欧州特許審査ガイドラインH-V:補正の許容性-例(2024年版)

EPC第123条は、補正要件について規定しています。

第123条 補正
(1) 欧州特許出願又は欧州特許は、欧州特許庁における手続において、施行規則に従い、補正することができる。如何なる場合においても、出願人は、出願について自発的に補正をする少なくとも1回の機会が与えられる。
(2) 欧州特許出願又は欧州特許は、出願時における出願内容を超える対象を含めるように補正してはならない。
(3) 欧州特許は,保護を拡張するように補正してはならない。

基本原則として、欧州特許出願又は欧州特許の補正は、当業者が共通の一般知識を用い、客観的かつ出願日に照らして、出願時の書類全体から直接かつ明確に導出する事項の範囲内でのみ補正を行うことができます(G 3/89等)。

補正によって、当業者が出願時の書類全体により提示されたものから直接かつ明確に導出できない情報を提示されることになる場合には、当該補正は、出願時の出願内容を超える主題を導入するものとみなされ、認められません(G 2/10)。

この基本原則は、ゴールドスタンダードと呼ばれます。

しかしながら、上記のゴールドスタンダードを見ただけでは、具体的にどのような補正が許容され又は許容されないのかを判断することが困難である場合があります。

以下は、欧州特許出願又は特許に対して許容される補正の例を説明する審査ガイドラインのH-Vの記載(2024年版)の参考和訳です。正確な内容は原文を確認ください。

欧州特許審査ガイドラインH-V:補正の許容性-例(2024年版)

1. 序文

H-V章は、123条(2)及び/又は123条(3)の遵守が問題となる典型的な状況について、追加のガイダンスと例を示している。しかし、具体的な補正の可否は、最終的にはケースバイケースで判断されることを念頭に置かなければならない。

2. 明細書の補正

2.1 技術的効果の明確化

当初出願において技術的特徴が明確に開示されていたが、その効果が記載されていない、又は完全には記載されていない場合であっても、出願時の出願から当業者が容易に推測できる場合には、明細書においてその効果を後で明確にすることは、123条(2)に違反しない。

2.2 更なる実施例及び新たな効果の導入

更なる実施例の導入による補正は、H-Ⅳ, 2に概説した一般的な考慮事項に照らして、常に非常に注意深く検討する必要がある。同じことが、新たな技術的利点などの発明の新たな(すなわち、これまで言及されていなかった)効果の記載を導入する場合にも当てはまる。例えば、当初提示された発明が、特定の流体で衣類を処理することからなる毛織物衣類を洗浄するための工程に関するものであった場合、出願人は、その工程が衣類を虫害から保護するという利点も有するという記述を後に明細書に導入することは許されない。

しかしながら、一定の状況下では、後に提出された実施例又は新たな効果は、出願に認められなくとも、クレームされた発明の特許性を裏付ける証拠として審査部に考慮されることがある。例えば、追加的な実施例は、当初出願された出願に記載された情報に基づいて、クレームされた全分野において発明を容易に適用できることの証拠として認められる場合がある(F-Ⅳ, 6.3参照)。同様に、新たな効果は、この新たな効果が最初に出願された出願に開示された効果によって暗示されているか、又は少なくとも関連していることを条件として、進歩性を裏付ける証拠として考慮することができる(G-VII, 10参照)。

2.3 補足的技術情報

出願日後に提出された補足的技術情報は、規則144(d)に従って公衆の閲覧から除外されない限り、ファイルの公開部分に追加される。当該情報がファイルの公開部分に追加された日から、当該情報は54条(2)の意味における技術水準の一部を形成する。出願後に提出され、明細書に含まれていないそのような情報の存在を公衆に通知するために、特許明細書の表紙に適切な記載が印刷される。

2.4 技術的課題の記載の修正

発明によって解決される技術的課題の記載を補正したり、その後に挿入したりする場合には、123条(2)に適合するように注意しなければならない。例えば、進歩性欠如の拒絶に対応するためにクレームを限定した後、このように限定された発明によって達成可能であるが、先行技術によっては達成できない効果を強調するために、記載された課題を修正することが望まれる場合がある。

このような修正は、強調された効果が出願時の出願から当業者が容易に推測できるものである場合にのみ許されることを忘れてはならない(上記H-V, 2.1及び2.2参照)。

提案された補正が123条(2)に違反する場合には、例えば、課題をより一般的な用語で定義するか、課題の明示的な記載を完全に省略するなど、他の方法で明細書を補正する必要がある。

2.5 参照文献

相互参照された文献の特徴は、特定の条件下では、補正によって出願のクレームに導入することができる(H-Ⅳ, 2.2.1参照)。

2.6 明細書中の文章の変更、削除又は追加

文章の追加だけでなく、文章の変更又は削除も、新たな主題を導入する可能性がある。例えば、ある発明が多層ラミネートパネルに関するものであり、その明細書に複数の異なる層構成の実施例が記載され、これらのうちの1つがポリエチレンの外層を有するとする。この実施例について、外層をポリプロピレンに変更するか、この層を完全に省略するかのいずれかに修正することは、通常は認められない。いずれの場合も、当該補正例によって開示されるパネルは、当初開示されたものとは全く異なるものであるため、当該補正は新たな主題を導入することになり、認められない。

2.7 補正されたクレームに沿った明細書の作成

明細書は、F-II, 4.2、F-IV, 4.3(iii)及びF-IV, 4.4に規定する要件を満たすように必要に応じて補正することによって、補正されたクレームに沿うようにしなければならない。

出願人が要求されたとおりに明細書を補正しない場合、審査部の次の措置は口頭審理に対する召喚状を発行することであってもよい。その期間については、E-III, 6(iii)が適用される。

3. クレームの補正

クレームからの特徴の置換又は削除、及び更なる特徴の追加は、当該クレーム自体だけでなく、クレームセット全体を考慮した場合にも新たな主題を導入する可能性がある。実際、このような補正は、補正後のクレームをその従属クレーム及び/又はその従属クレームが従属するクレームと共に考慮した場合、出願時の出願に開示されていない特徴の組み合わせとなる可能性がある。

3.1 クレームからの特徴の置換又は削除

特徴の置換又は削除が、出願書類の全体から、当業者が共通の一般的知識を用いて、客観的に見て、出願日(又は89条に基づく優先日)に照らして、直接かつ明確に導き出せる範囲内にある場合にのみ、123条(2)の要件が満たされる(G 3/89、G 11/91及びG 2/10)。

クレームから特徴を置換又は削除する補正が、少なくとも1つの基準で以下のテストに合格しない場合、必然的に123条(2)の要件に反する:

(i) 置換又は削除された特徴が、当初提出された開示において必須であると説明されていない;

(ii) 当業者は、発明が解決しようとする技術的課題に照らして、当該特徴が、それ自体、発明の機能にとって不可欠なものではないことを直接かつ明確に認識すること(この文脈において、手続中に技術的課題が再定義された場合には、特別な注意が必要である。H-V, 2.4及びG-VII, 11参照);

(iii) 当業者であれば、当該置換又は削除が、その変更を補うために1つ又は複数の特徴の変更を必要としない(それ自体は発明を変更しない)ことを認識するであろうこと。

しかしながら、上記の基準を満たしたとしても、部門は、G 2/10で「ゴールドスタンダード」と呼ばれ、G 3/89及びG 11/91で規定されているように、クレームから特徴を置換又は削除することによる補正が123条(2)の要件を満たすことを確認しなければならない。

独立クレームからいくつかの特徴が削除され、例えば、当初クレームされた主題の一部のみに限定される場合、補正クレームの主題は、それ自体が発明であるとして出願時の出願から直接かつ明確に導出可能でなければならず、すなわち、削除された特定の特徴がない場合にも技術的問題を解決し、機能するものでなければならない。

許可された独立クレームから限定的特徴を削除することは、結果的に与えられる保護の範囲を広げることになり、123条(3)に違反する可能性がある。同様に、許可されたクレーム中の特徴を置換する場合は、123条(3)の遵守を注意深くチェックする必要がある。

3.2 追加の特徴を含める

追加の特徴を含めるによってクレームを限定することができる。ただし、その結果生じる組合せが、出願当初の出願において明示的又は黙示的な方法で直接かつ明確に開示されており(H-IV, 2.1参照)、かつ調査されなかった発明に関するものでないことを条件とする(H-IV, 4及びH-II, 6.2参照)。結果として生じる組合せが出願当初の出願に対して新規である場合(G-VI, 2に示される新規性のテストを参照)、補正後のクレームは123条(2)の要件を満たさない。

結果として生じる組合せが次のように理解されるという事実:

– 明細書と「矛盾しない」(T 495/06)、又は

– 「合理的にもっともらしい」(T 824/06)、又は

– 出願から見て「自明」(T 329/99)

直接かつ明確な開示が必要であるため、上記事実は123条(2)に基づき補正が認められるには十分ではない。

クレームは、例えば、次のような追加的な特徴を含めることによって限定することができる:

(a) 限定されるクレームに従属する従属クレームからの追加的特徴;

(b) 明細書からの追加的特徴(H-V, 3.2.1も参照);

(c) 図面からの追加的特徴(H-V, 6参照);

(d) 独立クレームから従属クレームへの変更に起因する追加的特徴;

ただし、上記の要件を満たすことを条件とする。

3.2.1 中間的一般化

当初開示された特徴の組み合わせから特定の特徴を分離して抽出し、それをクレームされた主題の画定に使用することは、特徴の間に構造的及び機能的関係がない場合に限り認められる。

特徴の組合せから抽出された特徴によるクレームの限定が123条(2)の要件を満たすかどうかを評価する場合、出願時の出願内容は、特定の組合せを人為的に作成するために、別々の実施形態に係る個々の特徴を組み合わせることができる貯水池とみなしてはならない。

特定の実施形態から特徴を取り出してクレームに追加する場合、以下のことが立証されなければならない:

– その特徴が、その実施形態の他の特徴に関連していないか、又は密接に関連していないこと。

– 全体的な開示が、その特徴を一般化して分離し、クレームに導入することを正当化すること。

これらの条件は、中間的一般化の特定のケースにおいて、補正が123条(2)の要件を満たすかどうかを評価するための補助として理解されるべきである。いずれの場合においても、共通の一般的知識を用いて当業者にとって暗黙的な事項を考慮する場合であっても、当業者が、当初出願された出願から直接かつ明確に導出できない情報を提示されないようにしなければならない。

例1

補正後のクレームは、織機のハーネス用のヘドル(綜絖)に関するものである。当初のクレームは、ヘドルのアイレットがスピンドルの形状を有する特定の実施形態に関連してのみ開示された特徴を導入することによって限定されていた。この形状は補正後のクレームには含まれていない。明細書の一般的な部分には、アイレットが楕円形などの他の形状を有することもできると記載されていた。したがって、審判部は、補正は123条(2)に基づき認められると結論づけた(T 300/06)。

例2

クレーム1は、水分散性で洗浄可能な吸収性物品に関する。補正後のクレーム1は、第1及び第2の繊維状集合体の各々がウエットレイドティッシュ(wet laid tissue)であることを明記している。出願時の出願は、第1の繊維状集合体に関連して、他の特徴(組織が開口している;組織がフィブリル又は十分な固有の多孔性を備えている)と組み合わせたウェットレイドティッシュに言及していた。

出願時の出願では、クレーム1には存在しない他の特徴との組み合わせにおいてのみ、第1の繊維状集合体がウェットレイドティッシュであると開示されているため、今回の補正は、当初開示された技術情報の一般化を構成し、それにより、出願時の出願の内容を超える主題を導入するものである(T 1164/04)。

例3

当初のクレーム1は、少なくとも1種のロジン化合物、少なくとも1種のポリマー及び防汚剤を含むコーティング組成物に関するものであった。

補正後、少なくとも1種のロジン化合物、少なくとも1種のポリマー及び防汚剤を混合することを含む、コーティング組成物を調製する方法に関する新たなクレームが導入された。この方法の唯一の根拠は実施例である。審判部は、添加されるロジンの量が極端に少ない溶液もあれば、極端に多い溶液もあることを確認した。明細書には、確認されたバリエーションがコーティング組成物を製造するために不可欠でないことを当業者に示す記載がなかったため、補正後のクレームの主題は実施例の認められない一般化であるとみなされた(T 200/04)。

例4

当初のクレーム1は、共有メモリ、ディレクトリ及びシリアル化ポイントを含むマルチプロセッシングシステムに関する。シリアル化ポイントは機能的に定義されている。クレーム1は、キャッシュコヒーレンスストラテジの一部として明細書に記載された特徴を追加することにより補正された。審判部は、組み込まれた特徴は、そのように開示されていたとはいえ、キャッシュコヒーレントメモリアクセスアーキテクチャの全体的な開示から恣意的に分離されていたと判断した。少なくとも1つの特徴は、その機能がキャッシュコヒーレンスを達成するために不可欠であるとして提示されていたにもかかわらず、省略されていた。したがって、補正後のクレーム1は、当初の出願から直接かつ明確に導出できるものではなかった(T 166/04)。

3.3 クレームされた主題の一部の削除

対応する実施形態が、例えば、クレーム中に選択肢として、又は明細書中に明示的に規定された実施形態として、元々記載されていた場合、クレームされた主題の一部を削除することは許される。

当初出願 :「充填剤としてグラファイト、タルク、アスベスト又はシリカを含有する…ポリマーブレンドXY」。

先行技術:「アスベストを含有する…ポリマーブレンドXY」。

限定されたクレーム:「充填剤としてグラファイト、タルク又はシリカを含有する…ポリマーブレンドXY」。

複数のリストから選択肢を削除することは、出願当初の出願から直接かつ明確に導出できない新たな技術情報の創出をもたらさない場合にのみ認められる。

特に、具体的特徴の特定の組合せを選別する結果にはならないが、元のグループとはサイズが小さいことだけが異なる一般化されたグループとして残りの主題を維持するような限定は、通常、EPC123条(2)の要件を満たす。

具体的特徴の組み合わせとなるクレームされた主題の一部を削除することは、出願時の出願が、例えば特定の実施形態を参照することにより、その特定の組み合わせに向けた指針を示している場合には、tされる場合がある。

これらの原則は、従属クレームから生じる特徴の組合せにも適用される。

当初のクレーム1:「治療剤とガラス形成性炭水化物とを含む治療用組成物。」

当初のクレーム22:「前記治療剤が、酵素、生物医薬品、成長ホルモン、成長因子、インスリン、モノクローナル抗体、インターフェロン、インターロイキン、及びサイトカインの群から選択される、クレーム1に記載の組成物。」

当初の開示:本明細書では、いくつかの投与方法の一つとして吸入が挙げられている。本明細書において、インスリンはいくつかの治療薬の一つとして挙げられている。

限定されたクレーム1:「治療剤とガラス形成性炭水化物とを含む、吸入による投与に適した治療用組成物。」

従属クレーム10:「前記治療剤がインスリンである、クレーム1に記載の組成物。」

クレーム1における吸入への限定は、1つのリストからの選択によるものであり、出願当初の出願に根拠がある。

従属クレーム10の主題とクレーム1の主題との組合せは、複数のリストからの選択から生じるものであり、出願当初の出願には直接かつ明確に開示されていない。

補正後のクレームされた主題に到達するために行われる結合のための補正の数は、クレームされた主題が出願時の内容を超えているかどうかの評価のために、決定的なものではない。必要なのは、クレームされた主題が出願時の出願に明示的又は暗黙的にであるが、直接かつ明確に開示されているかどうかの分析である。

可能な限り、クレームは、(ディスクレーマのように)主題から何が削除されるかを記載する代わりに、どのような主題が残るかを積極的に示すことによって限定すべきである。

– 「分子量 600から10000 のポリエーテル」を「…分子量1500以上10000まで」に限定(T 433/86)。

3.4 クレームを拡大するその他のケース

独立製品クレームにおける使用又は意図された目的に関する記載を削除することは、出願時の出願が、製品が他の方法でも使用できるという前提の根拠を提供する場合(及び、目的の記載が機能的限定に相当しない場合)に限り、123条(2)の要件を満たす。

当業者にとって自明であるという示唆に基づいて、特定の特徴をより一般的な特徴と交換することによってクレームを拡大することはできない(H-V, 3.2.1も参照)。

さらに、特定の特徴の削除又はより一般的な特徴による置換は、通常、クレームの拡張につながる。したがって、123条(3)の要件は満たされない。

3.5 範囲に関する補正

一般的な範囲と好ましい範囲の両方が開示されている場合、好ましい開示された狭い範囲と、当該狭い範囲の両側の開示された全体的な範囲内にある部分範囲の一つとの組み合わせは、通常、出願の当初の開示から導き出すことができる。

4. ディスクレーマ

4.1 出願当初の出願に開示されたディスクレーマ

この場合において、当初出願は、特定の主題が発明の一部ではないことを既に示している。

否定的特徴は、肯定的特徴と同様に、クレームされた発明を定義するのに役立ち、同じ基準で審査されなければならない。すなわち、新規性を与える可能性があり、肯定的特徴と同様に、進歩性との関連性が評価される。また、84条の要件(明確性、簡潔性、サポート)も満たさなければならず、クレームへの挿入は123条(2)を侵害してはならない(T 170/87, T 365/88)。

例:

– 「…前記伝達手段はコンデンサ素子を含まない」;

– 「…0.05未満のメルトインデックスを有するブレンドは除外される」

否定的特徴も、肯定的特徴と同様に、構造的又は機能的であってよく、物理的実体又は活動のいずれかに関連するものであってよい。

4.2 出願当初の出願に開示されていないディスクレーマ

4.2.1 除外される主題が出願当初の出願に開示されていない(いわゆる未開示のディスクレーマ)

当初出願に開示されていない技術的特徴を除外するために「ディスクレーマ」を使用してクレームの範囲を限定することは、以下の場合、123条(2)に基づき認められる場合がある(G 1/03、G 1/16及びF-Ⅳ, 4.20参照):

(i) 54条(3)に基づく開示に対する新規性の回復;

(ii) 54条(2)に基づく偶発的予見性に対する新規性の回復。「予見性は、クレームされた発明と無関係であり、かつ、クレームされた発明から離れているため、当業者であれば発明を行う際に考慮することはなかったであろう場合、偶発的なものである」。「偶発的」の状態は、利用可能な更なる技術水準を見ることなく判断される。より密接に関連する他の開示があることのみによって、関連する文書が偶発的な予見性になることはない。ある文献が最近接の先行技術であるとみなされないという事実は、「偶発的」の地位を獲得するには不十分である。偶発的な開示は、進歩性の審査には関係しないため、クレームされた発明の教示とは何の関係もない。例えば、同じ化合物が、異なる最終生成物をもたらす全く異なる反応の出発物質として使用される場合がこれに該当する(T 298/01参照)。しかし、本発明から遠ざかるような先行技術の教示は、偶発的な先取りとはならない。新規性を破壊する開示が比較例であることも、「偶発的」の地位を得るには不十分である(T 14/01及びT 1146/01参照);

(iii) 52条から57条に基づき、非技術的理由により特許性から除外される主題の削除。例えば、53条(a)の要件を満たすために「ヒトでない」を挿入することは認められる。

これらの基準は、未開示のディスクレーマの導入にかかわらず、出願時の出願に開示された主題に対する技術的貢献を提供しない可能性がある。(必然的に当初の技術的教示を量的に減少させる)未開示のディスクレーマは、特許性の他の要件に関する出願人又は特許権者の立場を改善するという意味で、当初の技術的教示を質的に変化させることはできない。特に、進歩性の評価や開示の充足性の問題には関係しない。したがって、進歩性の評価は、未開示のディスクレーマを無視して行われなければならない(G1/16参照)。

ディスクレーマは、新規性を回復するため(上記(i)及び(ii)の場合)に、又は非技術的な理由で特許性から除外された主題を放棄するため(上記(iii)の場合)に必要である以上に削除することはできない。

特に、以下の場合には、未開示のディスクレーマは認められない:

(i) 機能しない実施形態を除外するため、又は不十分な開示を是正するために行われる場合;

(ii) 技術的貢献をもたらす場合;

(iii) その限定が進歩性の評価に関連する場合;

(iv) 抵触する出願(54 条(3))のみに基づいて許容されるディスクレーマが、54条(2)に基づく別の先行技術文献であって、クレームされた発明の偶発的予見性ではない文献に対して、発明を新規性又は進歩性のあるものにすること;

(v) 抵触出願に基づくディスクレーマが別の目的、例えば、83条に基づく欠陥の除去にも役立つ。

84条は、クレーム自体にもディスクレーマ自体にも等しく適用される(T 2130/11参照)。

特許の透明性のために、除外された先行技術は規則42(1)(b)に従って明細書に表示され、先行技術とディスクレーマとの関係が示されなければならない。

4.2.2 除外される主題が出願当初の出願に開示されている

適用されるテストは、ディスクレーマの導入後にクレームに残る主題が、それが明示的で又は黙示的である場合に、出願日(又は89条に基づく優先日)において共通の一般的知識を用いた当業者にとって直接かつ明確に出願時の出願に開示されているかどうかである(G 2/10、脚注1a参照)。

このテストは、肯定的に定義された特徴によるクレームの限定の許容性が判断される場合に適用されるテストと同じである(H-V, 3.2参照)。

ディスクレーマの導入後、クレームが123条(2)を侵害するか、又はそれに適合するかを判断する場合、ディスクレーマされた主題が出願時の出願に開示されていることを立証するだけでは判断できない。

当業者が新たな情報を提示されたか否かは、補正後のクレーム、すなわち、補正後のクレームに残存する主題をどのように理解するか、また、共通の一般的な知識を用いて、その主題を出願時の出願に少なくとも暗黙のうちに開示されているとみなすか否かによって決まる。

必要とされるのは、出願時の出願における開示の性質と範囲、ディスクレームされた主題の性質と範囲、及び補正後のクレームに残る主題との関係を考慮に入れた、検討中の個々のケースの総合的な技術的状況の評価である。

この点で、主題の開示が、例えば、化合物や化合物のサブクラス、又は出願時の出願に具体的に記載されていないか暗黙のうちに開示されていない他のいわゆる中間的一般化につながるかどうかを立証しなければならない(G 2/10参照)。

クレームされた主題について発明が機能するかどうか、及びそれによってどのような課題が信頼できる形で解決されるかは、この主題が出願時の出願内容を超えて拡張しているかどうかの評価には関係のない問題である(T 2130/11参照)。

5. 図面の補正

出願公開で使用される図面が最初に提出された図面ではなく、後に提出された図面の方が複製に適しているため、後に提出された図面が使用されることがある(規則56に基づいて提出された図面については、A-Ⅱ, 5及び小項目、規則56aに基づいて提出された図面については、A-Ⅱ, 6及び小項目を参照)。この場合、受理課の手続担当官は、その後に提出された図面が原本と同一であることを確認する。

しかし、その後に提出された図面に123条(2)に抵触するような新たな技術情報が含まれていないことを確認する最終的な責任は審査部門にある。

これらの図面が123条(2)に抵触すると審査部が判断した場合、審査部は出願人に対し、最初に提出された図面と実質的に完全に一致する他の図面の提出を要求する。

通常、123条(2)により、出願に全く新しい図面を追加することは不可能である。なぜなら、ほとんどの場合、新しい図面は明細書の単なる文章から明確に導き出すことができないからである。同じ理由から、図面の補正は123条(2)に適合しているか慎重にチェックされる。

6. 図面から導出される補正

原出願の概念図からのみ導出される詳細に基づいて補正を行う場合には、注意が必要である。

特に、発明の主題の原理を概略的に説明するためだけの図であって、細部まで表現していない図では、開示された教示が、表現されていない特徴を意図的に除外したと結論付けることはできない。

図面における特定の特徴の描き方は偶発的なものかもしれない。当業者は、追加された特徴が、関係する技術的課題の解決に向けられた技術的考察の意図的な結果であることを、明細書全体の文脈の中で、図面から明確かつ間違いなく認識できなければならない。

例えば、クレームにも明細書にもエンジンの位置に関する情報が記載されていない車両に関する出願において、図面には、エンジンの高さの約3分の2が車輪の上面に接する平面より下に位置する車両が描かれている場合がある。「エンジンの高さの主要部分」という一般化された用語を使用して、当該主要部分が所定のレベルより下に位置することを定義する補正は、当業者が、図面から、明細書全体の文脈の中で、車輪に対するエンジンのそのような空間的配置が、実際には、技術的課題の解決に向けた意図的な措置であることを認識することができない限り、123条(2)に抵触することになる。

7. 異議申立におけるクレームカテゴリーの変更

補正は、クレームのカテゴリーの変更という形で、場合によっては発明の技術的特徴の変更と組み合わせて行うことができる。まず、この補正が異議申立の理由(H-II, 3.1参照)により必要であることが明確でなければならない。そうでない場合、カテゴリーの変更は拒絶される。

この条件が満たされていても、クレームのカテゴリーを変更することは、クレームによって付与される保護が拡大される可能性があるため、異議申立部門は細心の注意を払う必要がある(123条(3))。以下に例を示す。なお、これらの例は123条(2)の問題を引き起こす可能性もある。

7.1 製品クレームから使用クレーム

特許が補正され、製品(物理的実体)についてのクレームがこの製品の使用についてのクレームに置き換えられた場合、使用のクレームが現実には効果を達成するための特定の物理的実体の使用を定義し、製品を製造するためのそのような使用を定義しないことを条件として、保護の程度は拡張されない(G 2/88参照)。

7.2 製品クレームから方法クレーム

特許が補正され、製品に対するクレームが製品を製造する方法に対するクレームに置き換えられた場合、現在クレームされている方法が以前クレームされていた製品をもたらすだけである限り、このようなカテゴリーの変更は認められる。製品クレームによって付与される保護は、製品を製造するためのすべての方法をカバーするというのが欧州特許法の基本原則であるため、これらの方法の1つに限定することによって、当初付与された保護を拡張することはできない(T 5/90及びT 54/90参照)。

7.3 方法クレームから製品クレーム

一般に、装置が使用される方法から装置自体へのクレームカテゴリーの変更は認められない(T 86/90 参照)。

ただし、元のクレームが、構造的又は機能的な用語の如何を問わず、クレームされた装置の特徴を網羅的に記載している場合には、装置を操作する方法を対象とするクレームを装置自体を対象とするクレームに置き換えることは例外的に認められる場合がある(T 378/86及びT 426/89参照)。

ただし、この例外は、現在クレームされている装置が、その特徴について、従前の方法クレームの条件下では操作の状況に依存していたが、もはやその状況に依存していない場合には適用されない(T 82/93参照)。

さらに、G 5/83に従ったスイス型クレーム形式の目的限定プロセスクレームから、54条(5)に従った目的限定製品クレームにカテゴリーを変更することは、目的限定プロセスクレームは目的限定製品クレームよりも保護が少ないため、123条(3)に反する(T 1673/11)。

7.4 方法クレームから使用クレーム

製品の調製のための方法から、以前にクレームされたのとは異なる目的での製品の使用への変更は認められない(T 98/85 及び T 194/85 参照)。

他方、ある製品が使用される方法から、同じ方法の実施におけるその製品の使用に対するクレーム への変更は認められる(T 332/94参照)。

8. タイトルの変更

タイトルの唯一の目的は、出願で開示された技術情報を公衆に知らせることである。タイトル は、出願された出願の内容、又は一旦許可された特許による保護には関係しない。さらに、タイトルは、特許が許可される前に出願人が承認する書類の一部ではない。

したがって、タイトルの最終的な責任は部門にあり、出願人からのタイトルの変更要求を受諾するか否かは部門の裁量に委ねられている(A-III, 7も参照)。

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