方法について解説します。

日欧米比較:クレームの2部構成

欧州におけるクレームの2部構成

欧州におけるクレームの2部構成とは、典型的には次のように独立クレームを記載することです。

[Claim 1] A device comprising:
 a unit A … and
 a unit B …,
 characterized by
 the unit A further configured to ….

「characterized by」の前の部分である前文(preamble)には、発明の主題の指定又は技術的分類(上記の例では「A device」)と、先行技術(最も近接する先行技術文献)に開示されているがクレームされた主題の定義に必要な特徴(上記の例では「a unit A …」、「a unit B …」)を記載します。

「characterized by」の後の部分である特徴部分(characterising portion)には、上記先行技術には開示されていない特徴を記載します。

このように、クレームを「characterized by」(又は、クレームの文脈によっては「characterized in that」)などで区切って、前文と、特徴部分とに分けて記載することを欧州では、2部構成(two-part form)と呼んでいます。

また、「適切である限り」2部構成で記載する必要がありますが、適切でない場合は、2部構成で記載する必要はありません。

2部構成にすることが適切でない場合の例として、次のものが考えられます。

  • クレームに係る主題を構成する各特徴は既知であるが、当該特徴の組み合わせが新規である
  • クレームに係る主題が既知の化合物の製造プロセスの改良に関するもので、当該プロセスに必要なある物質を省略したり、別の物質に置き換えたりするもの

技術分野によっては(例えば、化学)、2部構成が求められることはあまりありません。

2部構成にすべきか否か、又はどのように2部構成にすべきか、出願人又は日本の代理人では判断できない場合もあると思いますので、2部構成への対応は、現地代理人に判断を任せればよいと思います。

また、EPOへの出願時点で独立クレームを2部構成にする必要はなく、通常は、調査報告などで引用された先行技術文献を確認してから2部構成に補正します。

日本におけるクレームの記載

日本では例えば次のようにクレームを2つの部分(「・・・であって」の前と後)に分けて記載することがあります。

【請求項1】
・・・であるAと、
・・・であるBと
を備える装置であって、
Aは、・・・である装置。

ですが、日本では、クレームをドラフトする人の判断で、書きやすさや読みやすさなどを目的として上記のようにクレームを記載することがありますが、クレームを2つの部分に分けて記載することに関して明文の規定はありません。

従って、上記の形式による記載は、欧州のように従来技術の特徴と、そうでない特徴とを分けて記載することを目的とするものではないことも多いです。

一方、次のようないわゆる「おいて書き」と言われる記載方法では、「・・・において」の前段部分は従来技術とみなす否かという論点もあります(必ずしも従来技術とはならないという考えが主流です)。

【請求項1】
・・・であるAと、
・・・であるBと
を備える装置において
Aは、・・・である装置。

米国におけるクレームの記載

米国には、欧州の2部構成と似たクレームの形式で、ジェプソン形式(Jepson format)と呼ばれるものがあります。

MPEP2129及び37CFR§1.75によれば、ジェプソン形式とは、例えば次のようなクレームの記載形式です。

1. A device comprising:
 a unit A … and
 a unit B …,
 wherein the improvement comprises
 the unit A further configured to ….

あくまでも例示的な記載ですが、“wherein the improvement comprises”というフレーズでクレームを前段と後段に分けるのが特徴的です。

前段には一般的な事項や従来技術を記載し、後段には新規な事項や従来技術からの改善事項を記載します。

MPEP2129によれば、ジェプソン形式でクレームを作成すると、前段部分に記載の内容は、先行技術と暗黙的に認めたものとみなされます(ただし、出願人は、ジェプソン形式で記載した別の理由を示すことにより、先行技術とみなされなくなる場合もあります)。

なお、欧州のように審査官から、クレームをジェプソン形式で記載することは求められません。

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