[入門]欧州への特許出願前に最低限知っておくべきこと

初めて又は久しぶりに欧州地域への特許出願を検討することになり必要な情報を調べてみると、多くの情報が出てきて整理が難しくなる場合があります。

本記事では、欧州地域で特許出願をする際に、出願前に最低限知っておくべきことについて説明します。

[入門]欧州への特許出願前に最低限知っておくべきこと

出願方法の選択肢

欧州地域へ特許出願をする場合、

欧州特許庁(EPO)へ出願する方法と、
特許を取りたい国の特許庁へ出願する方法

があります。

EPOへの欧州特許出願は、欧州地域の複数の国おける特許の効力を得たい場合に利用されます。

具体的には、EPOへの欧州特許出願により、所定の審査及び手続きを経て、

統一特許裁判所協定(UPCA)の批准国全体おいて単一的な効力を有する単一特許、又は
指定した欧州特許条約(EPC)締約国毎に独立して存在する特許の束

を得ることができます(2023年6月のUPCA発効から7年~14年の移行期間中である前提です)。

EPOへの欧州特許出願により、単一特許に加えて、EPC締約国であるがUPCAの批准国ではない国(例えば、イギリス)で独立して発生する特許を得ることも可能です。

例として、EPOへの欧州特許出願により、次のように特許を取得することが可能です。

例1 欧州特許出願→ドイツ特許+フランス特許+イギリス特許
例2 欧州特許出願→単一特許+イギリス特許

単一特許の基本的な情報については、こちらにもまとめてあります。

各出願方法のメリットとデメリットは次のとおりです。

<EPOへの出願>

主なメリット 主なデメリット
・一つの出願及び審査手続きにより、複数の国に及ぶ特許を取得可能
・非英語圏の国に及ぶ特許の審査が英語で受けられる
・出願が審査で拒絶され、又は異議申立で特許が取消されると、複数の国に及ぶ特許の出願拒絶又は取消
・特許を取得したい国が少ない(2カ国以下とも言われている)場合、コストが割高

<各国特許庁への出願>

主なメリット 主なデメリット
・特許を取得したい国が少ない場合(例えば、1、2カ国)、欧州特許出願より低コスト
・全ての国で出願拒絶、特許消滅のリスクが欧州特許出願より低い
・特許を取得したい国が多い場合、高コスト(手続き面、費用面)
・国ごとの公用語で明細書の準備し、審査を受ける必要性
・欧州特許庁より、審査期間が長く、審査結果の予見性が低い場合がある

出願書類(手続言語)

欧州特許出願は、欧州特許庁の公用語(英語、フランス語、ドイツ語)のいずれかの言語で提出できます(EPC14条(1))。

他の言語(例えば、日本語)で欧州特許出願を提出できますが、その場合、出願から2か月以内に公用語による翻訳文の提出が必要です(EPC14条(2)、規則6(1))。

欧州段階への移行手続

PCT出願の欧州段階への移行手続に関係する主な期限は次の通りです。

PCT出願の欧州段階移行期限: 優先日から31月(規則159(1))
審査請求期限:

PCTルートでは国際調査報告の公開から6月又は優先日から31月の遅い方(EPC153(6)、規則159(1))
※パリルートでは欧州調査報告の公開から6月以内(規則70(1))

自発補正:

欧州段階移行時に可能(規則159(1))
※方式審査後の規則161の通知から6月以内にも可能

手続フロー

次の図は、EPOへの特許出願(欧州特許出願)のフローチャートです。

その他欧州特許出願で覚えておくべきこと

優先権の基礎出願に開示された発明と優先権主張をした出願に係る発明の同一性の判断に関し、欧州特許庁は、日本特許庁よりも厳しいです。そのため、基礎出願の内容に変更を加える場合だけでなく、追加した内容で優先権主張をし、欧州特許出願をする場合には、慎重な判断が必要です。

欧州特許出願において、新規性喪失の例外に対応する規定は、
・出願人又はその法律上の前権利者に対する明らかな濫用(意に反する公知)
・所定の国際博覧会で展示など
の場合にのみ適用されるため(EPC55条(1))、日本で新規性喪失の例外の適用を受けた出願を基礎に欧州特許出願をする場合には、留意が必要です

また、日本特許法29条の2に基づく拒絶理由(拡大先願)は、先願が同一の発明者又は出願人の場合適用されませんが、欧州特許出願には、そのような適用除外規定はありませんので、留意が必要です(EPC54条(3))。

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