欧州特許審査ガイドラインG-VII, 5.4:課題解決アプローチ(技術的及び非技術的な特徴を含むクレーム)

はじめに

クレームには、技術的特徴と、非技術的特徴とが含まれることがあります。コンピュータ実装発明(computer-implemented inventions: CII)では、特にそのような傾向があります。

このような技術的特徴と、非技術的特徴とを含むクレームに係る発明は、欧州では混在タイプの発明と呼ばれます。

混在タイプの発明に対する進歩性の拒絶理由を解消するには、混在タイプの発明に関する課題解決アプローチの理解が必要です。

審査ガイドラインのG-VII, 5.4は、混在タイプの発明に関する課題解決アプローチの適用方法について説明しています。

混在タイプの発明に対する課題解決アプローチの適用方法を理解するするためには、いくつかの前提知識が必要となりますので、まず、以下にそのポイントを解説します。

COMVIKアプローチ

混在タイプの発明に関する重要審決として、COMVIK 審決(T641/00)があります。

COMVIK 審決では、発明の技術的性質(technical character)に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることができないこと、単独では非技術的な特徴であっても、クレームに係る発明の文脈では技術的課題の技術的解決に寄与することにより発明の技術的性質に貢献する場合があること、などを判示しました。

混在タイプの発明に対する課題解決アプローチは、COMVIK審決が判示した内容に従った進歩性の評価方法です。

EPC第52条(2)

EPC第52条は、特許を受けることができる発明について規定しています。

EPC第52条 特許を受けることができる発明

(1) 欧州特許は、産業上利用することができ、新規であり、かつ、進歩性を有するすべての
技術分野におけるあらゆる発明に対して付与される。
(2) 次のものは、特に(1)の意味における発明とみなさない。
 (a) 発見、科学的理論及び数学的方法
 (b) 美的創作物
 (c) 精神的行為、ゲーム又はビジネスのための計画、規則及び方法、並びに電子計算機用プログラム
 (d) 情報の提示
(3) (2)は、欧州特許出願又は欧州特許が同項に規定する対象又は行為それ自体に関係している範囲内においてのみ、当該対象又は行為の特許性を排除する。

EPC第52条(2)は、特に特許の対象ではないものを規定しています。

EPC第52条(2)は、後述のとおり、特許適格性と、進歩性の両者を評価する役割を果たします。このような二つの評価は、二段階ハードルアプローチ(Two Hurdle Approach)とも呼ばれます。

二段階ハードルアプローチ

二段階ハードルアプローチにおける一つ目のハードルとして、クレームに係る主題が全体として、EPC第52条(2)及び(3)に列挙されたものに該当しないことが要求されます。

この一つ目のハードルは、クレームに係る主題が技術的特徴を一つ有すれば、クリアされます。

二つ目のハードルとして、進歩性が評価されます。クレームに係る主題に含まれる特徴のうち、非技術的特徴であって、発明の技術的性質に貢献しない特徴は、進歩性の存在を裏付けることができません。

この記事のテーマである混在タイプの発明に対する課題解決アプローチの適用方法とは、二段階ハードルアプローチにおける二つ目のハードルの評価方法に関するものです。

二段階ハードルアプローチについては、審査ガイドラインのG-II, 2でも説明されています。

特徴の種類

審査ガイドラインには、クレームに係る主題が含む特徴として、「技術的特徴」、「非技術的特徴」、及び「発明の技術的性質に貢献する特徴」といった用語が使用されます。

それぞれの用語の意味を整理すると次のとおりです。

・技術的特徴
EPC、EPC規則、及び審査ガイドラインは、「技術的特徴」の意味を明確に定義していません。

一方で、EPC規則第43条(1)は、「クレームは、保護が求められている事項を、発明の技術的特徴に関して定義する。」と規定していることから、「技術的特徴」とは、基本的には、特許による保護が認められる発明を構成する特徴である理解できます。(※「基本的には」としたのは、非技術的特徴であっても、所定の場合には特許が付与される発明の一部を構成する場合があるためです。)

また、特許を受けることができる発明は、上記のとおりEPC第52条に規定されています。

・非技術的特徴
「非技術的特徴」とは、審査ガイドラインのG-II, 2によれば、それ自体がEPC第52条(2)の規定により発明とみなされない対象(例えば、数学的方法、美的創作物、又は精神的行為など)である特徴です。

・発明の技術的性質に貢献する特徴
「発明の技術的性質に貢献する特徴」は、「技術的特徴」と、「非技術的特徴」とを含みうる概念です。

混在タイプの発明の進歩性を評価する場合、「発明の技術的性質に貢献する特徴」が考慮されます。

「発明の技術的性質に貢献する特徴」は、明確に定義された用語ではないと考えられます。

一方で、審査ガイドラインのG-VII, 5.4を踏まえれば、「発明の技術的性質に貢献する特徴」つまり、進歩性評価考慮される特徴とは、発明の技術的効果を生み出すことに貢献する特徴であって、少なくとも、特許性がEPC第52条(2)により排除される分野における課題の解決のみに貢献するものではない特徴であると考えられます。

特許性がEPC第52条(2)より排除される分野の詳細については、審査ガイドラインのG‑II, 3に説明されています。 

以下は、混在タイプの発明に対する課題解決アプローチの適用方法に関して、審査ガイドラインのG-VII, 5.4に記載されている内容の概要です。

審査ガイドラインG-VII, 5.4:課題解決アプローチ(技術的特徴と非技術的特徴を含むクレーム)の概要

課題解決アプローチは、発明の技術的性質に寄与しない特徴に基づいて進歩性が認められることがないように、また、寄与するすべての特徴が適切に特定され、評価において考慮されるように、混在タイプの発明に適用される。このため、クレームが非技術分野で達成されるべき目的に言及している場合、この目的は、解決すべき技術的課題の枠組みの一部として、特に、満たされなければならない制約として、客観的技術的課題の定式化に現れてもよい。

以下のステップは、COMVIKアプローチに従った混在タイプの発明への課題解決アプローチの適用を概説する。

ステップ(i)

発明の技術的性質に寄与する特徴は、発明の文脈において達成される技術的効果に基づき決定される。

ステップ(ii)

ステップ(i)で特定した発明の技術的性質に貢献する特徴に着目し、最も近い先行技術として適切な出発点を選択する。

ステップ(iii)

最も近接する先行技術との相違点を特定する。これらの相違点から、技術的貢献をする特徴としない特徴を識別するために、クレーム全体の文脈における、これらの相違点の技術的効果を判断する。

(a) 相違点がない(非技術的な相違点すらない)場合、EPC第54条に基づき拒絶理由が提起される。
(b) 相違点が技術的な貢献をしていない場合、EPC第56条に基づき拒絶理由が提起される。先行技術に対する技術的な貢献がないため、拒絶理由は、クレームに係る主題は進歩性を有さないとなる。
(c) 相違点に技術的な貢献をする特徴が含まれる場合、次のことが適用される。

  • これらの特徴により得られる技術的効果に基づいて、客観的技術的課題が構築される。また、相違点が技術的貢献をしない特徴を含む場合、その特徴又は発明によって得られる非技術的効果は、当業者に「与えられた」ものの一環として、特に満たすべき制約として、客観的技術的課題の構築に使用することができる。
  • 客観的技術的課題に対するクレームされた技術的解決手段が、当業者にとって自明である場合は、進歩性欠如の拒絶理由が提起される(EPC第56条)。
  • 客観的技術的課題に対するクレームされた技術的解決手段が、当業者にとって自明でない場合は、そのクレームは進歩性があるとみなされる。

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